核のない世界の実現につなげたい――。1954年に太平洋・マーシャル諸島のビキニ環礁で米国が水爆実験を実施し、日本の漁船が被ばくした「ビキニ事件」の記憶を子どもたちに伝えようと、高知県内の元教員ら有志が絵本「ビキニの海のねがい」を出版した。
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ビキニ事件では、静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員が被ばくして1人が死亡したほか、高知県から出漁していた多くの漁船の乗組員らも被ばくした。
その事実を子どもたちに語り継ぐため、高知の元小学校教員の橋田早苗さんらが2019年に「ビキニの海のねがい」と題する紙芝居を制作し、県内の学校などで実演してきた。
橋田さんはより多くの子どもたちに伝えようと、紙芝居の内容を本にする活動を始めていたが、病気のため22年に69歳で急逝。その後、活動は「『ビキニの海のねがい』を本にする会」のメンバー11人に引き継がれ、24年3月20日にようやく出版にこぎ着けた。
紙芝居の絵を担当してきた高知市の洋画家、森本忠彦さん(84)が本でも絵を手掛けた。水爆実験後、漁船に「死の灰」が降り注ぐ情景や、県内の高校生が被災した乗組員から聞き取り調査をする様子、被災者の証言を再現した絵などが克明に描かれている。
文章は紙芝居の言葉を基にメンバーが議論を重ねて考え、海外でも読まれるよう英訳も付けた。本の後半には「もっと詳しく知りたい、と思ったあなたへ」と題し、漁船の被ばくの実態や関連年表、参考文献などビキニ事件をより深く知ることができる情報を載せた。
同会副代表の森田敏恵さん(69)は「子どもと大人が一緒に読んでほしい。なぜ核兵器があるのかを共に考え、核のない世界の実現につなげたい」と話している。
A4判60ページ、2500円。金高堂本店(高知市)などで販売中で、出版元の「南の風社」(同)のホームページからも購入できる。県内の全小中学校と特別支援学校に無償配布する予定。問い合わせは同社(088・834・1488)。
【小林理】