確実な記憶を(2024年4月4日『山陰中央新報』-「明窓」)

自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会で弁明する塩谷立元文部科学相=3月1日
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会で弁明する塩谷立文部科学相=3月1日

 人の記憶とはいいかげんなものだ。小学1年の頃、親子キャンプに母と参加した。全ての日程を終え、子どもにお菓子が渡された。「ちょうだい」と指導役の大人に群がる子どもたち。少し遅れ気味に行くと「もうあげただろ!」と言われ、もらえなかった

▼先日、母とこの時の話になった。自分の記憶は「廊下にいた母に話したら、もらってくれた」。母の方は「帰りの車で聞いたので我慢させた」と。お菓子が欲しかった願望から、結局はもらえたという記憶になったのだろうか

▼半世紀も前の話だから曖昧なのも仕方ない。だが、こちらはそうはいかない。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件。衆参両院の政治倫理審査会で「記憶にない」「知らない」と無責任な答弁を繰り返した安倍派幹部に、党執行部が離党勧告処分などを科すという。当然だ

ロッキード事件の国会証人喚問で政財界の有力フィクサーだった小佐野賢治氏(故人)が発した「記憶がありません」という言葉が注目を集めたのが半世紀前。その後「政治とカネ」問題が起こるたび、この言葉が繰り返される

▼今月28日に投開票される衆院補欠選挙の構図がほぼ固まった。自民は裏金事件による逆風を背景に東京15区と長崎3区での候補擁立を断念。唯一公認候補を立てた島根1区に注目が集まる中、有権者はこう思っているだろう。「記憶がない人たちに国政を任せられない」(彦)