降りかかる「家じまい」 2025年以降は供給過剰で価格下落リスクも(2024年9月17日『毎日新聞』)

 
キャプチャ2
市区町村によって特定空き家と認定された建物=国土交通省提供
 自宅や実家を処分する「家じまい」に困る人が相次いでいる。17日発表された2024年の基準地価(7月1日時点)で、東京、大阪、名古屋の3大都市圏は変動率の上昇幅が拡大。地方圏全体もプラスを維持したが、郊外では下落傾向が続く。地価が低迷する地方ほど住宅需要は乏しく、空き家になるリスクも高い。持ち家の扱いは難題だ。
「ついに来た」
 「ついに来たな、と。空き家になる前に片付けたいけど、どこから手をつければいいのか……」
 東京都内に住む男性(63)は、和歌山県の山間部にある実家の処分に頭を悩ませる。築40年以上、昔ながらの一軒家。もともと祖父母が住んでいたが、男性が親元を離れた後、両親が京都にあった自宅を処分して移り住んだ。
 父親が亡くなり、80代の母親が福祉施設に入ってからは叔母が管理していた。その叔母も80代。病気を抱え、長くは続けられない。男性は一人っ子で、東京都内に住居を構えて仕事もあるため「田舎に帰るつもりはない」。実家周辺は農家の多い田園地帯だ。新たに移住してくる人も少ない。
 「このままでは空き家になる」。焦りはあるが、自宅から新幹線や公共交通機関を乗り継いで片道6時間はかかる。母親に家じまいを頼もうにも高齢だ。かつて「お金は出すから、お父さんとの思い出を残しておきたい」と言われた記憶もあり、処分をせかすのはためらわれる。
 「京都の自宅を『家じまい』した父に、いろいろ聞いておけばよかった。自分が相続してから全てをやるしかない」。男性はそう覚悟を決めたという。
ヤギ、トラクターも
 「飼っているヤギ、トラクターやポンプをどうするか。家だけ処分できれば済む問題ではないんです」。東京都内の会社に勤める男性(37)も「実家じまい」に気をもむ一人だ。
 男性の実家は福島県の農村部。基準地価が長年下落し続ける地域で、「資産価値は低い」と自認する。きょうだい4人は自立して実家に戻る予定はない。
 土地を手放して国に引き取ってもらう国庫帰属制度の利用も検討しているが、それには現場を更地にする必要がある。当然、費用も手間もかさむ。家屋や農機具なども処分のめどは立っておらず、時間だけが過ぎていく。
 健康寿命が延び、核家族化も進むなかで、同じ住宅に世代を超えて住み続けるケースは減っている。老人ホーム検索サイト「LIFULL介護」の小菅秀樹編集長は「住み替えや家じまいなど、親も未経験のことが降りかかってくる時代だ」と警鐘を鳴らす。
相談件数1・5倍に
 「家じまい」の必要に迫られても、思うように処分できるとは限らない。
キャプチャキャプチャ3