小林製薬「紅麹コレステヘルプ」で健康被害続出…個別補償はどこまで膨らむのか?(2024年3月31日『日刊ゲンダイ』)

 
原因究明を急ぐ(会見を行う小林社長)/(C)日刊ゲンダイ
原因究明を急ぐ(会見を行う小林社長)/(C)日刊ゲンダイ
  

「今回の件が社会問題にまで発展し深くおわび申し上げる」──。小林製薬サプリメント「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人の健康被害が相次いでいる問題を受け、小林章浩社長は29日の会見で、こう謝罪した。サプリ原料を解析した結果、青カビ由来の「プベルル酸」が検出され、原因物質である可能性が浮上している。健康被害の相談は累計で約1万5000件寄せられており、実態把握の道のりは険しい。被害者への補償はどこまでなされるのか。

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 小林製薬は29日、紅麹サプリを摂取したとみられる1人の死亡を新たに発表。因果関係が疑われる死者は計5人となった。会見に同席した渡辺淳執行役員は、死亡事例に「70~90代の男女が含まれる」と明らかにした。

 入院者数は現在のところ114人。体調不良を訴えて通院する人や通院を希望する人は計680人に上るという。「補償については誠心誠意、向き合って誠意を尽くすことをお伝えしている。また入院や治療を受けている方にも、費用を負担することはお伝えしている」(渡辺執行役員)として、一部の遺族と補償について話を始めたという。入院者、通院者、通院希望者に対しては少なくとも治療費を負担する方針だ。

 一方、補償額については「今後、病院に行っていただいて、検査の結果が領収書なりで出てきますので、それで数字がやっと見えてくるものだと思います」(渡辺執行役員)と見通せない。小林社長は「まずは健康被害を訴えている方に情報を提供することや、速やかに診察・治療をしてもらうことが最優先」と強調。補償範囲はこれから精査するという。

■交通事故なら1カ月入院53万円

 一体、補償額はどこまで膨らむのか。

 例えば、医薬品の副作用による健康被害に関する国の救済制度(医薬品副作用被害救済制度)では、医療費の全額給付に加え、通院・入院費用として月額3万5800~3万7800円が支給される。遺族への一時金は754万2000円だ。

 今回のケースは医薬品による事故とは性格が異なるが、補償額の目安になるのか。弁護士の山口宏氏は「交通事故による損害賠償が参考になる」と指摘し、こう続ける。

「交通事故に伴う補償は、被害者の損害を加害者がどのくらい補填するか、ある程度、定型化されています。被害者が死亡した場合、基本的には逸失利益と慰謝料、葬儀費用などが発生する。逸失利益は平均寿命を基準に、将来的に得られたはずの金額が加味されるでしょう。あくまで一例ですが、慰謝料3000万円に逸失利益を補填した額が想定されます」

 

 今回の健康被害問題に関して特に難しいのが、体調不良を訴えている人への補償だという。

「大まかに言えば、慰謝料に加えて体調不良による休業損害や後遺症の有無、逸失利益の補填などを考えなければなりません。交通事故の場合、1カ月入院なら53万円、1カ月入院に加えて1カ月通院なら77万円といった具合に細かく慰謝料が決まっています。後遺症が残った場合は、労働能力の喪失率に応じて慰謝料が変動しますが、最低でも75万円。サプリによる健康被害と交通事故は別物ですが、胸や腹などの内臓に機能障害が残ると139万円の慰謝料が発生すると考えられます」

 仮に遺族への慰謝料が3000万円、通院希望者が約1カ月入院したとすると、全体の補償額はザックリ見積もっても最低で約5億円に上る。紅麹の原料の自主回収費用も推定していた18億円を上回る見通し。いよいよ巨額賠償の行方は分からなくなってきた。