救急車を使った消防組織による急患の搬送は…(2024年3月31日『毎日新聞』-「余録」)

松阪地区広域消防組合の救急車=三重県松阪市内で2024年2月5日午後3時11分、下村恵美撮影

松阪地区広域消防組合の救急車=三重県松阪市内で2024年2月5日午後3時11分、下村恵美撮影

 救急車を使った消防組織による急患の搬送は1933(昭和8)年、横浜市で始まった。米国車のキャデラックを用い、搬送は無料だった。その翌年、名古屋市が実施した際は、市民に活用してもらうためポスター4500枚やビラ26万枚を印刷して啓発に努めたという(名古屋消防史)

▲社会の命綱ともいえる救急搬送の出動件数が増えている。総務省によると2023年は約764万件と前年を約41万件上回り、過去最高だった。社会の高齢化などが要因とみられている

▲逼迫(ひっぱく)する救急業務に対応することが地域の課題となる中、三重県松阪市で6月から新たな方式が導入される。患者を基幹病院に搬送して軽症で入院に至らなかった場合、「選定療養費」として7700円を病院が徴収することにした

▲松阪でも出動件数は増えているが、半数以上は入院しないケースという。このままでは救命に支障を来しかねないと判断した。ただし、交通事故による搬送や医師が救急に相当すると診断した場合などは、入院しなくても徴収しない

▲他地域の病院でも徴収をすでに実施している例がある。救急車の「出動費」と異なるが、支払う側は似た印象を抱くかもしれない。松阪市は「救急の適正使用が目的で『救急車を呼ばないで』という意味ではありません」と理解を求めている

▲救急車を巡っては呼ぶかどうか迷う場合、相談に応じる専用ダイヤルも全国的に拡大している。速やかな出動を維持するため、あり方を考えたい救急車の活用である。