「オッペンハイマー」題材に核兵器廃絶について考える座談会(2024年4月7日『NHKニュース』)

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原爆を開発した科学者の苦悩を描き、ことしのアカデミー賞に選ばれた映画「オッペンハイマー」を題材に核兵器廃絶について考える座談会が開かれ、参加した専門家からは作品をきっかけに核の脅威を学んでほしいといった意見が出されました。

座談会は被爆者やNGOなどで作る団体が開いたもので、第二次世界大戦中のアメリカで原爆の開発を指揮した理論物理学者のロバート・オッペンハイマーを主人公にした作品で、ことしのアカデミー賞で作品賞や監督賞など7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」を題材に意見が交わされました。

この中で作品で原爆投下後の広島や長崎の様子が描かれなかったことについて、長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授は「一部では批判もあったが核兵器のもたらす被害をあえて描かずに想像してもらうことで、インパクトを与えたとも考えられる。作品全体には核兵器に反対するメッセージが込められていて、作品で描かれなかったことも議論することで、核の脅威を考えるきっかけになるのではないか」と述べました。

一方、アメリカのデュポール大学の教授で現地の学生に核による被害を伝えている宮本ゆきさんは、「原爆を開発した科学者の苦しみを描くのであれば、その原因となった核による被害もきちんと描くべきだ。アメリカでは映画のようなことが起きないようにするために核兵器が必要なんだという核抑止論が今も根強く、作品の中で描かれなかったアメリカ国内の核実験の被害者の存在も知ってもらう必要がある」と話していました。

座談会を開いた「核兵器をなくす日本キャンペーン」の浅野英男さんは「この作品を過去の物語として消費するのではなく、現代に続く問題として自分にできる行動を起こすきっかけにしてもらいたい」と話していました。

映画を見た若い世代は

映画「オッペンハイマー」の日本での公開は3月29日から始まり、配給会社によりますと公開が始まってからの3日間の興行収入は、ことし日本で公開された洋画作品の中で最も高い結果となったということです。

作品を見に訪れる人たちは特に20代が多いということで、映画を見た若い世代の観客からは核兵器への意識や関心が高まったという声が聞かれました。

23歳の男性は「原爆のことをアメリカ側の視点から見るのは初めてでした。学校で学んだ経験はありますが、この作品をきっかけにさらに知識を深めていきたい」と話していました。

28歳の男性は「当時のアメリカで何が行われていたのかを知る機会になりました。核兵器を再び使わせないため日本が『唯一の被爆国』であり続けることが求められると思いました」と話していました。

28歳の女性は「この作品は見ておきたいと思っていて、実際に作品を見て圧倒されるものがあり、原爆に限らず、世界情勢や戦争、世界平和について思いをめぐらせるきっかけになりました」と話していました。

被爆者 佐久間邦彦さん「被爆地を訪れてみてほしい」 

核兵器廃絶を国内外に訴える活動に取り組んできた、広島県被爆者 佐久間邦彦さんは、生後9か月の時に被爆し、小学生の頃から腎臓病と肝臓病を煩うなど体調不良に苦しんできました。

佐久間さんは映画が世界的に話題となったことについて、「私たちは戦争の悲惨さや核の非人道性は若い人たちに伝えてきたが、核兵器が実際にはどういうものなのかを映画を通じて関心を持ってもらうことがきっかけになったと思う」と評価しました。

また、映画で被爆地や被爆者が描かれなかったことについては、「描写がなかったからといって原爆の被害を軽視しているということではないと思うが、キノコ雲の下で何が起きたかというのは重要なことであり、その悲惨さを通して平和をいかに構築するかを考えるべきだ。映画を見て終わるのではなく、核兵器がどういったものかを判断するのためにも映画の中で描かれなかった被爆地を訪れてみてほしい」と呼びかけました。

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