物流「2024年問題」対応 広がるライバル会社との共同配送(2024年3月30日『NHKニュース』)

物流業界では4月1日からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されることから、輸送量の減少が懸念される「2024年問題」への対応が課題となっています。

トラックドライバーの時間外労働は年間960時間が上限となり、長時間労働の抑制や労働環境の改善が期待されています。その一方で、ドライバーの労働時間の短縮や人手不足の深刻化で輸送量の減少が懸念される「2024年問題」への対応が課題となっています。

民間のシンクタンクでは、何も対策をとらなければ2030年には全国のおよそ35%の荷物が運べなくなるという試算もあり、企業などの間で配送効率を高める取り組みをどこまで広げることができるのかが課題となります。

ライバル会社と共同配送する取り組み 広島のスーパー 

「物流の2024年問題」に対応するため、広島市に本社があるスーパーは、ライバル会社と共同配送する取り組みをさらに広げようとしています。

人口およそ6800人の広島県大崎上島町は本州から船で30分ほどの場所にあり、島には複数の生鮮食品を扱う店舗がありますが、各社ともに自社の商品だけではトラックの荷台を満杯にできないのが共通の課題でした。

このため、広島県内を中心に64店舗を展開するスーパーが中心となって、同業他社が異例のタッグを組み、この島に向かう荷物を1台のトラックにまとめて共同配送する取り組みを行ってきました。

これによって、各社のトラックの数を減らせることに加えて島を往復するのにトラック1台あたり1万円以上かかるフェリー代の削減にもつながっています。

共同配送では、運んでいる商品や量を他社に知られることになります。ただ、ドライバーの労働時間削減は各社共通の待ったなしの課題となっていて、この会社では共同配送の取り組みを輸送距離が長い山間部にも広げようと他社との交渉を進めています。

「フレスタホールディングス」サプライチェーン部の藤原一美さんは「共同配送でドライバーの労働時間を短縮でき、コストも下げられることから大きなメリットになっている。ほかの企業と話し合ってこの取り組みをさらに広げていきたい」と話しています。

福岡では共同配送 取り組み加速

物流業界の2024年問題の克服に向けて、取り組みを加速させようとしているのが福岡県内の大手スーパーなどです。

おととし8月、ライバルの小売企業どうしが連携するために「九州物流研究会」を設立。運送会社を含め、合わせて15社が参加しています。
まず、力を入れたのが「共同配送」でした。

いずれも福岡市に本社を置く大手スーパーの「イオン九州」と「トライアルホールディングス」は、研究会設立の2か月後に共同配送を始めました。

このうち、トライアルのトラックは、福岡県内にある物流拠点から、まず那珂川市のトライアルの店舗に商品を配送。その後、イオンの物流拠点を回って、直方市のイオンの店舗に食品などを届けます。

取材した28日も午前1時すぎにトライアルのトラックがイオン直方店に到着し、商品を届けたあと、再び自社の物流拠点に戻っていきました。

この共同配送によって、1日あたりでトラック1台の走行距離はおよそ30キロ減り、ドライバーの勤務時間も1時間ほど短縮できたということです。

研究会では、走行距離の削減は年間にすると単純計算で1万キロ余りに上るとしています。

研究会の発起人で、イオン九州の柴田祐司社長は「まだ2店舗だけだが、これを進めていくだけで日本からアメリカに行く分の走行距離を減らせることになる。コストも当然、減っていく」と話していました。

“進化”のカギは「マテハン」=「マテリアルハンドリング」 

マテハンとはモノを運ぶ作業を意味するマテリアルハンドリングの略称。

このマテハンのうち、かご付きの台車やこん包容器などは各社によって形も大きさもバラバラなのが現状で、機械でのまとまった運搬を難しくしている要因とされます。

この規格を統一すれば、つまり「海上コンテナ」のようにそろえられれば、研究会では運搬作業を大幅に効率化できると見ています。

この日研究会の会合では、メンバーがマテハンの規格の統一化に向けて議論しました。メンバーからは「皆さんのベクトルは一緒なので、協力しながら1つのモデルができるとよい」といった意見が出されました。

ただ、統一化の方向性には「賛成」であっても、具体的にどんな規格にするのか、各社の利害もからむだけにすぐには答えが出ません。メンバーの1人は会合で「興味はあるが、容器をどこに合わせるのかで思考が止まってしまうところがある」と率直に打ち明けていました。

研究会では、小売企業だけでなく、メーカー側にも働きかけながら、マテハンの規格の統一化を目指して協議を続ける方針です。

そして共同配送の拡大とあわせて、トラックの走行距離を将来的に50%削減することを目標に掲げています。

柴田社長は「お客様のもとへ商品が届かない事態が起きるかもしれないと危惧している。一番はドライバーの方々の働く時間を少なくすること、効率的にモノを運ぶことなので、九州からどう変えていくかというのはやりたいと思っている」と話していました。

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