国と地方は「主と従」の関係ではないはずだ。政府は今国会で、大規模災害や感染症の蔓延(まんえん)など非常事態時に、国が地方に対応を指示できるよう、地方自治法を改正しようとしている。衆参両院が1993年の決議以降、緩やかにとはいえ醸成してきた「地方分権の推進」と矛盾するのは明らかだ。
現行法では、災害対策基本法や新型インフル特措法など個別の法に規定がある場合のみ、国は地方に指示できる。改正案は、新型コロナ禍で国と地方の調整が難航した例を挙げて「指示権」の必要性を指摘した地方制度調査会(地制調)の答申を受け、非常事態時には個別法に基づかずに「国が必要な指示をできる」としている。
衆参両院は93年、東京一極集中や中央集権的行政の弊害に鑑み、権限や税を移譲し、地方自治体の自主・自律性を強化することが急務だと決議した。2000年施行の地方分権一括法でも、国と地方は「上下・主従」ではなく「対等・協力」の関係と位置付け、国の関与は必要最小限に-とした。
今回の改正案はその流れに逆行するなどとして、日弁連や全国知事会が反対や危惧を表明したのは当然だろう。地制調もかつて、06年の答申では「国が法令や補助金などを通じて地域の課題に関わることで必要以上に画一的な対応が強いられ、住民ニーズからの乖離(かいり)を生じている」と指摘、分権の推進や地方自治の強化を促しているのだからなおさらだ。
確かに災害規模によっては、一自治体だけで対応できないケースも少なくなく、非常事態には現場に一定程度の混乱が生じるのも避けられない。だからといって、国の権限を強化すれば解決すると考えるのは早計に過ぎよう。コロナ禍における安倍政権の全国一斉休校要請に象徴されるように、現場を熟知せぬ「上からの指示」が混乱に拍車をかけることもある。
無論、非常事態時に「調整役」が必要になるのは確かだ。国に限らず、知事会や広域連合なども想定され得るが、あえて指示権を持ち出す必要はあるまい。東日本大震災や能登半島地震でも、そうした調整が奏功し、多くの自治体から支援の手が差し伸べられたことを思い起こしたい。改正案は地方現場の気概や意欲を奪って、自治体を「指示待ち」体質にしかねない。地方自治の理想への歩みが水泡に帰すことを危惧する