「裏金議員を追放せよ」。自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件に揺れる中、自身のブログで後輩議員らに向けた歯に衣(きぬ)着せぬ苦言をつづり続けているOB政治家がいる。通商産業相や党総務会長などを歴任し、現在は党東京都連の最高顧問を務める深谷隆司氏(88)だ。安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部の1人だった萩生田光一前政調会長(都連会長)や事務総長経験者の下村博文元文部科学相は東京選出で、深谷氏は同じ釜の飯を食った大先輩に当たる。
深谷氏を浅草の自宅に尋ね、自民党をむしばむ「政治とカネ」の問題についてインタビューした。粋な和服姿で現れ、1時間半にわたって取材に応じた深谷氏。話題は、4月の衆院東京15区補選や7月の都知事選、石原慎太郎・裕次郎兄弟の思い出にも及んだ。(佐藤裕介、宮尾幹成)
◆安倍派幹部の弁明「『知らない』はうそ」
-裏金事件をどう見ている。
「国会議員にしては随分ケチな話だなというのが第一印象。(ノルマ分の)500万円分のパーティー券を売る約束をして、600万円分を売って100万円分を自分で取るというようなケチなことを考えるならば、最初から自分で開けばいい。ぼくの場合には、逆に会費2万円のパーティーを自ら開いて、その中から1000万円とかそういうお金を(顧問を務めていた)山崎派に入れたもんだ。最近の議員はちまちまとして、つまらないことをしてるなと思いましたね」
「この間の政倫審を見ていたが、意味をなしてない。出席拒否することもできるし、答弁について偽証罪があるわけでもない。知りません、分かりませんって言えば通ってしまう。ああいう場所でこそ政治家はきちんと答えてもらいたいと、イライラして聞いていた。何らかの制度的な工夫はしないといけないだろう」
「そんなことないですよ。自分で2万円くらいのパーティーで500人や1000人集められなければ、そもそも国会議員になれない」
-安倍派幹部は、記者会見や政倫審の場で十分に説明したと思うか。
「お金の出入りが法律違反なのではなく、(政治資金収支報告書に)記載しなかったのが法律違反なんだから、これからは記載しますということで終わりだ。それを、はっきりした言い方をしないことで、余計マイナスになっていると感じる。何となく言葉でごまかそうとしている雰囲気が見えるわけですよ。これでは有権者、国民から見れば何なんだってことになり、政治不信につながっている」
「(2022年4月に派閥会長の安倍氏からキックバックを)『おかしいからやめよう』と言われていたのに、そのまま続けたという問題は大きい。それを世耕(弘成前参院幹事長)さんにしても誰にしても、『知らない』というのはありえない」
-本当は「知っている」と。
「知っている。お金が入って出てくるんだから、(派閥の)事務総長をやった人が知らないわけがない。派閥には政治家ではない(職員の)事務局長がいるけど、政治家の声を聞かないで勝手に判断して(お金を)配るわけはない。命令されて、あるいは指示されてやってるわけだから、知らないというのはうそだ」
派閥の事務総長 派閥運営の実務責任者。安倍派では、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)の公訴時効にかからない2018年以降、下村博文氏、松野博一前官房長官、西村康稔前経済産業相、高木毅前国会対策委員長が務めていた
「下村君は早稲田大の雄弁会の後輩でもあるんです。これからの人だし、期待している。やっぱり、きちんと話してもらいたいね。彼らしくないよ」
「森さんと下村君は、すっかり(関係が)ダメだね。みんな雄弁会で、本当はいちばん仲良しのはずなのに、ちょっと亀裂ができてしまった。下村君だって天下の代議士だけど、(森氏は)一応大先輩だから、分かりましたという格好になってるんでしょう。だけど、いつまでも森さんの時代じゃない。もうちょっと歯切れよくしていかなきゃだめだ」
「森さんは体が大きく、いかついが、本当は気が弱い人。森さんが党の役員会で、ハマコー(自民党の浜田幸一元衆院議員。浜田靖一国対委員長の父)からガンガン責められてる中で、私がハマコーを『もういい加減にしろや』となだめたこともある」
裏金事件に関して記者会見する萩生田光一氏=1月22日、国会で
-記者会見を開いた萩生田光一氏の説明は十分だったか。
「歯切れは悪いわね。ぼくは萩生田君は、自民党都連の中でこれから伸びる人だと思っている。東京全体を見ても一番のリーダーシップを取れる人だ。天下を取れる人だと思うが、ちょっときずがついたかなと。まあ、解消できますけれどね。これからもしっかり頑張ってもらうことが、私たちの期待に応えることになる」
-岸田文雄首相は4月上旬にも安倍派幹部ら「裏金議員」の処分を発表するとみられている。
「重い処分を検討しているそうだが、関与した議員たちはしっかりとしたけじめをつける必要がある。もう二度と同じような過ちを繰り返してならない」
◆「柿沢未途氏が政治家に戻るのは無理じゃないか」
「最低だ。近代的なセンスを持ってないという感じがする。青年局長って出世コースなんです。ぼくの同期には小泉(純一郎)君もいたけど、ぼくは一番最初に青年局長になった。それは大きな誉れでもあった」
「彼が問題を起こしたわけじゃなくて、たまたま顔を出したというので、むしろ気の毒だった。たまたま今度、中曽根君に会うことになっている。いい機会だから、国会議員はああいった場に遭遇したら憤然と目立つように席を立つ、それが大事だと言おうと思っている」
「昭和の古い選挙だ。若いのがなんでこんなことしてるんだって、びっくりしちゃう。これから政治家に戻るのは無理じゃないかと思う。出ると言われても賛成しません」
◆都知事選「『反小池』の候補者を立てる必要はない」
-その柿沢氏の辞職に伴って行われる衆院東京15区補選には、都民ファーストの会が「五体不満足」で知られる作家の乙武洋匡氏を擁立する。自民党は独自候補の擁立を見送り、乙武氏を支援するかどうかを検討している。
「聞いたばかりだから分からない。自民党としては、政策面などでベストな候補が見つかればいい」
-小池氏自身が東京15区補選に出る可能性も取り沙汰されていたが、これでなくなり、小池氏は7月の都知事選で3選を目指す公算が大きくなった。
「自民党都連から小池さんに対抗馬を立てるような動きはゼロだ。ぶつけ合うようなタマがいない。私がやりましょうという人もいない。以前のように、激しく戦ってたたき落とせというような場面は完全になくなった。小池さんもずいぶん変わって、自民党寄りになってきた。小池さんがそのまま出るならば、自民党としては別に『反小池』の候補者を立てる必要はない。『不戦』だろう。不戦敗じゃない。勝ちでも負けでもないということだ」
「小池さんの身勝手さには、みんな心の中にしこりが残っている。それでも何となく関係は修復されつつあるように感じる。そもそも(自民党時代には)同じ意見でやってきた。彼女は都連の副会長もやっていて、当時はみんな仲間だった」
深谷氏の東京・浅草の自宅には、往年の名優・石原裕次郎さん(1987年死去)の肖像画があしらわれた大型の時計が飾ってあった。「あれは裕次郎さんですね」と話を振ると、裕次郎さんや兄の慎太郎元都知事(2022年死去)ら石原家との交友についても語ってくれた。深谷氏と石原慎太郎氏は、1972年の衆院選で初当選した同期でもある。
-裕次郎さんは52歳の若さで亡くなった。
「亡くなる数日前に共通の知人から電話があって、裕次郎が『先生が来てくれない。見捨てたのか』って言ってますよっていうんで、病院にすっ飛んでいった。その時、彼はちょうどベッドに横になって、向こう側を向いて寝ていたんだけれど、ぼくに気が付いて振り向いて、ぼくの方を向いて寝たままずっと喋り続けた。それが最後になっちゃった。それから1週間もしないうちに亡くなってしまって。すごくいいやつだった。最高だった」
「慎太郎というのは優秀な人だけれども、自分が優秀だと思いすぎている。都知事選の時、車の中で彼は歌を歌ってね、『深谷さん、裕次郎より上手いの分かるでしょう』って。上手くないのよ、全然。つやもないし。全部、自分が一番だと思っていて、それを割と露骨に見せるの、いろんな場面で。私は『そんな言い方やめろよ、みっともねえから』と怒ったことがあるけどね」
「地元(の杉並区)は『石原村』と言われていて、まさか落ちるとは思わなかった。東京の選挙の怖さだ。彼は私と会うと正座してあいさつする、そういう生真面目さを持ったいい人ですよ。逆に言うと、もうちょっとこう、裕次郎に近い部分があるといいね。もうちょっと突っ込む雰囲気がほしい」
「まだそういう話はないが、私に相談が来れば賛成しますよ」