自民の裏金事件/厳正な処分に程遠い内容だ(2024年4月5日『福島民友新聞』-「社説」)
資金の還流がいつ始まり、誰が主導し、何に使われたのか。実態が全く解明されていない段階での拙速な判断で、処分の基準も曖昧だ。これで事件を幕引きにすることは容認できない。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、党の党規委員会が関係議員39人の処分を決めた。安倍派(清和政策研究会)の衆院側、参院側でトップだった塩谷立、世耕弘成両氏に「除名」に次いで重い離党勧告、同派幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏らには党員資格停止1年を科した。
安倍派「5人衆」の松野博一前官房長官、萩生田光一前政調会長や、二階派幹部の林幹雄氏らは党役職停止1年となった。
政治資金収支報告書への不記載額の程度、派閥幹部などの立場に応じて処分の軽重が決まった。党総裁の岸田文雄首相は、裏金問題に対する厳しい世論を踏まえ、安倍派幹部などは当初の想定より重い処分を判断したとされる。
しかし5年間の不記載額が1千万円未満の議員の多くは、今後の議員活動に大きな影響がない「戒告」、500万円未満の45人は処分の対象にならなかった。
500万円未満であっても、国民の生活感覚では「処分なし」の判断は到底理解されないだろう。全ての関係議員が国民の政治への信頼を損ねた当事者であり、処分されなければならない。
岸田総裁の処分は見送られた。裏金事件で国会の混乱や停滞を招いた責任は極めて重く、党内でも反発が広がっている。これでは「保身のため」との批判は免れずトップの対応として疑問だ。
二階派の二階俊博元幹事長も次期衆院選への不出馬を表明したことで処分対象から除外された。
二階派の元会計責任者は東京地検特捜部に在宅起訴され、二階氏自身の不記載額は3500万円を超える。自らの出処進退で政治責任を取ったとしても、厳正に処分すべきだ。
関係議員を処分するのは当然として、真相を究明し、政治とカネの問題の根絶を図るのが、与党としての最低限の責務だ。衆参の政治倫理審査会などでは全く説明責任が果たされなかった。
野党側は、偽証罪にも問われる証人喚問を自民に求めている。清和会の資金還流は1990年代後半ごろに始まった疑いが持たれており、派閥会長を務めていた森喜朗元首相からも国会で事情を聴く必要があるとしている。
自民が政治とカネの問題に本気で取り組み、信頼回復を図るならば、証人喚問に応じるべきだ。
処分で幕引き許されず(2024年4月5日『福島民報』-「論説」)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は、党内処分によって幕引きとはいかない。真相が結局やぶの中では疑惑は晴れず、本題の政治改革は政治とカネ問題の核心に迫れない。自民党と岸田文雄首相に本気でやり切る覚悟はあるのか、一段と厳しく問われる局面にある。
安倍派元座長の塩谷立氏、参院側会長だった世耕弘成氏は、今回の処分で最も重い離党勧告が科された。派閥の幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏は党員資格停止1年、高木毅氏は党員資格停止6カ月とされた。元事務総長の松野博一氏、元政調会長の萩生田光一氏は多額の不記載がありながら党役職停止1年で折り合いを付けた。他の衆参議員は不記載額の多寡で線引きされたことに疑問や不満が噴出しているという。
党執行部の調整がもつれたのは、裏金問題の実態解明に至らぬ中で処分を先行させた結果に他ならない。党総裁選への思惑も取り沙汰された内向きな舞台回しに、政治不信をまん延させた自覚と責任は感じられなかった。
「不記載を知らなかった」「額のみで処分を区分けるのは公平性に欠ける」といった事情や理屈は党内でしか通じず、結果責任を常に負う一般社会とは隔たりがある。党総裁としてのけじめを付けない岸田首相に対し、民間企業の経営トップとの落差を指摘する声はやまない。処分によっても国民の不信感は尽きず、むしろ深める事態を招いた責任は首相自身にあると受け止めるべきだ。
政治資金規正法改正を巡る議論が衆参両院で本格的に始まろうとしている。処分の根拠や是非、首相の責任追及で不毛の応酬が再び続き、肝心の改革論議が迷走する懸念は拭えない。岸田首相は主導力や党内統治力を問われている場合ではもはやない。国民は、国会や党内論理とは無縁のところで動静を見ていると肝に銘じ、政治改革への決意と信念を形で示してもらいたい。
政治資金規正法は、国民の監視と批判の下で政治活動が行われるよう報告書への収支記載を規定し、民主政治の健全な発達をうたう。厳しい監視と批判は今、政治改革にこそ向けねばならないと県民、国民は胸に刻み、国会の動きを注視していく必要があるだろう。(五十嵐稔)
自民裏金処分 解明置き去り許されぬ(2024年4月5日『秋田魁新報』-「社説」)
自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件に関係した安倍派幹部ら国会議員39人の処分を決めた。選挙で党の支援が得られなくなる離党勧告や党員資格停止を含む内容となった。
だが不正な資金還流がいつ、何のために始まり、誰が継続を決めたのかの経緯は不明のままだ。これで適正な処分などできるはずがない。解明を置き去りにした幕引きは許されない。
党の処分で最も重い除名に次ぐ離党勧告となったのは、安倍派会長代理だった塩谷立氏と参院側会長だった世耕弘成氏の2人。衆院側、参院側でそれぞれ代表的地位にあった。次いで重い党員資格停止となったのは同派幹部を務めた下村博文氏と西村康稔氏の2人で1年間、高木毅氏は半年間。
他の関係議員は2018年から5年間の政治資金収支報告書の不記載額2千万円以上、1千万円以上、500万円以上などの基準で党役職停止や戒告とした。500万円未満の議員は幹事長注意にとどめた。
安倍派の還流を巡っては、22年4月に派閥会長だった安倍晋三元首相が不透明だとして中止を指示。安倍氏の死去後、同年8月の幹部協議を経て復活した経緯がある。
この協議に出席したのは塩谷、世耕、下村、西村の4氏。執行部は特に塩谷、世耕両氏がこの場で還流を止めなかった責任は重いと判断したという。高木氏は協議に加わっていないが、直後に事務総長を務めた。
4氏は経緯を知り得る立場にありながら、先月の衆参両院での政治倫理審査会で「知らぬ存ぜぬ」を繰り返した。責任逃れの姿勢は明白だ。一方、22年8月の協議で還流継続が決まったのかどうかについては証言に食い違いも出た。この点は責任の所在を明らかにする上で重要といえる。
野党は証言にうそやごまかしが含まれていると指摘する。偽証が刑罰の対象となる証人喚問で追及する必要がある。
真相解明は政治資金規正法改正など「政治とカネ」問題の再発防止策を講じる上でも欠かせない。にもかかわらず、党総裁の岸田文雄首相は手を尽くさないまま処分に踏み切った。早く問題を決着させ、政権の立て直しを図ろうとの思惑が透ける。
処分の線引きに対しては、根拠が曖昧だといった疑問が党内からも上がる。元会計責任者が立件された岸田派の会長だった首相の処分がないことについては、処分を受けた議員が「党の代表としての責任はある」と公然と批判した。
既に衆院選不出馬を表明したとはいえ、多額の不記載があった二階俊博元幹事長が除外されたことも疑問だ。これでは国民の理解は到底得られない。
今回の処分対応からも裏金事件に対する党としての真摯(しんし)な反省は見て取れない。政治不信の払拭は一層遠のいたと言わざるを得ない。
自民裏金処分 真相解明の放置許されぬ(2024年4月5日『山形新聞』ー「社説」」/『茨城新聞』-「論説」)
「裏金議員」の処分で一件落着にはならない。このまま真相解明を放置し、幕引きを図るなら、岸田文雄首相の政治改革への決意が疑われよう。
自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、安倍、二階両派の関係議員ら39人に処分を下した。安倍派幹部の塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長に離党勧告、西村康稔前経済産業相と下村博文元政調会長には党員資格停止1年の処分をした。二階派の武田良太元総務相は党役職停止1年だった。
党内規には8段階の処分が定められ、離党勧告は最も重い除名に次ぐ2番目、党員資格停止は3番目に当たる処分だ。
政治資金収支報告書に載せない安倍派の資金還流は、安倍晋三元首相が2022年4月に中止を指示したが、安倍氏死去後の同年8月に開かれた幹部協議を経て復活した。協議に参加した塩谷氏ら安倍派の4氏はその経緯を知りうる立場にありながら、国会の政治倫理審査会では責任逃れの姿勢に終始していた。
塩谷、世耕両氏への離党勧告は、衆院側、参院側でそれぞれ代表的地位にあり、政治責任は重大だと認定されたためだ。
裏金事件で立件されず、除名処分は免れたものの、離党すれば、選挙運動や国会活動で著しく制約を受ける。政治生命に関わるが、党総裁の岸田首相は役職歴や説明責任の果たし方を踏まえ、「厳しく対応する」と述べていた。離党勧告は当然の処分と言っていい。
釈然としないのは、安倍派の実力者「5人組」の間で処分に差をつけたことだ。萩生田光一前政調会長は幹部協議から外れていたとはいえ、不記載額は5年間で2728万円と飛び抜けて多い。それでも処分は、事実上無役である今の立場と変わらない党役職停止1年にとどまった。
安倍、二階両派の幹部以外の処分対象を、収支報告書の不記載額が500万円以上の議員らに絞った根拠も不明瞭だ。国会議員なら不記載が違法であると認識していてしかるべきだ。500万円未満であっても、不記載は議員としての適格性に疑念を抱かせる。
不可解さが残る処分になったのはなぜか。関係議員を軒並み厳格に処分すれば、党内の猛反発に遭って首相の政権運営に支障を来すと判断したのではないか。
立件対象者を除き不記載額が3526万円と最多の二階俊博元幹事長の処分は、次期衆院選への不出馬表明を理由に見送られた。同様の内向きな配慮が働いたと受け止められても仕方あるまい。
裏金還流が誰の指示でいつ始まったのか。また、いったん中止を決めながら誰の主導で再開したのか。首相は安倍派の前身派閥を率いた森喜朗元首相にも聴取したことを明らかにしたが、裏金に関する国民の疑問を解消するには至っていない。
巨額の裏金還流は、民間企業であれば経営陣の進退が問われるほどの不正経理に相当する。岸田派の元会計責任者が立件されながら首相は処分対象外だった。首相は自身に資金不記載はないと主張したが、党トップとしての責任は極めて大きい。自民党は今年の運動方針で「解体的出直し」を誓ったはずだ。首相が本気で政治改革に取り組むのであれば、裏金還流の真相を徹底究明し、その上で改めて処分を断行すべきだろう。
疑惑の解明を置き去りにしたまま幕引きすることは許されない。内向きの論理と中途半端な処分で国民の不信を払拭(ふっしょく)できると考えているのだとすれば、見当違いも甚だしい。
自民党は派閥裏金問題で、安倍派と二階派の現職議員ら計39人に処分を下した。組織的な裏金作りを長年続けてきた安倍派の座長だった塩谷立元文部科学相と、参院側トップだった世耕弘成前党参院幹事長を離党勧告とした。8段階ある処分のうち、除名に次ぎ2番目に重い。
不正を止められる立場でありながら適切な対応を取らず、政治不信を招いた責任が問われた。党執行部は当初、より軽い処分を検討していたが、世論の反発を受けて見直さざるを得なかった。
全ての所属議員らを対象とした党のアンケート調査では、立件された3人を除き、収支報告書への不記載などがあったのは85人に上る。しかし、処分されたのは半数にも満たず、うち17人は厳重注意に相当する戒告にとどまった。
筋が通らない首相不問
金額の多寡にかかわらず、政治資金を収支報告書に正しく記載しなかったことは政治資金規正法に違反する行為である。2021年のコロナ禍の緊急事態宣言下に、銀座のクラブを訪れた3議員が離党勧告となったのに比べても、甘過ぎる処分だ。
対象者を5年間で500万円以上という不記載額で線引きした根拠も不透明だ。一部党幹部だけで決めたという。党内の反発を抑え、対象者を少なくするためではないかとの疑念が拭えない。安倍派幹部の中でも扱いが割れ、党内からは恣意(しい)的な判断だと批判の声が上がる。
何より理解しがたいのは、岸田文雄首相と二階俊博元幹事長が処分されなかったことだ。岸田派と二階派も元会計責任者が規正法違反で立件された。
岸田派の不記載額は3年間で約3000万円に上る。首相は議員に還流していた他派閥との違いを強調するが、派閥が裏金をため込んでいた。トップの責任は重い。
二階氏は次期衆院選への不出馬を表明したため、そもそも党が処分を要請しなかった。だが、不記載額は3526万円と現職議員で最多だ。500万円で線引きをしたのに、処分対象とならなかったのは理屈に合わない。
先月開かれた党大会では規約などが改正された。規正法違反で政治団体の会計責任者の有罪が確定するなどした場合、議員本人に除名か離党勧告の処分を科せるようになった。議員の管理・監督責任を強化したにもかかわらず、自ら範を示して取り組もうとしない首相の姿勢からは、改革への覚悟が見えない。
裏金作りの全容は、検察の捜査終結から2カ月半たっても全く明らかになっていない。使途についても不透明な部分が残る。
安倍派幹部の喚問必要
党紀委員会から離党勧告を受けて自民党に離党届を提出し、記者会見冒頭に頭を下げる世耕弘成氏=東京都千代田区で2024年4月4日午後6時41分、宮武祐希撮影
安倍派の裏金に関しては、会長だった安倍晋三元首相が22年4月、世耕氏ら幹部4人にパーティー券収入の還流廃止を指示した。だが、安倍氏死去後に誰がどのように復活を決めたのか判然としない。政治倫理審査会に出席した派閥幹部は「経緯は知らない」と、責任逃れのような答弁を繰り返すだけだった。
当初は「記憶も記録もない」と強調していた幹部会合を、世耕氏が後から認めるなど、事実を自ら明かそうとしない不誠実な態度が目に付いた。安倍派幹部からは処分に対する不満が出ているが、自身に向けられた疑惑の解明に率先して努めるのが筋ではないか。
首相らによる追加の聴取も、対象や内容が明らかにされていない。真相に迫るには、偽証罪が適用される証人喚問が必要だ。議員が「一切関与していない」と言い張るのなら、秘書や立件された派閥会計責任者からも話を聞かなければならない。
鍵を握るのが、安倍派の裏金作りが始まったとされる時期に会長を務めた森喜朗元首相である。政治家引退後も影響力を保っている。国会で説明すべきだ。
このままでは、自民に対する国民の不満や怒りが募り、政治不信は深まる一方である。政策を推進しようとしても、理解を得ることは難しくなる。
自らけじめを付けられず、内向きの対応に終始する振る舞いが、政治そのものの危機を招いている。自民は、それを自覚すべきだ。
自民党が4日、派閥の政治資金問題で関係議員39人の処分を決めた。本来であれば政治的、道義的な責任を明確にする節目のはずだが、巨額の資金還流や不記載の実態解明はほとんど進んでいない。今回の処分で疑惑を幕引きするような対応は決して許されない。
自民党の党紀委員会は派閥の政治資金パーティー収入の還流問題をめぐり、2018〜22年の5年間で収支報告の不記載が500万円以上あった安倍、二階両派の議員ら39人を審査対象とした。
安倍派座長の塩谷立氏、参院安倍派会長だった世耕弘成氏に「離党勧告」、事務総長経験者の下村博文、西村康稔、高木毅各氏に「党員資格停止」の処分を科した。萩生田光一、松野博一両氏は「党役職停止」とした。
塩谷、世耕両氏らは安倍晋三元首相が資金還流の中止を指示した22年4月の会合と、安倍氏の死去後に対応を協議した同年8月の会合に出席していた。安倍派で指導的な立場だった点を考慮し、8種類ある党の処分で「除名」の次に重い「離党勧告」などとした。
自民党は2月の調査で、現職国会議員82人と支部長3人の計85人に収支報告書の不記載があったと明らかにしていた。今回は過去5年間の不記載が500万円未満の議員は審査の対象外とした。
二階俊博元幹事長は処分対象に含めなかった。次期衆院選の不出馬を表明したが、二階派を率いて自らも5年間で3500万円超の不記載が判明した事実は重い。全体として身内に甘い対応が目立っている。
今回の処分では岸田文雄首相(党総裁)が関係者から事情を聴取し、自ら最後まで調整に当たった。それでも党内には処分の軽重や線引きをめぐる賛否が交錯し、政権党のガバナンス低下を改めて印象づける結果となった。
野党は安倍派の裏金事件の経緯を調べるため、1998年以降に断続的に派閥会長を務めた森喜朗元首相らの国会招致を求めている。自民党は組織的な資金還流が始まった経緯や裏金の使途の解明に協力し、党として有権者にきちんと説明すべきだ。自民党が自浄能力をまず示すことが政治の信頼回復の第一歩となる。
衆参両院は近く特別委員会を設け、再発防止に向けた法改正の議論を本格化する。政治資金の透明化や「連座制」の適用を含む厳罰化を急ぐ必要がある。
自民党が4日、党紀委員会を開き、派閥パーティー収入不記載事件について、安倍派と二階派の国会議員ら39人の処分を決めた。
真相の解明が不十分で、東京地検特捜部の捜査終結後約2カ月半がたってようやく処分したことになる。
安倍派幹部をめぐっては、座長を務めた塩谷立元文部科学相と参院安倍派会長だった 世耕弘成前参院幹事長を2番目に重い離党勧告とした。ほかは党員資格停止、党の役職停止、戒告となった。
塩谷、世耕両氏ら派閥幹部は不記載に関し「知らなかった」などと釈明していたが、還流を止められる立場にいた以上、処分は当然だ。
理解に苦しむのは、岸田文雄首相(党総裁)と二階俊博元幹事長を処分対象から外したことである。
岸田派の元会計責任者は立件されている。首相も処分対象にならなければ筋が通らない。首相は4日夜、政治不信を招いたことを謝罪したが、自らを処分するとは言わず、政治改革を進める考えを示した。これだけでけじめになるのか。
二階氏については、次期衆院選への不出馬表明で政治的責任を取ったと執行部は判断したが、自らの表明と党の処分は区別すべきである。
真相の解明が進んでいないのも問題だ。還流資金を政治資金収支報告書に記載しない慣行に関し、いつ誰が、どのような理由で始めたのかや、安倍晋三元首相の意向で還流中止を決め、その後復活させた経緯などは、いまだに分かっていない。
これでは処分を決めても国民は納得しないだろう。首相や党は引き続き実態の究明に力を尽くすべきだ。噓の証言をしたら偽証罪に問われる証人喚問も検討してはどうか。
真相解明とともに急がれるのは再発防止策を講じることだ。そのためには政治資金規正法の改正が欠かせない。国会議員に直接責任を負わせる改正が分かりやすいが、最低でも連座制を導入することが重要だ。政党から国会議員に支出される政策活動費などの使途公開も求められよう。
自民は方針を決めた上で、速やかに与野党協議に入ってもらいたい。信頼回復には、国会議員の責任の明確化と政治資金の透明性確保が不可欠だ。
自民の裏金事件 首相は自らを処断せよ(2024年4月5日『東京新聞』-「社説」)
自民の裏金議員処分 真相解明の放置許されぬ(2024年4月5日『福井新聞』-「論説」)
自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り安倍、二階両派の関係議員ら39人に処分を下した。安倍派幹部の塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長に最も重い除名に次ぐ離党勧告、西村康稔前経済産業相と下村博文元政調会長には党員資格停止1年、さらには衆院福井2区選出の高木毅前国対委員長には同6カ月の処分を科した。二階派の武田良太元総務相は党役職停止1年だった。
政治資金収支報告書に記載しない安倍派の資金還流は安倍晋三元首相が2022年4月に中止を指示したものの、安倍氏死去後の同年8月にあった幹部協議を経て復活した。協議参加者の塩谷氏ら安倍派の4氏はその経緯を知りうる立場にありながら、政治倫理審査会では責任逃れの姿勢に終始していた。塩谷、世耕両氏への離党勧告は衆参両院でそれぞれ代表的立場にあり、政治責任は重大と認定されたためという。
検察の捜査では立件されずに除名処分は免れたものの、離党すれば選挙運動や国会活動で著しく制約を受ける。政治生命にも関わるが、党総裁の岸田文雄首相が役職歴や説明責任の果たし方を踏まえ、「厳しく対応する」と述べてきた以上、離党勧告は当然の処分と言っていいだろう。
腑(ふ)に落ちないのは、安倍派の実力者「5人組」の間で処分に差をつけたこと。萩生田光一前政調会長は幹部協議には加わっていなかったとはいえ、不記載額は5年間で2728万円と格段に多い。なのに、処分は事実上無役である現状と変わらない党役職停止1年にとどまった。さらには、安倍、二階両派の幹部以外の処分対象を不記載額が500万円以上の議員らに絞った根拠も判然としない。500万円未満であっても不記載は議員としての適格性に疑問符が付きかねない。
関係議員を軒並み厳格に処分すれば党内の猛反発に遭って首相の政権運営に支障を来すと判断したからではないか。同様の内向きの判断は、立件対象者を除き不記載額が3526万円と最多の二階俊博元幹事長の処分が次期衆院選への不出馬表明を理由に見送られたことにも見てとれる。
裏金還流が誰の指示でいつ始まったのか、その目的は何だったのか。また、いったん中止を決めながら誰が主導して再開させたか。国民の不信感の大本は首相自身が追加聴取をしながらそれらが明確になっていないことにある。民間であれば経営陣の進退が問われるほどの問題でありながら、首相は党のトップとしてどう責任を取るのか。「裏金議員」の処分で一件落着にはならない。このまま真相解明を放置し幕引きを図るつもりなら、首相の政治改革への決意が疑われよう。
自民裏金処分 これで幕引きは許されぬ(2024年4月5日『新潟日報』-「社説」)
真相は解明されず、トップにはおとがめがない。納得感のない曖昧な決着と言わざるを得ない。
裏金事件の究明を棚上げしたままの処分で幕引きを図ることは許されない。これでは国民の政治不信を払拭できない。
自民党は、党紀委員会を開き、派閥の政治資金パーティー裏金事件で関係議員の処分を決めた。
党則に基づき、安倍派の衆院側、参院側でトップだった塩谷立、世耕弘成両氏を、除名の次に重い離党勧告とし、下村博文、西村康稔、高木毅の3氏には次に重い党員資格停止を科した。
派閥幹部を務めた責任の重さや、不記載額を考慮した。離党勧告や党員資格停止によって選挙活動や国会活動で制約を受ける。厳しい処分とはいえる。
しかし過去には程なく復党し、要職に就いた例は多い。実効性があるかは疑わしい。
安倍派の問題では、2022年に中止したはずの違法な資金還流が復活した経緯が焦点となった。
国会は衆参両院で政治倫理審査会を開いたが、安倍派幹部が「知らぬ存ぜぬ」を繰り返して真相は明らかにならなかった。
岸田文雄首相はその後、自ら安倍派幹部に聴取したものの、決定的な新事実は出ていない。
実態が解明されないのに処分を決める対応は理解に苦しむ。
処分は当初、80人規模で調整したが、安倍派と二階派の計39人にとどまり、不記載額が500万円未満は党紀委に諮らなかった。
だが、金額による線引きは悪質性を判断できず、不合理だ。
処分の縮小は党内の反発が拡大するのを避けるためとみられ、首相の政治的思惑が透ける。
最大の問題は、岸田首相と二階派領袖(りょうしゅう)の二階俊博元幹事長が処分対象にならなかったことだ。責任の重さや額の大きさを考慮した処分だとしながら、矛盾している。
二階派では元会計責任者が在宅起訴され、二階氏の秘書は2月に有罪が確定した。不記載額は3526万円に上り、立件された議員を除けば最多だ。
二階氏は先月、唐突に次期衆院選に立候補しないと表明したが、それと処分は別の話だ。このタイミングでの不出馬表明は責任回避の逃げにしか映らない。
二階氏は、幹事長在任中に約50億円もの巨額の政策活動費を受け取ったことも問題視される。しかし何の説明もないままだ。
処分されるべき人が免罪されるのでは公平性を欠いている。
岸田派では、元会計責任者が立件されているが、首相は自らを処分しなかった。
これだけ多数の議員が一斉に処分を受け、真相解明もできていないのに、トップが何の責任も取らないというのは、一般の企業ではあり得ないだろう。このままで国民の理解を得るのは難しい。
裏金問題の処分 さらなる政治不信を招く(2024年4月5日『信濃毎日新聞』-「社説」)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、自民党が関係した安倍派、二階派の議員39人の処分を決めた。
安倍派の衆院側と参院側でトップだった塩谷立、世耕弘成の両氏に離党を勧告。同派幹部だった下村博文、西村康稔の両氏は党員資格停止1年とした。
若手、中堅議員の多くは役職停止や戒告だ。一方で、不記載額が500万円未満の45人の議員は幹事長注意にとどめている。
パーティー券の販売ノルマを超えた利益を長年にわたって政治資金収支報告書に記載せず、議員側に還流していた問題だ。2018~22年の5年間だけで裏金は総額5億7949万円に上る。
政治不信が高まり、内閣や自民党の支持率が落ち込んでいる。事実解明と責任追及、再発防止策が不可欠のはずだ。それなのに、裏金がいつ、誰の指示で始まり、何に使ったのか不明だ。どんな事実に基づき責任を問うたのか。
岸田文雄首相や党執行部は、早期に区切りをつけたい思惑があるのだろう。優先するべきは事実の徹底解明だ。関係議員の証人喚問にも応じず、鍵を握るとされる森喜朗元首相への聞き取りも中途半端だ。今回の処分で国民が納得すると考えるなら認識が甘い。
処分基準も曖昧だ。塩谷氏ら4氏は、22年8月に開いた安倍派の幹部協議で、いったん中止を決めていた還流の扱いを協議し、その後復活させた責任を問われた。
違法性を認識していたのか、誰が復活を決めたのかも分かっていない。塩谷氏と世耕氏だけ離党勧告とした理由は説得力を欠く。
岸田首相と二階派会長の二階俊博氏が処分対象外だったことも疑問だ。二階氏は3500万円余の裏金を受け取り、秘書の有罪も確定した。派閥の元会計責任者も在宅起訴されている。次期衆院選への不出馬表明は処分を免れる理由にはなるまい。
塩谷氏は、岸田首相について「同じような処分を受けることが公平」と述べた。岸田派の元会計責任者が立件された責任や、党代表の責任に向き合っていない。
安倍派幹部で裏金額も大きかった萩生田光一前政調会長が、党役職停止1年の処分にとどまったことも実態に合わない。裏金が500万円未満だった議員の多くも説明責任を果たさないままだ。金額だけを処分の線引きをした根拠に合理性は見いだせない。
恣意(しい)的な処分で区切りをつけるつもりなら、政治資金改革の行方は風前のともしびである。
自民裏金処分/解明なき幕引き許されぬ(2024年4月5日『神戸新聞』-「社説」)
自民党はきのう、派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、安倍派の衆院側、参院側でトップだった塩谷立、世耕弘成両氏に対し離党勧告を決めた。8段階ある処分で除名の次に重い。同派幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏には離党勧告に次ぐ党員資格停止1年、高木毅氏は同6カ月など計39人を一斉処分した。
処分対象は、2022年までの5年間の政治資金収支報告書に500万円以上の不記載があった安倍、二階派の国会議員らだ。兵庫県関係では関芳弘、加田裕之、末松信介の各氏が2番目に軽い戒告となった。
組織的な裏金づくりの実態が解明されないまま下された処分は妥当なのか。軽重の「線引き」も曖昧だ。安倍派「5人衆」の松野博一、萩生田光一両氏は党役職停止1年となるが、既に政府や党の役職を退いており実効性は乏しい。
岸田派の会計責任者が立件されたが、岸田文雄首相は自身の処分を見送った。国会では「派閥全体での還付の不記載とは次元が違う」などと述べたが、保身ありきに聞こえる。自ら責任の取り方を示さなければ国民の理解は到底得られまい。
安倍派では22年の幹部会合で、会長だった安倍晋三元首相の意向でパーティー券収入の還流廃止を決めたものの、安倍氏の死去後に方針が翻った。国会の政治倫理審査会(政倫審)に出席した幹部らは不記載を知らなかったと弁明し、還流復活の経緯についても証言が食い違ったままだ。裏金づくりをいつ、誰が何のために始めたのかも判然としない。
疑問は何一つ解消されず、このまま幕引きを図るなど許されない。自民は野党が求める証人喚問に応じるべきだ。裏金化の経緯を知る立場にある同派会長を務めた森喜朗元首相の国会での聴取も欠かせない。
不記載額が3526万円と最も多く、派閥の会計責任者と自身の秘書が立件された二階俊博元幹事長は処分対象から外れた。執行部は次期衆院選に立候補しないと表明した点を踏まえたとするが、党の処分とは別の話だ。二階氏は政倫審に出席せず、最低限の説明責任も果たしていないことを忘れてはならない。
後半国会では政治資金規正法の改正が焦点となる。今月中にも衆院に政治改革を議論する特別委員会が設置される。首相は今国会で規正法を改正すると明言しているが、身内に甘い処分しかできない自民が、厳格化を主導できるかは疑わしい。
国会は真相究明の手を緩めず、政治資金パーティーの規制、会計責任者だけでなく議員も責任を負う「連座制」導入、使途公開義務のない政治活動費の在り方など実効性のある改革へ議論を急ぐ必要がある。
裏金事件の処分 これで幕引きは許されぬ(2024年4月5日『山陽新聞』-「社説」)
全容を解明しないまま適正な処分ができるはずがない。このままうやむやにして済ますつもりなのか。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、同党はきのう関係議員への処分を正式決定した。処分を受けたのは安倍、二階両派の計39人。派閥幹部と2018年から5年間の政治資金収支報告書への不記載額が計500万円以上だった衆参両院議員らだ。
最も重い処分は、安倍派で衆院側、参院側のトップだった塩谷立元文部科学相、世耕弘成前参院幹事長への「離党勧告」である。22年8月の同派幹部協議で、パーティー券の販売ノルマ超過分を議員に資金還流する仕組みを止めなかった責任が強く問われた。
派閥の幹部であり、結果責任を負うのは当然だ。しかし、安倍派でいったん中止と決まった資金還流が存続された経緯は、衆参両院の政治倫理審査会などでも明らかにならず、真相はいまだに闇の中だ。協議の場には当時会長代理の下村博文元文部科学相、事務総長だった西村康稔前経済産業相も同席していた。両氏は党員資格停止1年を科された。離党勧告に次ぐ重い処分だが、裏金づくりの慣習を継続させた責任が誰にあるのか分からない中で、処分の軽重の妥当性は疑わしい。
離党勧告を受けた世耕氏は早速、離党届を提出した。事情を知りうる関係議員が離党した後、調査は尽くされるのか、疑問が残る。処分よりも真相解明を優先すべきだったのではないか。
不記載額が3526万円と、立件議員を除き最多だった二階俊博元幹事長は不問に付された。党執行部は二階氏が次期衆院選への不出馬を表明したことを理由に、党紀委員会に審査の要請さえしなかった。処分対象は不記載額500万円以上と線引きをした一方で、納得し難い判断だ。
二階氏を巡っては、秘書がパーティー券の販売ノルマ超過分を派閥に納めず事務所にプールしたとして有罪になった。二階派の元会計責任者も収支報告書の収入と支出を過少記載したとして在宅起訴された。それにもかかわらず、二階氏は政倫審に出席せず、不出馬表明の記者会見でも側近に回答を任せる場面が目立った。関係議員に「説明責任を促す」としてきた岸田文雄首相(党総裁)の発言に反することは明らかだ。
岸田派も元会計責任者が立件されたが、首相は処分の対象外だった。同派では議員への資金還流がなく、安倍派などとは次元が違うとの説明だが、ずさんな会計処理には変わりない。総裁としての責任も問われよう。
自民執行部は28日投開票の衆院3補選を念頭に、処分を急いだとされる。だが、再発防止のためには真相解明が欠かせない。国会は政治資金規正法の改正議論と並行し、森喜朗元首相らの参考人招致などで解明に努めるべきだ。これで幕引きは許されない。
自民党の裏金処分 国民不在、あまりに見苦しい (2024年4月5日『中国新聞』-「社説」)
政権与党として政治責任を取ったと言えるわけがない。
きのう自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件で、党紀委員会を開き、安倍派と二階派の衆参両議員ら39人の処分を決めた。
組織的な裏金づくりが発覚した安倍派の幹部は、処分に差が出た。派閥の衆参トップの塩谷立、世耕弘成両氏は、党内規で除名の次に重い離党勧告に、事務総長を経験した下村博文、西村康稔両氏は党員資格停止1年とした。一方、萩生田光一氏は、政治資金収支報告書への不記載額が飛び抜けて多いにもかかわらず、党役職停止にとどめた。
安倍派が2022年、派閥のパーティー券販売ノルマの超過分を議員に還流させる慣行を復活させた点を最も重くみたようだ。しかし、幹部は一様に国会の政治倫理審査会で「知らない」「関わっていない」と答弁し、誰が決めたかは解明されていない。
さらに裏金づくりが「20年以上前」に始まったとされ、当時会長だった森喜朗元首相の関わりに疑念は残る。責任の所在を明確にせず、よくも処分を判断できたものだ。お茶を濁してやり過ごしたい党全体の本音が透ける。
還流分を収支報告書に記載しなかった議員らは85人いる。だが、処分対象は派閥幹部を除いて不記載額が500万円以上に限り、党役職停止や戒告とした。不可解な線引きは到底、理解できない。
そもそも裏金づくりは1円たりとも許されない。加えて多くの使途が不明だ。政治活動ではなく私的に使えば脱税であり、選挙応援に充てれば公職選挙法に抵触しかねない。世間の常識とずれた実態が疑われ、それでも調査を尽くさない党の体質に国民が憤っていると分かっていない。
党内の政局や人間関係を優先した甘い判断も目立つ。象徴は二階俊博元幹事長を処分の対象外としたことだ。二階氏は二階派の元会計責任者と自らの秘書が立件されたのを理由に、次期衆院選に立候補しない考えを表明した。党は「政治的責任を取った」としたが、認識違いも甚だしい。不記載額は3526万円と最も多く、幹事長時代の巨額の政策活動費を含めて説明責任を果たしていない。
昨秋に裏金事件が発覚して以降、自民党は国民と向き合わず、政権維持や党内の調整を優先した姿勢を続ける。裏金の調査も政倫審開催も、野党から追及を受けて、しぶしぶ動いたに過ぎない。
処分を巡る過程は、むしろ政治不信をより深めた。岸田派の元会計責任者が立件されたが、岸田文雄総裁への処分はなかった。トップとして政治責任をどう果たすのか。岸田氏は処分決定を受け、政治資金規正法改正など「政治改革へ全力を尽くす」とし、区切りにしたい考えがにじんだ。しかし、実態解明を放置したままでは絵空事に終わる。
離党勧告を受けた塩谷氏は事実に基づいておらず不当と訴え、岸田氏の処分を求めた。あまりに内向きで見苦しい党の姿そのものだ。これで国民の厳しい見方が変わると思うのなら甘過ぎる。
【自民裏金処分】実態解明は終わらない(2024年4月5日『高知新聞』-「社説」)
実態が解明されなければ処分の根拠が明確にならず、納得は得られはしない。説明責任をないがしろにする姿勢では反発を強める。幕引きは許されない。
自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件に関係した議員らの処分を決めた。過去5年間の政治資金収支報告書への不記載総額が500万円以上の議員らと、一部の安倍派幹部を含む計39人を対象とした。
組織的な裏金づくりを続けていた安倍派の衆院側、参院側のトップだった塩谷立、世耕弘成両氏を離党勧告とした。ほかに党員資格停止、党役職停止などを科した。岸田文雄首相と、衆院選不出馬を表明した二階俊博元幹事長は除外された。
離党勧告は8段階ある党処分の中で除名に次いで重い。選挙では党の支援を得られず、衆院では比例復活ができなくなり小選挙区で当選するしかない。国会活動は制約され、政党助成金が受けられなくなるなど資金確保も難しくなる。
世論は厳しい処分を求めている。それを受け止めた厳正な対応を印象づけたいはずだ。低迷する政権を浮揚させる足がかりとしたい思惑もあるだろう。
だが、説明責任を果たさないことへの批判や、裏金を受け取った議員への税務調査を望む世論が多数を占める。この状況が示すように、「政治とカネ」問題に向けられる不信は根強い。処分でそれを払拭しようとしても簡単ではない。
派閥からの還流資金を収支報告書に記載しなかったのは、立件議員らを除き85人だった。議員によって関与の度合いが異なるため、一律処分では不公平との判断から、不記載額の多寡で処分の軽重が判断された。だが、この線引き自体に党内からも批判が向けられる。
重い処分を科せば党内に首相への反発が広がり、総裁再選が遠のきかねない。一方で、次期選挙への不安を抱える若手議員らからは処分が軽いという声も上がる。身動きが取りにくい状況で首相がいかに対応するかが注目されたが、指導力を発揮する姿勢はうかがえなかった。
そもそも、処分の根拠となる実態の解明が進んでいないことが問題だ。安倍派は2022年に資金還流中止を決め、その後に復活させている。しかし、幹部4人は誰がどう決めたのか知らないとし、責任を認めていない。
裏金づくりが始まったきっかけや使途、廃止から復活した理由などが不明のまま処分に踏み込んだのは、問題の収拾を急ぎたいからだと思われても仕方ない。4人の処分が分かれた背景に、今後の政権運営をにらんだ思惑さえ取り沙汰される。これではかえって混迷を深める。
首相は今国会中の政治資金規正法改正に意欲を示す。欠かせないことだが、批判をかわすための対応にとどまるようでは意味がない。実効性のある内容にすることが重要だ。そのためにも解明が不可欠で、実態を曖昧にしたままでは制度の充実は遠のいてしまう。
自民裏金で処分 実態解明せずに幕引きか(2024年4月5日『西日本新聞』-「社説」)
世間体と身内の事情を優先させた処分にしか見えない。裏金事件の幕引きにならないのは当然だ。
派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、自民党は党紀委員会を開いて関係者の処分を決定した。
まず、裏金づくりの実態が解明されていない状態で処分に踏み切ったことに驚く。不祥事が起きた場合、原因や経緯を把握して責任の所在を問うのが社会の常識だ。根拠を欠いたまま、どうして処分ができるのか。
裏金づくりはいつ、誰が発案して始まり、何に使われたのか。関与した議員が記者会見や国会の政治倫理審査会で弁明しても、党が個別に聴取しても、依然として明らかになっていない。党総裁の岸田文雄首相はこれ以上究明するつもりがないようだ。
処分を受けるのは、組織的に裏金をつくっていた安倍派と二階派の幹部、政治資金収支報告書の不記載額が2018~22年の5年間で500万円以上の議員ら計39人だ。
安倍派の衆院と参院のトップだった塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長は、8段階ある処分で除名の次に重い離党勧告となった。
安倍派では安倍晋三元首相がパーティー収入の還流中止を指示したが、死去した後に継続された。それを止めなかった責任を重視したという。当時の会長代理だった下村博文元政調会長、事務総長の西村康稔前経済産業相は党員資格停止にした。
その他の幹部には党員資格停止や役職停止を科し、幹部以外は不記載額に応じて役職停止や戒告となった。不記載額が500万円未満の約40人は幹事長注意にとどめた。
処分の対象者や党内からは不満が噴出している。不記載額が500万円未満でも、政治資金規正法に反する行為に変わりはない。処分の線引きに合理的な理由がないとの批判はもっともだ。首相は党内を統治する力量の不足をまたもさらした。
現職議員の逮捕や起訴に至り、多大な政治不信を招いたにもかかわらず、党最高責任者の岸田首相が不問なのは理解できない。
次期衆院選に不出馬を表明したことを理由に、二階俊博元幹事長が処分を免れたのもふに落ちない。立件された議員を除くと不記載額3526万円は最も多い。説明責任も果たしたとは言えない。
裏金の発端を知る可能性がある安倍派元会長の森喜朗元首相には、岸田首相が直接電話で確認したが「新たな事実は確認されなかった」という。それだけでは不十分だ。
厳しい世論を踏まえ、安倍派幹部への処分は検討当初よりも重くしたとみられる。一方で、政権基盤が不安定にならないように首相のさじ加減もうかがえる。
処分は拙速だった。裏金問題のけじめがついたとは到底言えない。何より国民が納得しないだろう。
自民裏金処分 真相解明の放置許されぬ(2024年4月5日『佐賀新聞』-「論説」)
「裏金議員」の処分で一件落着にはならない。このまま真相解明を放置し、幕引きを図るなら、岸田文雄首相の政治改革への決意が疑われよう。
自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、安倍、二階両派の関係議員ら39人に処分を下した。
安倍派幹部の塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長に離党勧告、西村康稔前経済産業相と下村博文元政調会長には党員資格停止1年の処分を科した。二階派の武田良太元総務相は党役職停止1年だった。
党内規には8段階の処分が定められ、離党勧告は最も重い除名に次ぐ2番目、党員資格停止は3番目に当たる処分だ。
政治資金収支報告書に載せない安倍派の資金還流は、安倍晋三元首相が2022年4月に中止を指示したが、安倍氏死去後の同年8月に開かれた幹部協議を経て復活した。
協議に参加した塩谷氏ら安倍派の4氏はその経緯を知りうる立場にありながら、国会の政治倫理審査会では責任逃れの姿勢に終始していた。
塩谷、世耕両氏への離党勧告は、衆院側、参院側でそれぞれ代表的地位にあり、政治責任は重大だと認定されたためだ。
裏金事件で立件されず、除名処分は免れたものの、離党すれば、選挙運動や国会活動で著しく制約を受ける。政治生命に関わるが、党総裁の岸田首相は役職歴や説明責任の果たし方を踏まえ、「厳しく対応する」と述べていた。離党勧告は当然の処分と言っていい。
釈然としないのは、安倍派の実力者「5人組」の間で処分に差をつけたことだ。萩生田光一前政調会長は幹部協議から外れていたとはいえ、不記載額は5年間で2728万円と飛び抜けて多い。それでも処分は、事実上無役である今の立場と変わらない党役職停止1年にとどまった。
安倍、二階両派の幹部以外の処分対象を、収支報告書の不記載額が500万円以上の議員らに絞った根拠も不明瞭だ。
国会議員なら不記載が違法であると認識していてしかるべきだ。500万円未満であっても、不記載は議員としての適格性に疑念を抱かせる。
不可解さが残る処分になったのはなぜか。関係議員を軒並み厳格に処分すれば、党内の猛反発に遭って首相の政権運営に支障を来すと判断したのではないか。
立件対象者を除き不記載額が3526万円と最多の二階俊博元幹事長の処分は、次期衆院選への不出馬表明を理由に見送られた。同様の内向きな配慮が働いたと受け止められても仕方あるまい。
裏金還流が誰の指示でいつ始まったのか。また、いったん中止を決めながら誰の主導で再開したのか。首相は安倍派の前身派閥を率いた森喜朗元首相にも聴取したことを明らかにしたが、裏金に関する国民の疑問を解消するには至っていない。
巨額の裏金還流は、民間企業であれば経営陣の進退が問われるほどの不正経理に相当する。岸田派の元会計責任者が立件されながら首相は処分対象外だった。首相は自身に資金不記載はないと主張したが、党トップとしての責任は極めて大きい。
自民党は今年の運動方針で「解体的出直し」を誓ったはずだ。首相が本気で政治改革に取り組むのであれば、裏金還流の真相を徹底究明し、その上で改めて処分を断行すべきだろう。(鈴木博之)
自民裏金処分 解明なき幕引き許されぬ(2024年4月5日『熊本日日新聞』-「社説」)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、党紀委員会は4日、還流資金の収支報告書への不記載があった安倍、二階両派39人の処分を決定した。厳しい世論を踏まえ、安倍派幹部の一部に離党勧告を科すなど当初の想定より重い処分に踏み切った。
岸田文雄首相には、党総裁として厳正に処分することで指導力を示し、低迷する支持率の回復につなげる狙いがあるようだ。
しかし、裏金の実態解明を進めずに幕引きを図るようなやり方では、国民の理解が得られるはずもない。
処分の判断基準もあいまいで、異論や反発が党内外から噴出している。疑惑は晴れず、新たな火種を抱える結果となっており、政権運営は一層厳しさを増しそうだ。
還流資金を収支報告書に記載しなかったのは、立件された議員らを除く85人。このうち過去5年間の不記載額が計500万円以上の39人を処分対象とした。
中でも安倍派の衆院側、参院側のトップだった塩谷立、世耕弘成両氏を党則で2番目に重い離党勧告処分、同派幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏を選挙非公認より1段階重い党員資格停止1年にした。資金還流を再開させた2022年8月の同派幹部協議に関わった4人の責任を重いと判断したという。
しかし、処分の判断基準は分かりにくい。不記載額が1千万円を超えているにも関わらず、協議に参加しなかった安倍派「5人組」の高木毅氏を党員資格停止6カ月、松野博一氏と2千万円を超える萩生田光一前政調会長は党役職停止1年にとどめた。多くの議員は戒告や幹事長注意で、政治活動に大きな影響がない。法律を作る立場の国会議員が法律違反をしたという事の重大さがまったく伝わってこない。
しかも、派閥の元会計責任者と自身の秘書が立件された二階俊博元幹事長と、派閥の元会計責任者が立件された首相の処分は見送られた。二階氏の不記載額は3526万円に上っている。次期衆院選への不出馬表明を重く受け止めて不問に付すというのは納得しがたい。裏金づくりへの関与が疑われる森喜朗元首相への調査もあいまいで、責任与党としての責任を果たしているとは言い難い。
首相が幕引きを急ぐ背景には、これ以上裏金問題が長引けば、今後の選挙や9月の総裁選が戦えないという強い危機感がある。今月28日投開票の衆院トリプル補選では、東京15区と長崎3区で公認候補擁立を見送るという「不戦敗」の決断を余儀なくされた。
首相は3日、派閥裏金事件の再発防止に向け、政治資金規正法改正の原案作成を加速するよう党内の実務者に指示した。
とはいえ、裏金の実態解明を棚上げしたままでは再発防止などできるはずがない。党内の利益や保身にばかり目を向ける政治をいつまで続けるのか。不透明な「政治とカネ」の仕組みを今回こそ改めるべきだ。
自民裏金39人処分 一件落着 とんでもない(2024年4月5日『沖縄タイムス』-「社説」)
真相が解明されないまま、処分が下される摩訶不思議。その基準もあいまいで、けじめには程遠い。
自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、安倍派と二階派の議員に対する処分を決定した。
政治資金収支報告書に不記載のあった39人を処分するという内容は、郵政民営化関連法案採決を巡り、59人に除名や離党勧告などを科した2005年10月に次ぐ大規模なものである。
しかし問題は、前提となる事件の真相が分からないことだ。なぜ裏金づくりが始まったのか。キックバック(還流)が復活した背景に何があったのか。その金は何に使われたのか。一つ一つを明らかにすることが先であり、その上で処罰が決まるのが当然だ。
処分によって裏金問題の幕引きを急いだと指摘されても仕方ない。このまま事件をうやむやにすることは決して許されない。
党紀委員会による処分は「除名」「離党勧告」「党員資格停止」のほか「党の役職停止」「戒告」など8段階ある。
今回最も重い処分となったのは、組織的な裏金づくりを続けていた安倍派の衆参トップだった塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長だった。
2氏は資金還流の復活に関わる協議にも参加し、経緯を知る立場にあった。政治責任は重い。離党すれば、選挙活動の際に党の資金援助や幹部の応援などがなくなる。除名に次ぐ処分は当然だ。
■ ■
安倍派の幹部を務めた下村博文元政調会長、西村康稔前経済産業相は「党員資格停止1年」、政治資金収支報告書への不記載額が多かった萩生田光一前政調会長や事務総長経験者の松野博一前官房長官には「党役職停止1年」が科された。
派閥幹部以外では不記載額に応じ処分が決まったほか、500万円未満の45人は厳重注意にとどまった。
だが本来、金額の大きさで線引きできる問題ではない。キックバックを受けたのなら全員を処分すべきである。
萩生田氏らは現在無役であり、今回の処分がどれほど影響を与えるかも疑問である。塩谷氏や世耕氏らも含めた処分の軽重について、何を基準にどう判断したのかあいまいだ。
今後、時がたてば何事もなかったかのように元に戻るのではないか。国民の目には、ほとぼりが冷めるまでの「お仕置き」にしか映らない。
■ ■
岸田文雄首相が処分の対象外となったことも、大きな問題である。岸田派は元会計責任者が立件されており、党をあずかるリーダーとしての責任は重大だ。
立件対象者を除き不記載額が3526万円と最多の二階俊博元幹事長は、次期衆院選への不出馬を表明したため処分の対象外となった。多額の資金還流があったことが疑われるにもかかわらず、処分なしとは理解に苦しむ。
後半国会の最大の課題は政治資金規正法の改正だ。会計責任者だけでなく、議員本人も責任を負う連座制の導入が不可欠だ。
自民党裏金処分(2024年4月5日『しんぶん赤旗』-「主張」)
幕引き図るも深まる自己矛盾
見え見えの真相解明の幕引き。しかし、そうすればするほど深刻な矛盾と混迷を深めることになる―。政治資金パーティー裏金事件をめぐり、自民党が4日発表した所属議員の処分内容です。
■岸田、二階氏除外
処分されたのは安倍派、二階派の39人です。2月に公表した党内調査で明らかになった裏金議員・党支部長は85人にのぼりますが、「5年間で500万円以上の裏金額」で線引きしたため、処分議員は半数以下となりました。
金額がどうであろうと裏金は裏金です。この線引き自体、主要派閥がそろって政治資金収支報告書を偽造していたという重大な組織的犯罪への反省がないことを示しています。
処分のでたらめさも際立ちます。岸田文雄首相(党総裁)が会長を務めていた岸田派は、約3000万円の裏金づくりで元会計責任者が有罪になりましたが、岸田首相には処分はありません。離党勧告、役職離脱などの処分を自ら行えば、内閣総辞職になりかねないという自己矛盾です。
まともな処分をすれば自民党そのものが壊れる。今回の裏金事件は、特定の企業(業界)が特定の政治家に賄賂を渡し政治をゆがめるというものではなく、自民党政治丸ごとのゆがみだということを象徴しています。
二階派も約2億円の裏金づくりで会計責任者が在宅起訴されています。会長の二階俊博元幹事長は3526万円の裏金額トップにもかかわらず、「次期総選挙の不出馬」を理由に処分から除外しました。党内からも不満があがって混迷しています。
国民からもSNSを含め「真相解明なきお手盛り処分だ」「やっぱり“上に甘く下に厳しく”か」など怒りの声が広がっています。
■「離党」ですぐ復党
今回の処分では、キックバック(還流)の扱いを協議した安倍派幹部らを「離党勧告」「党員資格停止」「党の役職停止」などの処分としました。
「離党勧告」といっても、ほとぼりが冷めれば速やかに復党させるのが自民党の常です。現に、新型コロナの緊急事態宣言中に東京・銀座のクラブ通いが発覚し「離党勧告」を受けた松本純前衆院議員は1年後にあっさり復党しています。「役職停止」といっても、安倍派幹部はすでに処分前に党役員から外れており、実効性のないものです。
安倍派幹部はこの間、衆参両院で開かれた政治倫理審査会で「知らぬ存ぜぬ」の弁明を繰り返してきました。裏金システムはだれが何のためにつくり、何に使ったのか。いったん廃止を決めた裏金の還流を安倍晋三元首相死去後復活させたのは何のためか。
うその証言をすれば偽証罪に問われる証人喚問を実現し、安倍派幹部、裏金づくりを始め還流の復活に関わっていた疑いのある森喜朗元首相らをそろって出席させて真相解明を進めることが不可欠です。
自民党は、真相解明の早期幕引きをはかりながら、米国や財界・大企業の要望に応える暴走政治を強めています。こんな自民党政治を国民的大運動で一刻も早く終わらせようではありませんか。