東日本大震災13年・伝承 持続的活動、行政も積極的に(2024年3月13日『河北新報』-「社説」)

 東日本大震災の急速な風化が懸念されている。時間の経過とともに、家庭や教育現場での伝える力はどうしても弱まりがちだ。行政が民間とも連携しながら、震災の記憶、教訓の持続的な伝承に主体的に取り組む必要がある。被災地に整備された伝承施設をその拠点として積極的に活用すべきだろう。

 河北新報社が震災後に生まれた宮城県内の小学6年生に実施した震災認知度調査では17・7%が震災の発生年月日を正確に回答できなかった。震災について家族で話すことが「ほとんどない」との回答が47・8%、「学校で伝承施設を訪れたことがない」も35・5%を占めた。課題が浮き彫りになったと言えよう。

 今、伝承施設には多くの人が訪れている。新型コロナウイルスの5類移行を受け、教育旅行などが活発化。公益社団法人3・11メモリアルネットワーク(石巻市)によると、岩手、宮城、福島3県の伝承33施設への来場者は2023年、計約156万人とコロナ前を上回り、過去最多を記録した。

 来場者の内訳を見ると、足元の状況が見えてくる。

 例えば、石巻市震災遺構「門脇小」「大川小」。市震災伝承推進室によると、22年度の学校団体見学者のうち、門脇小は県外が58%を占め、大川小もバスで来場した学校の71%が県外だった。地元の学校の利用が少なく、認知度調査の結果と符合する。

 防災学習などで地元の施設を使わない手はない。現場からは、施設までの交通費の負担などが障害として挙げられているようだ。行政の支援が求められよう。

 各伝承施設の開設は石巻南浜津波復興祈念公園(21年3月)、門脇小(22年4月)など、まだ年月がたっていない。話題性が乏しくなれば来場者が減少することも予想される。教育旅行や防災学習による需要喚起とともに、施設の維持・振興も考えなければならない。

 石巻専修大の庄子真岐教授(観光学)は施設の位置付けについて「頻繁には行かないが、なくなっては困るという地域の象徴的な場所になることが伝承の継続につながる。その存在価値を市民が認識できる『価値の見える化』が大事だ」と指摘する。

 民間の語り部育成などソフト面の充実が急務である点も指摘したい。災害は数字や写真だけでは語れない。当時の様子、被災者の声、防災の要諦を伝える語り部が来訪者の心に災害の実相を刻む。施設とは相互補完の関係にある。

 伝承は施設を造って終わりではない。教育や地域振興、観光などの視点を総合的に組み込むことが、持続的な伝承には有効となる。各地の施設は、その拠点として重要性がますます高まるだろう。

 被災地に生きる私たちは今、風化防止の最前線にいるとの意識を強く持ちたい。