◆アンケート回答の全世帯が「帰りたい」
「地面が波打ち、山が崩れる音が聞こえた」。町内で民泊を営んでいたNPO法人「紡ぎ組」の理事長佐藤克己さん(57)は振り返る。震災前の町の住民は72世帯約130人。至る所で土砂崩れが起きたが、奇跡的に亡くなった人はいなかった。だが、輪島市中心部から続く国道249号が土砂崩れで寸断し、集落は孤立した。
自衛隊のヘリコプターが救助に来たのは1月6日。地元に残りたがる人が多く、総区長の山下茂さん(74)や佐藤さん、町内の消防団員が「慣れ親しんだ場所だけど、命の危機が迫っている」と説得した。ほとんどの住民が避難を決め、同県小松市の粟津温泉の旅館に移った。
避難生活が続くと、不安を口にする人も少なくなかった。2月上旬、佐藤さんの発案で、各世帯に家の状態や心配事を聞き取るアンケートを実施。今後の住まいについては、回答した全世帯が自宅に戻るか、家が壊れている場合でも町に戻ることを希望した。
石川県小松市に避難している深見町の各世帯に取ったアンケート
◆外から来た人間…でも「好きな町のために」
佐藤さんはスローライフを求め、2014年に東京都府中市から移住した。日本海に向かって広がる田畑や、里山が連なる風景に魅了され、居を定めた。畑で育てた野菜はどこで食べるよりおいしかった。「紡ぎ組」を立ち上げ、輪島市の地域活性化に取り組んできた。
集落の住民は70代や80代が大半で、50代の佐藤さんは若い方。地震が起き「自分は外から来た人間だから」という躊躇(ちゅうちょ)もあったが「好きな町のために、動ける者ができることをやらなければ」と心に決めた。
山下さんらと協力し、3月には町の復興協議会が発足。4月7日には桜が咲く旧深見小学校で、町民が飲食物を販売する花見イベント「深見町復興祭」を開く。地震以後、地元に戻れていない人もおり、バスを借り、小松市に避難中の住民たちも訪れる予定だ。佐藤さんは「こんな時だからこそ、花見をしてリフレッシュできたら。若い人にも興味を持って来てもらいたい」と願っている。
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