J1浦和が目指す「地域密着」改革 地元チームは使ってくれなかったレッズランドに人と熱気を(2024年4月6日『東京新聞』)

 
<力の源 このまちと>
 国内リーグとともに世界にも目を向けるサッカーJ1浦和には、クラブに関わる人たちの中に、忘れてはいけないもうひとつの思いを当たり前の風景にしたいという情熱がある。関連する一般社団法人レッズランドを担当する浦和ユース出身の小尾(おび)優也主任(37)は、地域をつなぐことに奔走する。

ラグビーや野球にも対応

 「地域を豊かに、ということが僕らの目的。レッズランドという名前があるからと、ここは浦和レッズとかサッカーが好きな人でないといけない、と敷居が高くなってしまうのではなく、ここに地域の人たちが関われることを増やす」。小尾さんがそう語る。
昨年5月のイベントを開催した小尾さん(中)=レッズランドで(レッズランド提供)

昨年5月のイベントを開催した小尾さん(中)=レッズランドで(レッズランド提供)

 さいたま市西部の荒川河川敷。レッズランドは2005年開所のスポーツ施設として、今は浦和の女子チームであるWEリーグ三菱重工浦和の練習拠点で、ラグビー軟式野球に対応できる天然芝サッカー場などは一般の会員登録者に有料利用される。内訳を見ると、近年は「東京都リーグの聖地と思うぐらい」。都内にはアマチュアリーグのチームが利用しやすい施設が少なく、ここに登録している東京のチームは多いという。
 利用してもらえるのはありがたい話。一方で別の背景から「地元の子が使わないような状況になっている」とも。サッカーの街と呼ばれる浦和という地域は行政が管理するグラウンドなどが手ごろな料金で使用でき、地元の子どもらのサッカーでレッズランドは使われてこなかった。

◆ファミリー向けのイベントも

 予算のない中で小尾さんは22年、「子どもたちを地域で育む」を掲げて協賛企業を地元から募り、旧浦和市内に36もあるサッカー少年団に対し、利用しやすい仕組みを設けた。家族連れが参加できる季節ごとの企画も実施。日本代表で地元出身の橋岡大樹(ルートン)や地元ラグビースクールに参加してもらったり。人が集まる場所をつくってきた。
 少年団出身の小尾さんは中・高時代に浦和の下部組織で汗を流し、スタジアム観戦では、01年に浦和に加入して「悪童」と呼ばれたFWエメルソンの快足に驚嘆した一人。大学を経て09年にレッズランドに入り、翌年に浦和の競技運営部門へ。サポーターと意思疎通を図りながら会場を準備する担当を11年間務めた後、レッズランド側から声がかかった。百年構想を掲げるJリーグの理念に基づき「地域での豊かな生活文化の創造」などをうたう施設だが、当時の施設長の「現状は理念に沿っているだろうか」との声に使命を託され復帰した形だ。
昨年5月の大型連休中にレッズランドで開催されたイベントの参加者ら。ミニスポーツゲームやスタンプラリーが用意され、500人以上の子どもたちを含む千人近くが楽しんだという=レッズランドで(レッズランド提供)

昨年5月の大型連休中にレッズランドで開催されたイベントの参加者ら。ミニスポーツゲームやスタンプラリーが用意され、500人以上の子どもたちを含む千人近くが楽しんだという=レッズランドで(レッズランド提供)

 「運営担当だった時は華々しい面しか見えなかったけど、街を回って地域の人たちと向き合うと、遠い存在なんだなと。勝った負けたは興味がある人だけ」。関心のない人も地元にいることを知った。

◆迫力ある応援の一方…

 浦和は22年シーズンのアジア・チャンピオンズリーグACL)を制し、拡大版として刷新される25年のクラブワールドカップ(W杯)にも出場する。観客の声援は相手を圧倒する迫力がある。一方で観客の一部はトラブルを起こし、たびたび問題化する。世界を見据える裏で、レッズという名前が遠い存在になってはいけない。
 「勝敗だけでなく、この街にサッカークラブがあるからこんなことができたよね、と言ってもらえるように」と小尾さん。サッカーを超えた目標だ。(上條憲也)