還流再開の経緯「安倍派幹部が知らないわけがない」 自民都連最高顧問が後輩を叱る 都知事選、小池百合子氏出馬なら「不戦」(2024年3月30日『東京新聞』)

厳しい眼差しで自民党の現状を憂う深谷隆司・東京都連最高顧問=3月26日、台東区雷門で

厳しい眼差しで自民党の現状を憂う深谷隆司・東京都連最高顧問=3月26日、台東区雷門で

「裏金議員を追放せよ」。自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件に揺れる中、自身のブログで後輩議員らに向けた歯に衣(きぬ)着せぬ苦言をつづり続けているOB政治家がいる。通商産業相や党総務会長などを歴任し、現在は党東京都連の最高顧問を務める深谷隆司氏(88)だ。安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部の1人だった萩生田光一政調会長(都連会長)や事務総長経験者の下村博文文部科学相は東京選出で、深谷氏は同じ釜の飯を食った大先輩に当たる。
深谷氏を浅草の自宅に尋ね、自民党をむしばむ「政治とカネ」の問題についてインタビューした。粋な和服姿で現れ、1時間半にわたって取材に応じた深谷氏。話題は、4月の衆院東京15区補選や7月の都知事選、石原慎太郎裕次郎兄弟の思い出にも及んだ。(佐藤裕介、宮尾幹成)

◆安倍派幹部の弁明「『知らない』はうそ」

-裏金事件をどう見ている。
「強い不快感と怒りを禁じ得ない。私が政治活動をしていた当時は、(政治資金パーティーの売り上げの)キックバック(還流)など聞いたことはなかった」
「国会議員にしては随分ケチな話だなというのが第一印象。(ノルマ分の)500万円分のパーティー券を売る約束をして、600万円分を売って100万円分を自分で取るというようなケチなことを考えるならば、最初から自分で開けばいい。ぼくの場合には、逆に会費2万円のパーティーを自ら開いて、その中から1000万円とかそういうお金を(顧問を務めていた)山崎派に入れたもんだ。最近の議員はちまちまとして、つまらないことをしてるなと思いましたね」
-衆参両院で開かれた政治倫理審査会(政倫審)では、派閥ぐるみのキックバックが長年続けられてきた安倍派の幹部らを審査した。
「この間の政倫審を見ていたが、意味をなしてない。出席拒否することもできるし、答弁について偽証罪があるわけでもない。知りません、分かりませんって言えば通ってしまう。ああいう場所でこそ政治家はきちんと答えてもらいたいと、イライラして聞いていた。何らかの制度的な工夫はしないといけないだろう」
衆院政治倫理審査会に出席する下村博文氏=3月18日、国会で

衆院政治倫理審査会に出席する下村博文氏=3月18日、国会で

-自分の名前より、安倍晋三元首相のような派閥のトップの名前でパーティー券を売る方が楽だったのでは。
「そんなことないですよ。自分で2万円くらいのパーティーで500人や1000人集められなければ、そもそも国会議員になれない」
-安倍派幹部は、記者会見や政倫審の場で十分に説明したと思うか。
「お金の出入りが法律違反なのではなく、(政治資金収支報告書に)記載しなかったのが法律違反なんだから、これからは記載しますということで終わりだ。それを、はっきりした言い方をしないことで、余計マイナスになっていると感じる。何となく言葉でごまかそうとしている雰囲気が見えるわけですよ。これでは有権者、国民から見れば何なんだってことになり、政治不信につながっている」
「(2022年4月に派閥会長の安倍氏からキックバックを)『おかしいからやめよう』と言われていたのに、そのまま続けたという問題は大きい。それを世耕(弘成前参院幹事長)さんにしても誰にしても、『知らない』というのはありえない」
-本当は「知っている」と。
「知っている。お金が入って出てくるんだから、(派閥の)事務総長をやった人が知らないわけがない。派閥には政治家ではない(職員の)事務局長がいるけど、政治家の声を聞かないで勝手に判断して(お金を)配るわけはない。命令されて、あるいは指示されてやってるわけだから、知らないというのはうそだ」

派閥の事務総長 派閥運営の実務責任者。安倍派では、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)の公訴時効にかからない2018年以降、下村博文氏、松野博一官房長官西村康稔経済産業相、高木毅前国会対策委員長が務めていた

下村博文氏も事務総長経験者だ。彼の衆院政倫審での弁明はどう聞いた。
「下村君は早稲田大の雄弁会の後輩でもあるんです。これからの人だし、期待している。やっぱり、きちんと話してもらいたいね。彼らしくないよ」
―安倍派(清和政策研究会)会長だった森喜朗元首相について、もっと具体的に証言すると思われていたが。
「森さんと下村君は、すっかり(関係が)ダメだね。みんな雄弁会で、本当はいちばん仲良しのはずなのに、ちょっと亀裂ができてしまった。下村君だって天下の代議士だけど、(森氏は)一応大先輩だから、分かりましたという格好になってるんでしょう。だけど、いつまでも森さんの時代じゃない。もうちょっと歯切れよくしていかなきゃだめだ」
「森さんは体が大きく、いかついが、本当は気が弱い人。森さんが党の役員会で、ハマコー(自民党浜田幸一衆院議員。浜田靖一国対委員長の父)からガンガン責められてる中で、私がハマコーを『もういい加減にしろや』となだめたこともある」
裏金事件に関して記者会見する萩生田光一氏=1月22日、国会で

裏金事件に関して記者会見する萩生田光一氏=1月22日、国会で

-記者会見を開いた萩生田光一氏の説明は十分だったか。
「歯切れは悪いわね。ぼくは萩生田君は、自民党都連の中でこれから伸びる人だと思っている。東京全体を見ても一番のリーダーシップを取れる人だ。天下を取れる人だと思うが、ちょっときずがついたかなと。まあ、解消できますけれどね。これからもしっかり頑張ってもらうことが、私たちの期待に応えることになる」
岸田文雄首相は4月上旬にも安倍派幹部ら「裏金議員」の処分を発表するとみられている。
「重い処分を検討しているそうだが、関与した議員たちはしっかりとしたけじめをつける必要がある。もう二度と同じような過ちを繰り返してならない」

◆「柿沢未途氏が政治家に戻るのは無理じゃないか」

-露出の多い女性ダンサーを招いた自民党青年局の会合も問題になった。出席していた藤原崇局長と中曽根康隆局長代理は、責任を取って辞任した。
「最低だ。近代的なセンスを持ってないという感じがする。青年局長って出世コースなんです。ぼくの同期には小泉(純一郎)君もいたけど、ぼくは一番最初に青年局長になった。それは大きな誉れでもあった」
-中曽根氏といえば、かつて深谷さんが所属した派閥の会長だった中曽根康弘元首相の孫だ。
「彼が問題を起こしたわけじゃなくて、たまたま顔を出したというので、むしろ気の毒だった。たまたま今度、中曽根君に会うことになっている。いい機会だから、国会議員はああいった場に遭遇したら憤然と目立つように席を立つ、それが大事だと言おうと思っている」
-最近問題を起こした東京の自民党議員には、2023年4月の江東区長選を巡る選挙違反で有罪が確定した柿沢未途氏(離党し、衆院議員を辞職)もいる。
「昭和の古い選挙だ。若いのがなんでこんなことしてるんだって、びっくりしちゃう。これから政治家に戻るのは無理じゃないかと思う。出ると言われても賛成しません」

都知事選「『反小池』の候補者を立てる必要はない」

記者会見で衆院東京15区補選について質問を受ける小池百合子都知事=3月29日、東京都の公式Youtubeチャンネルより

記者会見で衆院東京15区補選について質問を受ける小池百合子都知事=3月29日、東京都の公式Youtubeチャンネルより

-その柿沢氏の辞職に伴って行われる衆院東京15区補選には、都民ファーストの会が「五体不満足」で知られる作家の乙武洋匡氏を擁立する。自民党は独自候補の擁立を見送り、乙武氏を支援するかどうかを検討している。
「聞いたばかりだから分からない。自民党としては、政策面などでベストな候補が見つかればいい」
-小池氏自身が東京15区補選に出る可能性も取り沙汰されていたが、これでなくなり、小池氏は7月の都知事選で3選を目指す公算が大きくなった。
自民党都連から小池さんに対抗馬を立てるような動きはゼロだ。ぶつけ合うようなタマがいない。私がやりましょうという人もいない。以前のように、激しく戦ってたたき落とせというような場面は完全になくなった。小池さんもずいぶん変わって、自民党寄りになってきた。小池さんがそのまま出るならば、自民党としては別に『反小池』の候補者を立てる必要はない。『不戦』だろう。不戦敗じゃない。勝ちでも負けでもないということだ」
-小池氏は自民党を離党して地域政党都民ファーストの会」を設立し、都議会で自民党と対立してきた経緯がある。自民党都連と小池氏は仲直りしたのか。
「小池さんの身勝手さには、みんな心の中にしこりが残っている。それでも何となく関係は修復されつつあるように感じる。そもそも(自民党時代には)同じ意見でやってきた。彼女は都連の副会長もやっていて、当時はみんな仲間だった」

石原伸晃氏の参院選くら替え「相談が来れば賛成する」

深谷氏の東京・浅草の自宅には、往年の名優・石原裕次郎さん(1987年死去)の肖像画があしらわれた大型の時計が飾ってあった。「あれは裕次郎さんですね」と話を振ると、裕次郎さんや兄の慎太郎元都知事(2022年死去)ら石原家との交友についても語ってくれた。深谷氏と石原慎太郎氏は、1972年の衆院選で初当選した同期でもある。
石原裕次郎さんとの思い出を語る深谷隆司氏。後方には裕次郎さんの肖像画をあしらった時計が飾ってある=3月26日、台東区雷門で

石原裕次郎さんとの思い出を語る深谷隆司氏。後方には裕次郎さんの肖像画をあしらった時計が飾ってある=3月26日、台東区雷門で

「あれは裕次郎の家で、彼と酒を飲んでる時にもらった時計。壁にあった時計をそのまま外して『深谷大兄』って横に書いてくれた」
裕次郎とは本当に親友だった。石原慎太郎の関係で裕次郎と知り合ったが、裕次郎の義理人情は桁違いだった。どんな時も人の気持ちを考えて、人を第一にする。だからみんなに好かれた」
裕次郎さんは52歳の若さで亡くなった。
「亡くなる数日前に共通の知人から電話があって、裕次郎が『先生が来てくれない。見捨てたのか』って言ってますよっていうんで、病院にすっ飛んでいった。その時、彼はちょうどベッドに横になって、向こう側を向いて寝ていたんだけれど、ぼくに気が付いて振り向いて、ぼくの方を向いて寝たままずっと喋り続けた。それが最後になっちゃった。それから1週間もしないうちに亡くなってしまって。すごくいいやつだった。最高だった」
「慎太郎というのは優秀な人だけれども、自分が優秀だと思いすぎている。都知事選の時、車の中で彼は歌を歌ってね、『深谷さん、裕次郎より上手いの分かるでしょう』って。上手くないのよ、全然。つやもないし。全部、自分が一番だと思っていて、それを割と露骨に見せるの、いろんな場面で。私は『そんな言い方やめろよ、みっともねえから』と怒ったことがあるけどね」
-慎太郎氏の長男の石原伸晃自民党幹事長は2021年の衆院選で落選し、選挙区だった衆院東京8区には既に別の自民党公認候補が決まった。
次期衆院選への不出馬を表明する石原伸晃氏=2023年6月、自民党本部で

次期衆院選への不出馬を表明する石原伸晃氏=2023年6月、自民党本部で

「地元(の杉並区)は『石原村』と言われていて、まさか落ちるとは思わなかった。東京の選挙の怖さだ。彼は私と会うと正座してあいさつする、そういう生真面目さを持ったいい人ですよ。逆に言うと、もうちょっとこう、裕次郎に近い部分があるといいね。もうちょっと突っ込む雰囲気がほしい」
-本人は、衆院選にくら替え出馬する丸川珠代参院議員の「後釜」として参院選東京選挙区に立候補を希望しているとも。
「まだそういう話はないが、私に相談が来れば賛成しますよ」
(インタビューは3月26日に行いました。その後、自民党の「裏金議員」の処分や衆院東京15区補選を巡る新たな動きがあったため、3月29日に電話で追加取材した上で構成しました)

深谷隆司(ふかや・たかし) 1935年、東京・浅草生まれ。終戦満州(現在の中国東北部)で迎える。早稲田大法学部卒業後、東京都台東区議(1期)、都議(1期)を経て、1972年から2009年まで衆院議員を通算9期。初当選同期は「YKK」と呼ばれた小泉純一郎加藤紘一山崎拓の3氏や石原慎太郎氏ら。自民党では中曽根派、渡辺派、山崎派に所属した。郵政相、自治相、通商産業相、自民党総務会長などを歴任し、2012年に政界引退。現在は自民党都連最高顧問、「TOKYO自民党政経塾」塾長を務める。ブログは「深谷隆司の言いたい放題」