孤立・避難…それでも故郷に戻りたい 能登・輪島で住民たちが心配事聞き取りやイベントで奮闘(2024年4月4日『東京新聞』)

 
 石川県輪島市深見町は能登半島地震で孤立し、住民らはヘリコプターで救助され、避難した。散り散りになるのを防ごうと、地元に今後戻るかどうかの意向を聞き取るアンケートを住民主体で実施し、復興に向けた花見イベントも企画した。活動の中心となった住民らは「行政の動きを待つのではなく、自分たちにできることをやっていこう」と考えている。(浜崎陽介)
 
ほれ込んだという深見町の景色を背に、復興に向けて力を尽くすことを誓う佐藤克己さん=石川県輪島市深見町で

ほれ込んだという深見町の景色を背に、復興に向けて力を尽くすことを誓う佐藤克己さん=石川県輪島市深見町で

◆アンケート回答の全世帯が「帰りたい」

ヘリコプターに乗り込む住民ら=1月8日、石川県輪島市深見町で(佐藤克己さん提供)

ヘリコプターに乗り込む住民ら=1月8日、石川県輪島市深見町で(佐藤克己さん提供)

 「地面が波打ち、山が崩れる音が聞こえた」。町内で民泊を営んでいたNPO法人「紡ぎ組」の理事長佐藤克己さん(57)は振り返る。震災前の町の住民は72世帯約130人。至る所で土砂崩れが起きたが、奇跡的に亡くなった人はいなかった。だが、輪島市中心部から続く国道249号が土砂崩れで寸断し、集落は孤立した。
 自衛隊のヘリコプターが救助に来たのは1月6日。地元に残りたがる人が多く、総区長の山下茂さん(74)や佐藤さん、町内の消防団員が「慣れ親しんだ場所だけど、命の危機が迫っている」と説得した。ほとんどの住民が避難を決め、同県小松市粟津温泉の旅館に移った。
 避難生活が続くと、不安を口にする人も少なくなかった。2月上旬、佐藤さんの発案で、各世帯に家の状態や心配事を聞き取るアンケートを実施。今後の住まいについては、回答した全世帯が自宅に戻るか、家が壊れている場合でも町に戻ることを希望した。
 
石川県小松市に避難している深見町の各世帯に取ったアンケート

石川県小松市に避難している深見町の各世帯に取ったアンケート

◆外から来た人間…でも「好きな町のために」

 佐藤さんはスローライフを求め、2014年に東京都府中市から移住した。日本海に向かって広がる田畑や、里山が連なる風景に魅了され、居を定めた。畑で育てた野菜はどこで食べるよりおいしかった。「紡ぎ組」を立ち上げ、輪島市地域活性化に取り組んできた。
 集落の住民は70代や80代が大半で、50代の佐藤さんは若い方。地震が起き「自分は外から来た人間だから」という躊躇(ちゅうちょ)もあったが「好きな町のために、動ける者ができることをやらなければ」と心に決めた。
 山下さんらと協力し、3月には町の復興協議会が発足。4月7日には桜が咲く旧深見小学校で、町民が飲食物を販売する花見イベント「深見町復興祭」を開く。地震以後、地元に戻れていない人もおり、バスを借り、小松市に避難中の住民たちも訪れる予定だ。佐藤さんは「こんな時だからこそ、花見をしてリフレッシュできたら。若い人にも興味を持って来てもらいたい」と願っている。