スタートアップ/地域活性化へ支援強化を(2024年3月31日『神戸新聞』-「社説」)

 「スタートアップ」と呼ばれる新興企業の育成、支援に取り組む自治体が増えている。神戸市は全国に先駆けて施策を打ち出し、8年になる。岸田政権も看板政策「新しい資本主義」の柱の一つと位置付ける。官民が連携して、ビジネスの創出や地域経済活性化の起爆剤として若い企業の活力を生かしたい。

 神戸市は海外スタートアップとの交流や、衛星データを活用して遊休農地を効率的に把握するなど新興企業の技術を行政課題の解決に生かしてきた。企業が成長する上で十分かつ円滑な資金調達が欠かせないが、今では神戸市内に約200社が本社を置き、調達した資金の総額は500億円超とされる。

 現在、スタートアップの8割超が東京に集まる。神戸で起業を目指す若者は300人規模とされ、創業により新たな雇用を生む効果が見込める。イノベーション(技術革新)の芽をいち早く見つけ、事業化の受け皿を整えれば、神戸を創業の地として選ぶ若者も増えるだろう。成功例を積み重ねていくことで、人材の確保も期待できる。


 一方、公費による多額の支援には疑問の声もある。補助金の割に成功する企業が少なく、費用対効果が薄いとの指摘だ。確かに、自治体が補助金で企業や新工場を誘致する従来型の手法に比べ結果が見えにくい。起業支援による果実を生み出すために、各機関が持つ育成ノウハウの共有、さらなる規制緩和など柔軟な支援が求められる。

 スタートアップを地域がどのように支えるのかも課題だ。

 兵庫県内の中小企業を取引先に持つみなと銀行は3月、未上場企業への投資を専門とする東京のベンチャーキャピタル(VC)と協定を結んだ。双方の取引先を結び付け、首都圏に集中する投資を呼び込み、経営などを助言する。兵庫県や神戸市が呼びかけ、県内の大企業や金融機関、大学など約50社・団体でつくる起業支援の枠組み「エコシステム」も活用したい。

 人口減が進む中、日本経済の持続的成長や社会課題の解決へ、スタートアップが果たす役割は大きい。多くの新企業が生まれ育つ循環を起こすには、若者の挑戦を大胆に後押しする官民の支援強化が不可欠だ。