沖縄に津波警報発表に関する社説・コラム(2024年4月4日)

沖縄に津波警報発表 命を守る教訓としたい(2024年4月4日『琉球新報』-「社説」)

 

 貴重な経験と考えたい。ここから得た教訓を生かし、予期せぬ自然災害に備えたい。

 台湾東部で発生した地震気象庁沖縄本島宮古島八重山地方に津波警報を発表した。県内では4人のけが人が出た。台湾では多数の死傷者が出ており、被害の拡大が懸念される。沖縄から支援の手を差し伸べたい。
 過去にも2010年2月の沖縄本島近海地震、11年3月の東日本大震災の時に沖縄地方で津波警報が出ている。久しぶりの警報で多くの県民は慌てたはずだ。出勤時に重なり、混乱は大きかった。
 路線バスは一部で運行を見合わせ、那覇空港は航空機の発着が止まった。沖縄自動車道も全線が閉鎖した。低地や海岸近くにある公共施設、事業所は業務停止を余儀なくされた。県や市町村行政、消防、警察は住民の安全確保に対処した。病院では医師や看護師らが入院患者の避難対応に追われた。高齢者・福祉施設保育所も同様である。
 これらの措置や行動は全て命を守るためである。観測された津波の高さは数十センチ規模だが、津波警報に対応した行政組織や医療・福祉施設、県民個々の措置や行動の意義を軽んじてはならない。この経験を今後の地域の防災・減災計画や県民の避難行動に反映させる必要がある。
 沖縄のほとんどの市町村には海岸に近く、標高の低い地域に集落や住宅地、市街地が存在する。それだけに津波襲来時の避難行動は困難が予想される。行政、消防、警察は素早い判断と行動が求められる。災害時のマニュアルを整え、訓練を重ねてきた組織もあるはずだ。
 今回、想定通りの対応ができたのかを検証し、教訓化してほしい。住民への避難呼びかけと避難誘導が円滑だったのかがポイントとなる。多くの自治体は防災マップを製作し、津波など自然災害に備え避難場所を設定している。これらが活用されたのかもチェックする必要がある。必要に応じて防災マップや避難所の更新を進めるべきだ。
 地域においては各自治会が住民避難で大きな役割を果たす。今回、自治会組織による避難誘導は順調だったか点検してほしい。特に高齢者や障がい者の誘導が万全だったか確認する必要がある。
 最終的には個人や家族が命を守る単位となる。今回、避難行動をとらなかった人は、これでよかったのか省みてほしい。地域の避難所や避難ルートの把握、災害時の生活必需品の確保など備えが十分か見直す機会である。避難所などへ向かう車両で各地の道路で渋滞が発生しており、課題を残した。
 津波被害をもたらした能登半島地震から3カ月が過ぎた。避難生活は今も続いている。命を守るための行動はどうあるべきか、行政や地域、家庭で話し合ってほしい。そのためにも今回の経験を忘れず、教訓とすべきだ。

 

津波警報始末記(2024年4月4日『琉球新報』-「金口木舌」)


 出勤準備でひげを剃(そ)っていた時だ。突然スマートフォンのチャイムが鳴り、家の外ではサイレンが響く。慌ててスマホの画面を見ると「津波警報発表」という

▼まずは落ち着こう。洗顔を終え、家族に避難を呼びかけた。反応は鈍い。「ここは標高3メートル。大丈夫だ」と父はおうように構える。娘も腰が重い。そこを言いくるめて車で避難所へ
▼母は「保険証と印鑑を持ってきた」と言い、こう続けた。「トートーメーも持ってこようと思ったけれど置いてきた。『避難するのでお家を見守ってください』とお願いした」。戦場で避難民がトートーメーを携えていたという沖縄戦の逸話を思い出した
▼道が混んでいる。これはまずい。カーラジオのスイッチを入れると、いつもは明るく話すアナウンサーが緊張感を帯びた声で避難を促しながら「深呼吸をしてください」と言い添えた。この一言に救われた
▼警報が注意報となり、職場へ。車での避難は正しかったのか自問し、深いため息。頰をさすると、手のひらに剃り残しのひげが触った。

 

沖縄に津波警報 「車避難」の課題 検証を(2024年4月4日『沖縄タイムス』-「社説」)

 東日本大震災以来の津波警報に、県内は朝から緊迫感に包まれた。

 日本時間の3日午前9時前、台湾東部沖を震源とするマグニチュード(M)7・7の地震が発生した。震源に近い花蓮では震度6強、与那国島では震度4を観測した。

 台湾は、ユーラシアプレートフィリピン海プレートが衝突する位置にあり、ひずみが大きい場所で地震が起きた可能性がある。

 与那国島宮古島で最大30センチ、石垣島で20センチの津波が観測された。

 沖縄本島地方、宮古八重山地方に津波警報が発令され、多くの人が高台へ、沿岸部からより遠い場所へと車や徒歩で避難した。

 県内に津波警報が発表されるのは2011年3月11日の東日本大震災以来である。

 住民は自主的に高台にある公園や高い建物、避難場所に移動し、大きな混乱はなかった。私たちは津波の怖さを大震災で知っている。教訓が生かされたといえる。

 四方を海に囲まれた沖縄では、津波への危機意識をより強く持たねばらない。

 1771年に先島諸島を襲った「明和の大津波」では、海抜30メートルの高さまで津波が駆け上がり、約1万2千人が溺れ死んだといわれる。

 政府の地震調査委員会によると、南西諸島周辺でM8級の巨大地震が起きる可能性があり、与那国島周辺では30年以内にM7級が起きる確率が90%を超えるという。

 災害時の事業継続計画(BCP)があった病院や銀行は患者や顧客をスムーズに避難させることができた。平時からの備えの重要性が改めて浮き彫りになった。

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 今回浮かび上がったのが車社会の問題である。

 宮古島では海抜の高い公園に千人を超えるとみられる住民が避難し駐車場が満車になった。隣接する片側1車線の道路に路上駐車せざるを得ない状況になり、1時間近く車が通行できなくなった。

 県警に正午までに寄せられた110番通報42件のうち、大半が「渋滞で車が動かせない」というものだった。

 近くに高い建物がない地域や高齢者にとって車は大事な移動手段であるが、車で移動する人が多ければたちまち渋滞が発生する。大震災では渋滞で逃げ遅れた例がある。

 沖縄本島中南部は住宅が密集していて、片側1車線の道路も多い。平時でも渋滞による時間損失などが指摘されるが、非常時には大勢の命に関わる問題に発展する。

 課題を検証し、災害に強い交通環境の整備や車避難のルールづくりに取り組む必要がある。

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 台湾の被害は甚大だ。強い揺れで市街地の建物が倒壊し、住民が閉じ込められた。午後10時現在、9人の死亡が確認されている。

 1週間程度は同規模の地震が発生する恐れがあり、警戒が必要だ。

 与那国島と台湾の距離はわずか約110キロ。人の交流も盛んで、沖縄と台湾は「きょうだい」のような関係を築いてきた。台湾に心を寄せ、できる限りの支援をしたい。