「2024年問題」物流業界で配送効率高める取り組み広がる(2024年4月1日『NHKニュース』)

働き方改革の一環でトラックドライバーの時間外労働に1日から上限規制が適用されます。物流業界では輸送量の減少が懸念される「2024年問題」への対応が課題となっていて、企業の間では配送効率を高める取り組みが広がっています。

コンビニエンスストア大手の「ローソン」は、弁当やサンドイッチなどの配送を1日3回から2回に減らす対応を去年12月から順次、導入しています。

配送回数の削減によって生じるトラックが稼働しない時間帯を活用して、4月6日以降、飲食チェーンの「ワタミ」が手がける食事宅配サービスの配送業務を担うということです。

また「ファミリーマート」はことし2月上旬から飲料大手「コカ・コーラボトラーズジャパン」の配送網を活用し、コンビニの店舗に商品を届ける取り組みを神奈川県内の一部で始めています。

一方、大手日用品メーカーの「ユニ・チャーム」は、成人向けの紙パンツを内容量を変えずに従来より1割ほど圧縮できる技術を開発し、年間に10トントラックおよそ1000台分の輸送量を削減できる見込みとしています。

また、日本郵便は、高松市岡山市、それに福島県郡山市にある、合わせて3つの郵便局を中継地点と位置づけ、別のドライバーが運転するトラックにゆうパックの荷物を引き継ぐことで長距離輸送に対応します。

会社は、中継地点の郵便局は、高速道路のインターチェンジの近くを選び、荷物を引き継ぐための時間を最小限に抑えたいとしていますがサービス全体の3.4%程度は配達にかかる日数が長くなるとしていて影響は、最大で半日程度と見込んでいます。

民間のシンクタンクでは、何も対策をとらなければ2030年には全国のおよそ35%の荷物が運べなくなるという試算もあり配送効率を高める取り組みをどこまで広げることができるかが課題となります。

佐川急便とヤマト運輸 1日から宅配便などの料金値上げ

宅配大手の佐川急便とヤマト運輸は、1日から宅配便などの料金を値上げします。

▽佐川急便は、宅配便の料金を平均でおよそ7%
ヤマト運輸は、通常の宅配便に加え、クール便やゴルフバッグの料金を平均でおよそ2%値上げします。

燃料価格の上昇に加え、2024年問題への対応などとして下請け企業を含めた従業員の待遇改善を進めるためだとしています。

両社ともに値上げは2年連続で今後も定期的に料金を見直す方針です。

JR貨物 需要の取り込み強化へ 

物流の「2024年問題」を受けて、JR貨物は、企業などの間で輸送手段をトラックから鉄道に切り替える動きが増えるとみていて、需要の取り込みを強化しています。

北海道では、道内各地から札幌方面に向かう鉄道貨物は農作物など多くの積み荷がある一方、札幌から道内各地に向かう鉄道貨物は積み荷が少なくコンテナに空きが多いいわゆる「片荷」が課題となっています。

この課題を解消しようと、JR貨物はことし2月、卸売業者などと協力して初めての実証実験を行いました。

実証実験は、これまで主にトラックで行ってきた札幌市から北海道北見市までの輸送を鉄道に切り替えた場合の所要時間やコストなどを卸売業者などに確認してもらうために行われ、食品など合わせておよそ12トンを輸送しました。

貨物列車に積み荷を積み替えた後、出発するまでの時間はよけいにかかるものの、ドライバーの労働時間の削減の面ではメリットは大きいといいます。

実証実験に参加した卸売業者は「『2024年問題』によって長距離の配送が非常に難しくなるため、数年後も今の状態を続けられるか分からない。トラックにかわる輸送方法を模索していきたい」と話していました。

また、JR貨物北海道支社営業部の中村隆部長は「空のコンテナを札幌から道内各地に回送しているのが現状で、そのコンテナが荷物で埋まることは非常にありがたい。引き続き課題の解決に取り組んでいきたい」と話していました。

“人手不足” 輸送手段をトラックから鉄道に 

トラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され人手不足の深刻化が懸念される「2024年問題」に対応するため、輸送手段をトラックから鉄道に切り替える動きが出ています。

北海道苫小牧市にある牛の餌を製造する工場では、およそ330キロ離れた北海道北部の幌延町にある保管施設までトラックで輸送していましたが去年から一部の区間を鉄道に切り替えました。

トラックによる輸送は片道5時間以上かかるため今月からドライバーの時間外労働の上限規制が適用されると、往復で10時間以上かかる運転をドライバー1人で対応することが難しくなるからです。

このため、工場がある苫小牧市から途中の名寄市まではJR貨物が輸送を行い、名寄市から保管施設のある幌延町の間のみ自社がトラックで輸送することで、ドライバーの運転時間を往復でも4時間程度に短縮できたということです。

この工場の物流計画を立てている「ホクレン」の小林哲郎課長は「輸送コストは上昇したが、持続可能な輸送形態を維持するために鉄道に切り替えた。北海道内のほかの区間や商品についても輸送手段の切り替えができるか検討していきたい」と話しています。

九州 輸送の一部をトラック輸送からフェリーに 

トラックドライバーの人手不足が懸念される物流の「2024年問題」への対応が課題となるなか、九州では野菜や果物の輸送の一部をトラック輸送からフェリーに切り替える「モーダルシフト」の取り組みが動き出しています。

九州から関東や関西に出荷される野菜や果物のほとんどはトラックで輸送されていますが、JA全農全国農業協同組合連合会ではその一部をフェリーに切り替える取り組みを試験的に始めています。

この取り組みでは、九州各地の野菜や果物を九州の玄関口、北九州市の「中央卸売市場」にある物流拠点に集めたうえで、トラックに乗せて市内の港から関東や関西の港にフェリーで運びます。

今の時期は、旬を迎えた福岡特産のブランドいちご「あまおう」を東京の市場に向けて主に北九州発、神戸行きのフェリーで週に1回から2回運んでいます。

いちごは、収穫された日の夕方に北九州でフェリーに乗せられ、翌朝には神戸に到着してその日のうちにトラックで東京の市場などに届けられ、その翌日には競りにかけられるということです。

JA全農では、関東向けのいちごは収穫から3日目までに東京の市場で競りにかけることにしていますが、フェリーを使った場合でもトラック輸送と同様に3日以内に市場に届けられるということです。

輸送にかかるコストは、物流拠点での作業などが増える分、従来のトラック輸送よりも上がる見込みですがドライバーは乗船中は「休息」とすることができ、勤務時間を減らすことができるということです。

また、いちごの輸送では、鮮度を保つために低温の温度管理を徹底していてトラックはフェリーに乗ったあともフェリーの電源を使って温度管理をしています。

JA全農では今後もフェリーを活用した輸送を継続し、「2024年問題」によるトラック輸送への影響が広がった場合にはフェリーの活用を拡大させたいとしています。

いちごの試験輸送を担当する全農物流園芸営業部北九州青果事業所河田大樹所長は、「運べないリスクを軽減するために何ができるか、先を見据えて模範的な取り組みになるよう取り組みたい」と話していました。

また、運送会社のドライバーの壇一彦さん(47)は「長距離ドライバーは運転が長いと体に負担がかかるので、体を休めるという点においてとてもありがたい」と話していました。

北九州と神戸や大阪を結ぶ路線を運航する「阪九フェリー」によりますと、九州では「2024年問題」を念頭にトラックの代替手段としてフェリーを活用する動きが相次いでいて昨年度の平日の利用率は9割を超え、トラックの利用は前の年と比べておよそ1万台多い13万台余りに上るということです。

福岡特産「あまおう」“フェリーを活用した試験輸送” 

福岡特産の「あまおう」は、全国でも人気があるブランドいちごで、「JA全農ふくれん」によりますと、年間およそ1万トンが出荷され、売り上げはおよそ150億円で、関東や関西での売り上げが7割を占めています。

「あまおう」を生産する福岡県大木町の農業法人「NJアグリサポート」ではいまが出荷の最盛期を迎えています。

この農業法人では年間およそ27トンを出荷しこのうち5割が関東向けに出荷されていていちごの一部はフェリーを活用した試験輸送で関東に運ばれているということです。

農場長の馬場昌弘さんは、「フェリーでの輸送などルートがいろいろとできれば安心します。品質のよいいちごがお客様の元に届くことが一番だと思います」と話していました。