東日本大震災の「災害援護資金」の返済滞納額は今年2月までで、県内では8億円超に上る実態が明らかになった。低所得者や高齢者が返済資金の確保に窮する例が多いという。市町村は返済を促す取り組みに加え、滞納者の労働参加の可能性を探り、地域の事業所と結ぶ役割を担ってほしい。返済資金の確保のみならず、生きがいづくりにもつながる。
災害援護資金は世帯主が負傷したり、住居・家財が相当の被害を受けたりした場合、一定の所得未満の世帯に350万円を上限に貸し付けられる。国が3分の2、県が3分の1を負担し、市町村が貸し付け・返済業務を担う。共同通信のまとめによると、震災では県内30市町村の3153人に58億7964万円が貸し出されたが、22市町村で1003人が計8億1763万円を滞納している。
市町村別では、いわき市が最多で3億8909万円(496人)、郡山市2億4162万円(301人)、須賀川市5220万円(51人)と続き、8市町で1千万円を超える。償還期限は13年で多くは今年期限を迎える。
県によると、年金生活となったり、新型コロナ禍で生活苦になったりして返済できない例が目立つ。滞納分は市町村が負担する仕組みとなっており、生活に支障がない範囲での返済を求める活動を続けているという。ただ、収入が増える見込みがなければ、滞った分を減らすのにも限界があるだろう。
県内企業の人手不足は深刻化し、将来的に生産年齢人口の先細りは避けて通れない状況にある。高齢者雇用には課題が多く、求職・求人のミスマッチが生じているとも聞くが、心身ともに健康で条件が合えば就労可能な人も少なくないはずだ。市町村は、一度職を退いた人材の活用を地域の企業に促す一方、災害援護資金の滞納者から希望する職種、業務、パートなどの雇用形態を聞き取り、両者を結ぶ橋渡し役を担ってはどうか。
震災と東京電力福島第1原発事故の避難者支援に向け、県社会福祉協議会は復興公営住宅などで、戸別訪問による生活相談や避難先の地域社会との関係づくりを進めている。高齢者雇用の必要性は増しており、職場と結ぶ活動も求められる。(菅野龍太)