日銀 植田総裁 記者会見 マイナス金利政策解除(2024年3月19日『NHKニュース』)

日銀の植田総裁は金融政策決定会合のあとの記者会見で「マイナス金利政策などこれまでの大規模な金融緩和策は、その役割を果たしたと考えている」と述べた上で、当面は緩和的な金融環境を続けていく考えを強調しました。

この中で植田総裁は「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した。これまでのイールドカーブ・コントロール、およびマイナス金利政策といった、大規模な金融緩和策は、その役割を果たしたと考えている」と述べました。

その判断の理由について植田総裁は「春闘での賃金の妥結状況は重要な判断のポイントの1つであるので、実際その通りに判断の大きな材料にした。大企業の賃金の動向をみると、中小企業は少し弱いということはあっても全体としてはある程度の姿になるのではないかということで今回の判断に至った」と述べました。

その上で、今後の利上げについて「金利を引き上げるペースは経済物価の見通し次第になる。ただし、現在、手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というのは避けられるとみている」と述べ、当面は緩和的な金融環境を続ける考えを強調しました。

また今回の決定でこれまでと同じ程度としている長期国債の買い入れ額について「大規模な緩和の終了後はバランスシート縮小を視野に入れていくというつもりでいる。将来のどこかの時点で買い入れ額を減らしていくということも考えたいと思うが、今、具体的に申し上げられる段階ではない」と述べました。

一方、マイナス金利政策の解除が日本経済に与える影響について貸出金利や預金金利の設定は各金融機関の判断だとした上で、「短期金利の上昇は0.1%程度にとどまる。また、これまでと同程度の国債買い入れを継続し、長期金利が急激に上昇する場合は機動的に買い入れオペの増額などを実施する方針で、預金金利や貸出金利が大幅に上昇するとは見ていない」と述べ、影響は限定的だという見解を示しました。

さらに、これまでの大規模緩和について「異次元の緩和は、一応、役割を果たしたと考えている。異次元の緩和は終了したが、過去に買った国債が残高として大量にバランスシートに残り、同じことはETFについても言える。過去の異次元の緩和の遺産のようなものは当面そういう意味では残り続ける」と述べました。

【詳報】

記者会見の質疑応答を詳しくお伝えします。

「大規模な金融緩和政策は、その役割を果たした」

植田総裁は「賃金と物価の好循環を確認し、2%の『物価安定の目標』が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した。これまでのイールドカーブ・コントロールおよびマイナス金利政策といった、大規模な金融緩和政策は、その役割を果たしたと考えている」と述べました。

「当面、緩和的な金融環境が継続」

植田総裁は、「短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営する。現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と述べました。

「賃金と物価の好循環の強まり確認」

植田総裁はマイナス金利政策の解除など大規模な金融緩和策の転換に踏み切った背景について、「ことしの春闘では昨年に続き、しっかりとした賃上げが実現する可能性は高く、企業からのヒアリング情報でも幅広い企業で賃上げの動きが続いているとうかがわれる。これまでの緩やかな賃金上昇も受けてサービス価格の緩やかな上昇が続いている。このように最近のデータやヒアリング情報からは賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、物価安定の目標が持続的、安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した」と述べました。

「預金金利や貸出金利が大幅に上昇するとは見ていない」

植田総裁は、今回のマイナス金利の解除でいわゆる「金利のある世界」が戻ることの日本経済への影響について、「貸出金利あるいは預金金利は今回の政策変更を受けて市場金利が多少変化するが、その動向を踏まえて各金融機関の判断で設定されると思う。もっとも今回の政策変更に伴う短期金利の上昇は0.1%程度にとどまる。また、これまでと同程度の国債買い入れを継続し、さらに長期金利が急激に上昇する場合は機動的に買い入れオペの増額などを実施する方針だ。このため、今回の措置を受けて預金金利や貸出金利が大幅に上昇するとは見ていない」と述べ、影響は限定的だという見解を示しました。

また先行きについても「現時点の経済物価見通しを前提にすると当面、緩和的な金融、経済環境は継続すると考えているので、こうした緩和的な金融環境が経済と物価をしっかりと支える方向に作用するとみている」と述べました。

金利水準は市場が決める」 

植田総裁は、「国債買い入れは当面これまでと同程度の額で継続するが、その上で金利水準は市場が決めるものというふうに考えている。ただし、金利が急激に上昇する場合は機動的なオペを打つということはバックストップとして担保しておきたい」と述べました。

長期国債の買い入れ「バランスシート縮小を視野に」

植田総裁は長期国債の買い入れについて「大規模な緩和の終了後はバランスシート縮小を視野に入れていくというつもりでいる。将来のどこかの時点で買い入れ額を減らしていくということも考えたいと思うが、今、具体的に申し上げられる段階ではない」と述べました。

利上げのペース「急激な上昇は避けられる」

植田総裁は今後の利上げのペースについて「金利を引き上げるペースは経済物価の見通し次第になる。ただし、現在、手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というのは避けられるとみている」と述べました。

春闘の結果「判断の大きな材料」

植田総裁は、大幅な賃上げが相次いだ今回の春闘の結果について、「予告してきたように春闘での賃金の妥結状況は重要な判断のポイントの1つであるので、実際その通りに判断の大きな材料にさせていただいた」と述べました。

利上げの判断「物価見通し上振れ 上振れリスクが高まれば」

植田総裁は今後の利上げの判断について「おおまかには物価見通しがはっきり上振れるとか、中心見通しがそれほど動かないまでも上振れリスクが高まることがあれば、政策変更の理由になると思う」と述べました。

緩和的な金融環境「物価上昇率2%下回っている間は続く」

植田総裁は物価目標の達成まで緩和的な金融環境を続けるのか問われたのに対して「理屈上は基調的な物価上昇率がまだ2%には達していないと考えている。2%を下回っている間は広い意味では緩和的な金融環境が続くということだと思うが、基調的な物価が上昇していけばだんだん緩和の程度は縮小していくということだと思う」と述べました。

中小企業の賃上げ「ヒアリング先の半分以上 賃上げ計画」

植田総裁は中小企業の賃上げの広がりをどのように判断したのかについて「今回は、短観で調査している中堅・中小企業よりも、さらに小さい事業者も含めてヒアリングを実施した。その結果、ヒアリング先の半分以上の所から賃上げの計画があるという回答を得たということも1つの情報になった」と述べました。

そのうえで「特に小規模の企業はなかなか賃金を上げるのは大変なところも多いことは認識しているが、小規模企業は、全体あるいは大企業がどういう賃金設定をしていくかということを見つつ自分たちの賃金設定も決めていくという傾向がある。その点も加味して今後の中小企業の賃金の動向を予想した」と述べました。

円安「物価見通しに大きな影響なら対応」

植田総裁は、日銀が大規模な金融緩和策を転換したのにも関わらず、外国為替市場で円安が進んでいることついて「為替の短期的な動きについてはコメントを差し控えたいと思います。ただし、それが私どもの経済・物価見通しに大きな影響を及ぼすということになれば当然、金融政策としての対応を考えていくことになる」と述べました。

中小企業の賃上げ動向「全体としてはある程度の姿に」

植田総裁は中小企業の賃上げ動向について「ある程度の情報は収集し、これまでの中小企業の行動パターンを見て今後、こうなりそうかという予想もしているが、絶対、ある程度以上上がるという自信や根拠があってということでは必ずしもない。ただし、ここまでの大企業の賃金の動向をみると、中小企業は少し弱いということあっても全体としてはある程度の姿になるのではないかということで今回の判断に至った」と述べました。

「『異次元』の緩和は一応役割を果たした」 

植田総裁はこれまでの金融政策について「『異次元』の緩和は、一応役割を果たしたと考えている。どういう役割を果たしたかについては、現在、レビューを実施中であり、わりと近い将来にその結果を発表できることになるかと思う」と述べました。

そのうえで「『異次元』の緩和は終了だが、過去に買った国債が残高として大量に、バランスシートに残り、同じ事はETFについても言える。過去の異次元の緩和の遺産のようなものは当面そういう意味では残り続ける」と述べました。

新たな短期金利の調整方針「『ゼロ金利政策』でない」

植田総裁は、マイナス金利解除後の新たな短期金利の調整方針の呼び方を問われたのに対して、「特にそれを『ゼロ金利政策』と呼ぼうとは考えていない」と述べました。

「世界経済あらゆるリスク 国内消費回復しないリスク」

植田総裁は今後の経済のリスクについて、「下振れリスクとしては世界経済でありとあらゆるリスクがあり、世界の金融資本市場にマイナスのショックが起こるということはある。国内では消費が思ったような回復をしてこないというのが下振れリスクとしてある。また、上振れリスクとしては、企業の賃金と価格の設定行動がインフレ期待の上昇を伴いつつ上向きになっているが、これがどこかで大きく上に振れてしまうリスクが、今のところ大きくはないが頭の中に置いておかないといけない」と述べました。

ETF処分「確たることは申し上げられない」

植田総裁はETF=上場投資信託の売却を含めた処分について「どうすべきかは常に考えていると申し上げて良いと思う。具体的に、いつからどういうふうに処分を始めるかという点は、現在、確たることは申し上げられない」と述べました。

利上げ幅「適切な政策金利水準を設定していきたい」

植田総裁は0.1%の利上げ幅が小幅ではないかと問われたのに対して「マイナス金利も2016年以降続いていたし、低金利も長い時代続いた中での最初の利上げ方向の動きだったことを意識した。いずれにせよ今後、経済物価見通しをきちんと作って、それに沿った適切な政策金利水準を設定していきたい」と述べました。