小林製薬の会見 安全第一の覚悟に欠ける(2024年3月30日『産経新聞』-「主張」)
消費者の健康や生命に直接関わる食品や薬品の製造会社に求められる最大、最低限のものは、安全、安心確保への覚悟である。
小林製薬は、その一番の基本に欠けているのではないか。
同社の「紅麹(べにこうじ)」成分入りのサプリメントの摂取者に健康被害が拡大している問題で、小林章浩社長が会見し、「紅麹を摂取することによる腎疾患の発生問題で多くのみなさまにご心痛、ご不安を与え、社会問題にまで発展していることを深くおわび申し上げる」と陳謝した。
5人が亡くなるなどの被害拡大で問題視されているのは、同社の対応の遅れである。1月15日の問題の把握から3月22日の公表まで2カ月以上を要し、その間にも消費者は摂取を続け、被害は拡大した。
小林社長は「厳しい批判を真摯(しんし)に受け止め反省している」と述べたが、「社のガイドラインに基づいて最善を尽くした。一番大事なのは因果関係の解明だった」とも弁明した。
これが事実なら、ガイドラインが誤っている。原因が不明だからこそ被害拡大の兆候があった時点で迅速に公表し、広範に製品を回収すべきだった。
回収の範囲を狭めるのは原因の解明によって安全な製品が確定した後だ。それが被害の拡大を最小限に抑える基本である。結局、公表は「何らかの異物の混入」が明らかになるまで先送りにされた。
想起するのは平成12年、参天製薬にベンジンを混入した目薬を送り付け、2千万円を脅し取ろうとした恐喝未遂事件だ。
同社は脅迫状が届いた翌日、当時の社長が緊急会見し、事実を公表するとともに「消費者の安全を第一に考える」として全国に流通する同社製の家庭用目薬全製品を回収した。
被害総額は数十億円にのぼるとされたが、迅速で広範な対応により社の信用は増した。今回の事案と性質は違うが、求められる安全第一の基本姿勢は同じはずである。
冒頭の小林社長の陳謝の対象には、亡くなった方や深刻な健康被害を訴える患者は含まれなかった。お悔やみや、「一刻も早い回復を祈る」との言葉があるのみだった。これも因果関係が未解明であるためか。そうした姿勢が消費者にどう映るか、自問すべきである。
小林製薬が会見 命と健康を軽んじている(2024年3月30日『信濃毎日新聞』-「社説」)
情報開示に後ろ向きな姿勢が目立った。
紅麹(べにこうじ)が原料のサプリメントが原因とみられる健康被害について、製造販売した小林製薬(大阪市)が2度目の記者会見を開いた。
1週間前に問題を公表してからこれまでに、関連が疑われる死者が5人明らかになった。100人超が入院したほか、通院したり通院を希望したりしている人は約680人に上るという。
国内外で3年間に106万袋を売り上げた人気サプリである。健康被害だけでなく、紅麹原料を使った食品を自主回収する動きも広がっている。
原因は何か。健康被害に絡んでいるのか。「未知の成分」が関係した可能性があるとしてきた同社の説明が注目された。
ところが同社は、最終的な特定に行き着いていないとして曖昧な答えに終始。今後は国の研究機関に分析を委ねるとし、公表のめどにも口を濁した。
未知の成分が、青カビから生成される天然化合物で毒性の強い「プベルル酸」だと認めたのは、会見が2時間を過ぎてからである。前日に同社の報告を受けた厚生労働省が別の記者会見で明かし、記者が指摘した。
原因に関わる情報は治療に不可欠だ。遺族や被害者はもちろん、多くの人が関心を寄せている。現時点で分かっていることと分からないことを区別し、正確に、詳細に説明すべきだった。
そもそも、健康被害の疑いが分かった時点で速やかに注意喚起するのが、食品に関わる企業なら当たり前ではないか。命と健康に関わっているとの認識に甘さがあったと言うしかない。
患者を診察した医師から問い合わせがあったのは1月。公表は今月22日である。
同社は考えられる原因を一つ一つつぶし、製品の設計上、検出されるはずのないプベルル酸を見いだすまでに時間がかかったとした。だが、監督官庁への報告も公表の直前だった。きちんと対応していたら、防げていた被害があったかもしれない。
死亡例が相次いで報告されたのも、問題が公表されて世間が反応したからだ。症状が多く出ているとみられる腎臓は「沈黙の臓器」といわれる。サプリの利用者には、いまだ自覚症状がない人がいる可能性もある。
原因とともに、有害成分の生成や混入の経緯の解明が急がれる。分析を引き継いだ国も逐次の情報開示を怠ってはならない。
紅こうじサプリ被害 原因究明と拡大防止急げ(2024年3月30日『中国新聞』-「社説」)
健康のためと思って口にしていた食品が体に害を及ぼした。死亡者まで出す深刻な事態を引き起こしたとしたら、事業者の責任は重い。
「紅こうじ」を使った機能性表示食品のサプリメントを摂取していた人が、腎疾患などの健康被害を訴えている。入院した人は延べ100人を超え、5人が亡くなった。広島市内でも、70代の女性が腎不全と診断され、2月ごろに一時入院したという。
サプリを製造した小林製薬に加え、政府は、原因の究明を急ぐとともに全力で被害拡大を食い止めねばならない。
まず問われるのは後手に回った小林製薬の対応である。症例を初めて把握してから、今月22日に被害を公表するまで2カ月以上かかっている。きのう会見した小林章浩社長は、厳しい批判を「真摯(しんし)に受け止め、深く反省している」と謝罪した。当然である。
すぐ注意を呼びかけていれば、ここまで被害は広がっていなかったかもしれない。なぜ発表が遅くなったか。第三者による検証が不可欠だ。
問題のサプリは「紅麹(べにこうじ)コレステヘルプ」など3商品。2021年から今までに100万袋以上を販売した。被害は昨年4月から12月までに製造された原料が原因となった可能性があるという。
被害を防ぐため、愛用者はいないか、私たちも周囲に気を配りたい。ただ、紅こうじから色素成分だけ取り出して入れた食品は、過度の心配は不要だそうだ。冷静さは失わないようにしたい。
急ぐべきは原因物質の特定だ。想定外の物質が混入していた可能性があり、小林製薬の調査では、青カビが生成する天然化合物「プベルル酸」が確認された。政府にも、そう報告したという。ただ腎臓への毒性があるか、どういう経路で混入したか、被害の原因物質なのか、など解明は今後、国が主導する構えだ。
想定外の成分は、小林製薬が製造し、食品メーカーなど国内外の52社に販売した原料に含まれている可能性がある。政府は、徹底的な追跡調査に努めなければならない。
機能性表示食品の問題点も問う必要がある。届け出だけで、有効性や安全性に関する国のチェックがない。国の定めた厳しい基準を満たす必要のある特定保健用食品(トクホ)に比べ手続きが楽で、時間もかからない。中小企業でも参入しやすいため、市場は急成長している。届け出は約6800件にも上っている。
健康被害が出るのは今回が初めてだが、安全性や効果への懸念は当初から指摘されていた。第一義的な責任は事業者にあるとはいえ、15年に、安倍政権が成長戦略で打ち出した規制緩和の一環としてスタートした制度である。安全性より利益を重視した政府も責任は免れない。
今回のように健康被害などのトラブルが生じた場合、国としてどう対応するのか。態勢づくりを進めておかなければならない。併せて、機能性表示食品の制度そのものについても、安全性や効果をどうすれば保証できるか、厳しい目で点検すべきである。
あったらいいな(2024年3月30日『高知新聞』-「小社会」)
きょう3月30日は語呂合わせで「サラサーティの日」なのだという。女性にはなじみがあり、男性なら何となく聞いたことがある響きだろうか。小林製薬が扱う生理用品のブランドの一つだ。
「あったらいいなをカタチにする」がスローガン。消費者の隠れたニーズを掘り当て、個性的な商品を開発し、ニッチな市場で優位に立つのが同社の戦略だ。サラサーティはその「優等生だった」と、ビジネスモデルを築いた小林一雅会長の著書にある。
目を付けたのは、おりものに困る人がいるのに対応する大手がいなかったこと。商品化に当たっては、慎重論もあった中で「おりもの専用」とうたい、消費者の分かりやすさにこだわった。
この分かりやすさ重視も同社の特徴に挙がる。新商品のアイデアも、独特のネーミングも、消費者本位で考え抜く。小林氏は部下に「あと一日考えてみてくれ」とよく迫ったとし、その姿勢が会社の成長を生んだとする。
だが、紅麹(こうじ)サプリメントによる健康被害の件ではどうだったか。事態の公表、取引先や行政への連絡が遅れ、後手批判が出る。きのうの記者会見では、社長は批判に対し「言葉もない」。
サワデー、アンメルツ、ブルーレット、熱さまシート…。お世話になってきたアイデア商品までもが色あせる。「(こう)あったらいいな…」の想像力を、なぜ自分の会社の危機管理で〝カタチ〟にできなかったのだろうか。
紅こうじサプリ(2024年3月30日『宮崎日日新聞』-「社説」)
◆被害拡大防ぎ安全を見直せ◆
紅こうじを使った小林製薬(大阪市)のサプリメントで健康被害が発生し、死亡事例が報告された。被害把握から使用停止の呼びかけまで2カ月余りかかっており、消費者に情報を伝えるのが遅れた責任は重い。
被害拡大を防ぐのが最優先であり、店頭からの製品回収を急がねばならない。消費者からの問い合わせが続いており、不安に応える態勢づくりが必要だ。
紅こうじサプリが被害を引き起こした仕組みや、患者の症状との関連などはまだはっきりしない。健康被害が起きた原因を究明しなければならないのは言うまでもない。同時に、紅こうじサプリのような「機能性表示食品」の安全確保策も検討するべきだろう。
これまでに死亡は5例報告されており、入院は114人。大阪市は厚生労働省の通知を受け、自主回収の対象となっている3製品の回収命令を出した。小林製薬によると、医師からの通報で健康被害の可能性を知ったのは1月15日。2月上旬には腎疾患の症例を複数把握していたが、3月22日まで明らかにしなかった。
原因が判明しなかったため、「公表すべきかどうか判断できなかった」としているが、公表の遅れが被害者を増やした可能性もある。もっと早く製品を回収し、利用の停止を呼びかけるべきだった。
小林製薬は紅こうじ原料を170社以上の飲料メーカーや食品会社に販売しており、各社も製品の自主回収に乗り出した。政府や自治体は消費者センターや保健所、自治体の窓口などでも相談に応じ、利用者の不安に耳を傾け、必要なら医療機関への仲介をしてほしい。こうした幅広い取り組みの中から、原因の究明につながるヒントが見つかるかもしれない。
体への効能を表示できる健康食品は「栄養機能食品」「特定保健用食品(トクホ)」が先行し、2015年から機能性表示食品が加わった。
ビタミンなどの含有量に規格基準がある栄養機能食品や、国の許可が必要なトクホと違い、機能性表示食品は、効能を裏付ける学術論文などを消費者庁が受理すれば「脂肪の吸収をおだやかにする」などの機能性を表示し販売できる。
高齢化社会で関心が高まる健康食品を成長市場と見て、安全に関わる規制を緩和して生まれたのが機能性表示食品ではないか。当時の政府の判断が妥当だったか検証する必要がある。届け出済みの製品は約6800件。機能性表示食品による健康被害や製品回収は初めてで、軽視するわけにはいかない。安全性の視点から現行制度を見直し、改善策を探ってほしい。
後手に回った対応(2024年3月30日『宮崎日日新聞』-「くろしろ」)
県外のとある老舗のサプリメントコーナーを歩いていたら、お店のスタッフがやってきて「お客さま、こちらの商品ご存じでしょうか」と話しかけてきた。見ると箱には「紅麹(べにこうじ)」の文字。初めて聞く言葉だった。
店員さんは、それが悪玉コレステロールなどに効くことを説明。わが体形を見て「まさにお客さまのための商品」と言わんばかりの熱心な説明に思わず買い求め、2カ月間ほど飲んでみた。当然、そんな短期間で顕著な効果が表れるわけもなく、結局続かなかった。
数年前の話だが、まさかここにきて、あのとき初めて知った「紅麹」なるものがこんな大ごとになろうとは思いもしなかった。紅麹を使った小林製薬のサプリメントによる健康被害。きのう新たに1人が亡くなり、サプリとの関連が疑われる死者は、全部で5人となった。
自身が飲んでいたのはやはり小林製薬の紅麹を原料としたサプリなどを作っている企業の製品だった。幸いその製品ではなかったものの、同じ会社の別商品の一部が自主回収をされたと聞いて複雑な気持ちになった。小林製薬は、きのう謝罪会見を開いたが、問題を把握したのは1月だったという。
健康食品だけではない。一時期ブームになったこともあり、同社の紅麹を使った商品は総菜にお菓子、ドレッシングなど多岐にわたる。その責任を思えば問題が発覚した時点ですぐに公表し対応すべきだっただろう。被害の行方は全く見通せなくなっている。
(2024年3月30日『しんぶん赤旗』-「潮流」)
みそやしょうゆ、みりんや酢、お酒も。無形文化遺産にも選ばれた和食は、健康的でおいしいと世界から注目されてきました
▼豊かな日本の食文化。その礎が麹(こうじ)です。米や麦、大豆などに麹菌を加え培養させたもので、多彩な調味料や日本酒づくりには欠かせません。醸造の現場には「一麹」という言葉があり、職人たちは麹の質にこだわってきました
▼多くの発酵食品にも使われ、日々の食生活を支えてきた麹。菌の種類が違うとしても、商品名に麹がつき、しかも製薬会社が悪玉コレステロールを下げると銘打ったサプリメントに大勢がひかれても不思議ではないでしょう
▼紅麹原料を使った小林製薬の機能性表示食品が原因と疑われる健康被害が相次いでいます。昨日の会社側の会見では、これまでに5人が亡くなり百人以上が入院。相談件数は1万5千件にも上っていると。不安はとめどなく広がっています
▼健康に役立つと宣伝されたサプリで健康被害を受けたとなれば、とんでもない。会社が問題を把握してから2カ月も公表が遅れたことも批判を浴びています。国の食品安全委員会によると欧州では紅麹由来のサプリによる健康被害が報告されています
▼機能性表示食品は安倍政権が成長戦略の一環として導入。事業者の届け出のみで国の審査はなく、安全性への懸念が指摘されていました。サプリによる健康被害は後を絶ちません。被害者の救済とともに、制度を改める。それが古くから息づく健康な食づくりにもつながるはずです。