北陸新幹線と地域交通 「住民の足」確保に知恵を(2024年4月3日『毎日新聞』-「社説」)

北陸新幹線が延伸開業し、JR敦賀駅に入線する新幹線=福井県敦賀市で2024年3月16日午前7時14分、長谷川直亮撮影

北陸新幹線が延伸開業し、JR敦賀駅に入線する新幹線=福井県敦賀市で2024年3月16日午前7時14分、長谷川直亮撮影

 北陸新幹線の金沢―敦賀間が延伸開業した。地域経済は能登半島地震で打撃を受けており、観光やビジネスでの集客が期待される。

 ただ、被災者支援や復旧事業を置き去りにしてはならない。被災地の観光業や地場産業の復活に向け、地域の魅力を発信する息の長い取り組みも求められる。

 太平洋側で災害が起きた時の代替輸送ルートにもなり得るのが北陸新幹線だ。高速交通のネットワークを強化する意義は大きい。

 一方で、住民の足である地域交通へのしわ寄せが懸念される。

 1973年に計画が決まった整備新幹線には開業時、並行して走る在来線の経営を分離する仕組みがある。JRの負担を軽くするためだ。今回の延伸区間でも、石川県内は「IRいしかわ鉄道」、福井県内は新設された「ハピラインふくい」が運行を引き継ぐ。

 いずれも自治体主体の第三セクターだが、収益源の特急がなくなったため赤字体質となる。通学時間帯の増発など利便性を高めて利用を促すものの、年数億円に上る赤字を地元自治体が補塡(ほてん)する。

 別会社のため、県境をまたいで乗車すると初乗り運賃が加算される。こうした負担を軽減する対策を講じているものの、JR時代と比べて値上げされた。

 北海道では、2030年度末に予定される新幹線の札幌延伸に伴い、JR函館線長万部―小樽間が廃止される。地元が赤字を負担しきれないためで、約140キロもの路線が一気に失われる。

 域外からのビジネス需要などは新幹線に吸い上げられ、在来線の利用は先細りする。将来にわたって路線を維持できる保証はない。

 ローカル線は通学や通院などの日常生活に不可欠だ。新幹線から乗り継いだ観光客の移動手段にもなる。自治体はバスやタクシーも組み合わせ、効率的な交通網を整備する責務がある。JRは人材面や集客策で支援を続けるべきだ。

 国の役割も重要だ。自治体への財政支援などはあるが、鉄道予算は道路に比べて圧倒的に少ない。交通ネットワークを維持する取り組みが急務だ。

 現在の枠組みは国鉄民営化時に考えられた。限界を迎えているのは明らかだ。持続可能な制度の構築に向け、見直しが必要である。