自民党裏金議員処分に関するコラム(2004年4月5日)

「どうすりゃいいのさ この国は」(2024年4月5日『山形新聞』-「談話室」)

 

▼▽夜半、ついうたた寝したらしい。目覚めると、つけたままのラジオから懐かしの歌謡曲が流れてきた。「夢は夜ひらく」。半世紀ほど前、歌い手や歌詞を違えて次々出た競作盤を作家五木寛之さんが聞き比べる趣向だ。

▼▽園まり、ちあきなおみ根津甚八ら個性派の後のトリは「圭子の夢は夜ひらく」である。藤圭子の節を「怨歌(えんか)」と名付けた五木さんの話にも力がこもる。赤く咲くケシの花、白いユリの花に比しつつ「どう咲きゃいいのさ この私」と吐露する歌詞は政治の暗喩(あんゆ)だった、と。

▼▽世の中は左と右の両極端の間で揺れていた。知識人も学生も、どう行動したらいいか分からなかった。歌にはそんな心情が投影されている-。五木さんの解説にうなずきながら、思った。ただあの当時は、大衆の迷いや不満をすくい上げる流行歌があった。今はどうだろう。

▼▽社会の溝は半世紀前ほど深くはないのかもしれない。とはいえ自民党派閥の裏金事件で国民の政治不信は高まる。なのに党内処分は直前まで迷走した。そんな様子を見るにつけ口を突いて出るのは「どうすりゃいいのさ この国は」。かつての名曲もどきのフレーズである。

 

「信賞して能を尽くさしむ」「必罰して威を明らかにす」。中国古代の思想家、韓非子が…(2024年4月5日『毎日新聞』ー「余録」

 

自民党党紀委員会で39人の処分を決定し、記者会見する茂木敏充幹事長(中央)。左は田村憲久党紀副委員長、右は逢沢一郎党紀委員長=東京都千代田区の同党本部で2024年4月4日午後6時26分、前田梨里子撮影

自民党党紀委員会で39人の処分を決定し、記者会見する茂木敏充幹事長(中央)。左は田村憲久党紀副委員長、右は逢沢一郎党紀委員長=東京都千代田区の同党本部で2024年4月4日午後6時26分、前田梨里子撮影

首相官邸に入る岸田文雄首相=東京都千代田区で2024年4月4日午前9時47分、平田明浩撮影
首相官邸に入る岸田文雄首相=東京都千代田区で2024年4月4日午前9時47分、平田明浩撮影

 「信(しん)賞(しょう)して能(のう)を尽くさしむ」「必罰(ひつばつ)して威を明らかにす」。中国古代の思想家、韓非子が説く部下の統率術だ。功績を褒めて能力を発揮させ、誤りは罰して威厳を示せというわけだ。「信賞必罰」の由来である

▲褒めて叱って導くのは教育法にも通じる道理だが、「言うは易(やす)く行うは難し」でもある。聖徳太子の「十七条憲法」にも「近ごろ、賞罰の基準がおかしくなっている」と明確化を求める一条がある

▲「宜(よろ)しく私(し)に偏り、内外をして法を異(こと)にせしむべからざるなり」と身内に甘い処分を戒めたのは三国志の英雄、諸葛孔明だ。法や規則は誰にも平等な基準があってこそ機能する

自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で党紀委員会が関与した議員39人の処分を決めた。しかし、伝えられる処分基準は奇々怪々である。明確さも平等性も備わっていない

▲派閥ぐるみで巨額の裏金をキックバックしていた安倍派の処分が重いのは当然だ。だが、同派幹部の間で離党勧告から党の役職停止まで差がある理由は判然としない。政治資金報告書への不記載額が最多の二階俊博元幹事長は次期衆院選不出馬表明を理由に不問に付された。かつて率いた岸田派の元会計責任者が立件されたにもかかわらず、岸田文雄首相も処分の対象外では「ご都合主義」のそしりを免れない

▲そもそも安倍派の裏金作りを誰が主導し、何に使ったのか。その全容は依然、闇の中である。基準も曖昧な処分を「けじめ」と考えるなら、国民を甘く見過ぎている。

 

「殉法」の人どこに、自民党の処分(2024年4月5日『産経新聞』-「産経抄」)

自民党党紀委員会の結果を受け記者団の取材に応じる岸田文雄首相=4日午後、首相官邸(春名中撮影)

 

 シチリア島(イタリア)が古代ギリシャ支配下にあった頃、いまの議会に当たる民会では、刃傷沙汰が絶えなかったという。法律家のディオクレスは「武器を持ち込めば死刑」との法を立てた。

▼後日、軍を率いて戦場に赴こうとしたディオクレスは「民会で内乱の企てあり」と聞き、剣を帯びたまま議場に乗り込む。「見よ、彼は己の作った法律を破った」。市民の声で非を悟ったその人は、手にした剣で迷わずおのが胸を貫いたとされる。

▼『法窓夜話』(穂積陳重著)から引いた故事である。順法というよりは「殉法」だろう。わが国の辞書にない言葉の実践に、法に携わる人の矜持(きょうじ)を見る。

▼時代は下り、立法府のある永田町はかなり景色が異なる。政治資金パーティー収入の不記載事件を巡り、自民党の処分が出る前に身の処し方を語ったのは、その中身の是非はともかく二階俊博氏のみだった。処分は、法に背いた結果に他ならない。

立法府の一員として甘受するのが筋だと期待したものの、不満の声がかまびすしいのはどうしたことだろう。党を束ねる岸田文雄首相が処分対象でないことへの、恨み節も聞かれる。ディオクレス流の政治責任の取り方は、絵空事ということか。落としどころに腐心したであろう首相も、これで幕引きと独り合点されては困る。いわゆる「還流」の実態解明も政治資金規正法の改正もこれからである。

吉野弘さんの詩『風流譚(たん)』から一節を引く。<葭(ヨシ…善)も/葦(アシ…悪)も/私につけられた二つの名前です/どちらの名前で呼ばれてもハイと答えます>。有権者の思いをよそに、永田町には自ら「ヨシ」を名乗る人が多いらしい。殉法の故事も、耳をくすぐる程度の風なのかも。

 

(2024年4月5日『新潟日報』-「日報抄」)

 

 草木が茂ったやぶの中で、侍の死体が見つかった。殺したのは自分だと白状する盗人や、侍が連れていた妻、さらには死んだ侍も巫女(みこ)の口を借りて事の経緯を語る。だが、その言葉は少しずつ食い違う

芥川龍之介の短編「藪の中」である。物語の中で本当のところは明かされない。この小説を語源に、関係者の言葉が食い違うなどして真相が分からないことを「やぶの中」と言うようになった

▼関係者の証言が少しずつずれていて、実相が明らかにならない。このままでは詳細はやぶの中に埋もれてしまいそうなのが、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件である。党による関係議員の処分がきのう決まった。本県関係では安倍派の細田健一高鳥修一の両氏が処分対象になった

▼事実の詳細が分からない中で処分を決めたことには首をひねらざるを得ない。安倍派が資金還流を復活させた経緯や資金の使途の多くは、ほとんど明らかになっていないままだ。処分を受けた後に選挙で当選すれば、みそぎを済ませたとして復権する道も開けよう-。そんな思惑が透けて見える

岸田文雄首相が率いた派閥の会計責任者が立件されたにもかかわらず、首相の処分が見送られたことも疑問視される。立憲民主党をはじめ、野党からは批判の声が吹き出す

▼とはいえ、その立民の梅谷守氏が選挙区で有権者に日本酒を渡した問題も詳細は説明されていない。政界の問題がやぶの中に隠されるばかりなら、有権者の政治不信がまた一つ積み上がる。

 

よみがえる(2024年4月5日『中国新聞』-「小社会」)

  
 通勤路や家の周りでカエルが大合唱するようになった。特に田んぼに水が張られたり、ひと雨降ったりすると、響きがひときわ増す。

 カエルといえば、話題の流行語に「蛙化(かえるか)現象」がある。好きな人に急に嫌悪感を抱く現象という。昨年の本紙に中学生の体験談が載っていた。「付き合い始めた日に彼氏が手をつなぎたがってきて、一気に冷めた」。

 グリム童話「かえるの王さま」に由来するようだ。王女が嫌うカエルが実は魔法を掛けられた王子で、魔法が解けた途端2人は相思相愛に。ハッピーエンドだが、気持ちが一転することから、心理学者が「蛙化」と名付けた。

 初めは期待していたのに興ざめ―。こちらはそんな表れか。岸田政権。2年半前に就任し、一時は支持率が60%に上ったが、いまや20%台に沈む。無理もないだろう。政策に説明不足が目立つ上、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件も国民の目が非常に厳しい。

 きのう事件の関係議員の処分が決まった。「離党勧告」や「党員資格停止」などの重い処分を下したが、肝心の事件の真相は見えないままだ。これで幕引きにするなら、民心は一層離れてしまうのでは。

 処分には党内から反発も出ている。岸田首相はどう手打ちをするのか。自民党では過去、不祥事で重い処分を受けて離党した議員が、2年余りで復党した例がある。「よみがえる」化現象。まさか今回もあるのだろうか。

 

泰然自若と気配り(2024年4月5日『山陰中央新報』-「明窓」)

   

 政界引退を表明し、花束を手に自民党関係者と言葉を交わす平林鴻三氏(左)=200


 「出ろと言われれば出るし、辞めろと言われれば辞める」。自民党総裁選で再選を果たした小泉純一郎首相が衆院解散に踏み切った2003年秋。鳥取県知事を3期9年務め、国政へ転じていた平林鴻三元郵政相は衆院選を控え、議員バッジに固執する姿勢を見せなかったという

▼当時72歳。党の規約による比例区の定年73歳には達していないものの、当選が確実視される中国ブロック上位に位置付ける「純粋比例の名簿登載は原則2回」は既に満了。結局、比例名簿21位で当選を逃し「これからの人生、ゆるりと過ごしたい」と穏やかな表情を浮かべた。泰然自若とした人柄を表したエピソードだ

▼知事時代の1980年、中海の県境設定で島根県と主張をぶつけ合った。鳥取県側の担当は当時地方課長を務めていた片山善博前知事。「平林知事からは『後世に責任を持てる県境に』『島根県との間にしこりを残さないように』と命じられていた」と本紙1面コラム「羅針盤」(2019年10月27日付)に記していた

▼そんな気配りの人が93歳で亡くなった。「厳しい県財政を切り盛りし、その後の県政の礎を築かれた功績は賛辞にあまりある」という平井伸治知事の言葉は大げさではない

▼訃報が伝わったきのう、自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り関係議員を処分した。「記憶にない」と繰り返す後輩たちの姿を古老はどう見ていただろう。(健)

 

神様お願い(2024年4月5日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 胸に湧いた素朴な疑問に、ずばり自分で答えた子どもの詩がある。〈おさいせんをいれるのは/かみさまも/おかねがすきなのです〉(鹿島和夫さん編『一年一組せんせいあのね』理論社

▼それほどお金が好きなのは、なぜなのか。正直な答えは聞かれないまま、ようやく「けじめ」と称する判断が下された。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に対する党内処分である

▼事件で明るみに出たのは、組織的に金を集め、裏金として議員に還流する仕組みだった。政治資金規正法に基づき、司法捜査の網がかけられはしたが、責めを負ったのは主に派閥の事務方職員だった。組織的な不正を国会でただされた幹部議員は、知らぬ存ぜぬの答えに終始し、政治責任の追及は不発に終わった感がある。数々の責任逃れを見せられた後での辛うじての一部議員処分である

▼収支報告書に記載しない裏金の仕組みがどうやって始まり、なぜ必要だったのか、議員らは何に金を使ってきたのか。国民の知りたい真相ははっきりしていない。党トップの岸田文雄首相の責任も不問にされた。これでは形を変えて同じことが繰り返されるだけだろう

▼天網恢々[かいかい]疎にして漏らさず-天の網は粗く見えても決して悪事を逃すことはないと言うが、現実の規正法の網の目が粗すぎるのである。ぜひとも改正が必要だが、果たして今国会で実現できるだろうか

▼おさい銭を投げて、天の神様にお祈りしよう。どうか言い逃れのきかないほど強力な網を、国民に授けてください。

 

表書きの「気持ち」(2024年4月5日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 門出を迎えた人に、お金を包むことがある。いまの時季なら「餞別(せんべつ)」とか、「入学祝い」とか。たいした額でもないくせに、祝儀袋の表書きはなぜだか文字が震える

◆見習いたいのが脚本家向田邦子さんの流儀である。留学する友だちの壮行会で差し出した封筒の表書きは「好日」。賞を受けた人の祝賀会なら「花束」。年賀で訪ねたお宅に幼い子がいれば、「お年玉」ではなく「おもちゃ」。中身に込められた「気持ち」が伝わる心配りである

◆それでも不祝儀には、ごく普通に「御霊前」「御仏前」と書いた。〈知恵が浮かばなかったわけではない。悲しみの日には、人とおなじ顔をして、粛然とうなだれるのが礼儀だと心得ていたのである〉。盟友だった演出家久世光彦さんの回想である

◆パーティーで受け取った祝儀袋の表書きなど目もくれず、しれっと中身だけ抜き取って都合よく使う…。自民党派閥の裏金問題はそんな愚行に似ている。きのう党が関係議員39人を処分した

◆国民に向かって差し出された「離党勧告」「党員資格停止」といった表書きは、粛然とうなだれる礼儀のようなものだろう。ただ、「幕引き」の気持ちも透けて見える。受け取るべきか、いやいやと押し返すべきか。肝心なのは、本当にうみを出し切れたかである。もらう側が気になるのは、やはり中身なのだから。(桑)

 

(2024年4月5日『しんぶん赤旗』-「潮流」)

 あすから新スタートとなるNHK「プロジェクトX」。番組では中島みゆきさんの「ヘッドライト・テールライト」がエンディングテーマとして使われてきました。いまその替え歌がSNSで話題になっています

▼♪キックバック/TELL A LIE(うそをつく)/記録ない/記憶もない/ものまね歌手の清水ミチコさんが自身のユーチューブチャンネルで自民党の裏金問題を痛烈に皮肉っています。「どんな悪事もいいメロディに乗せると感動的になる?」実験だと

▼風刺が効いている、お笑いはこうあるべき、庶民の思いを代弁してくれた―。寄せられる反響の声は、この問題に渦巻く市井の怒りや不信の表れともいえます

政治資金パーティーの裏金事件をめぐり、自民党が安倍派幹部らの処分を決めました。基準もあいまいで適切かどうかも判断できず、自身の派閥も法に違反していた岸田首相の責任も問われない。これは何のため? もやもやだけが残る決め方です

▼組織ぐるみで不正に集めた巨額を裏金とし、使った先も明らかにしない。自分を守るため、組織を守るため、今をのりきればいいと、平気でうそをつく。そんな姿が政治や社会にまかり通ってしまえば、この国の先行きは暗闇に閉ざされてしまいます

▼先の中島みゆきさんの歌は、歩んできた道と、これから進む道という、名もなき人々の人生の旅路を照らします。過去からつづく未来。国民から見放されても省みない現在の自民党と岸田首相に、その道はあるのか。