「自分」という財産を肥やす、新庄流プラス思考(2024年4月3日『産経新聞』-「産経抄」)

 

日本ハム新庄剛志監督=沖縄県名護市(撮影・三浦幸太郎)

 去る日の午後、自宅のチャイムが鳴った。「○○警察の者です」。地元を巡回するお巡りさんだった。聞けば界隈(かいわい)では、噓の口実を設けて家に上がり、強盗に及ぶ悪党が増えているという。例えば「近所で異臭がありまして」 。

▼お宅は大丈夫かと、ガスの点検を装って安心させる。以前に問題となった手口は、いまだに油断ならないと教わった。うちは警戒心が強いので…と言う人ほど心の鍵をかけ忘れることが多いらしい。「警察」と聞いて、すぐにドアを開けた当方も。 

▼今年の4月1日も、世上は楽しい噓でにぎわった。ファストフードのチェーンが幕の内ならぬ「マックの内弁当」を売り出すとか、製薬会社がゴキブリならぬ運を引き寄せる「開運ホイホイ」を開発したとか。これなら騙(だま)されてもいいと、心の凝りをほぐされた人は多いだろう。

▼騙されたといえば、大谷翔平選手を巡る騒動を受けて「この人も」と注目された元被害者がいる。プロ野球日本ハム新庄剛志監督である。資金管理を任せた知人に約22億円のほとんどを流用され、移住先の海外から日本に戻ってきた過去がある。 

▼「俺はポジティブだから」「あの件がなかったら、こっち(球界)に戻ってきていない」。プラス思考のお手本のような、心の清涼剤のような、すがすがしい談話を僚紙サンスポの記事で読んだ。騙されないに越したことはない。かといって身構えてばかりの人生もくたびれる。 

▼『幸福論』を著したフランスの哲学者、アランの言葉にある。「いわゆるお金儲(もう)けの上手な人は、無一文になったときでも自分という財産をまだ持っている」。お金儲けに限るまい。「自分という財産」を肥やし、せめて生き方の上手な人になりたいものである。