東海自然歩道 手軽なレジャー半世紀(2024年3月30日『東京新聞』-「社説」)

 東京都から静岡、愛知、岐阜、三重、滋賀各県などを経由して大阪府に至るハイキングルート「東海自然歩道」=地図=が今年、整備完了から50年を迎える。総延長約1700キロのコースは近年も大勢の人でにぎわう。半世紀も前に現今の健康ブームやウオーキング文化の隆盛を見越したような事業は、慧眼(けいがん)というべきだろう。
 環境省によると、国が1960年代後半、「東京と大阪をのんびり歩いて結ぶ」構想を提唱したところ、高度経済成長や高速交通網へのアンチテーゼとして、歓迎の世論が盛り上がったという。当時の佐藤栄作首相が、野党の質問に「珍しくお褒めをいただいた」と早期実現を表明。69年に整備が始まり、旧来からの散策路を歩きやすく改良、途切れた区間をつなぐなどして74年7月に完成した。
 利用者数は2021年度で約440万人。コロナ禍前の19年度比4割強の減だが、観光客利用が多い東京や京都での急減が主因。地元住民が主体の東海地方では逆に増えた。愛知県は「“密”でない手軽なレジャーとして需要が高まった」とみる。環境省によると、今は全ルートで利用者数が回復しているという。
 維持管理は地方自治体が担う。例えば愛知県春日井市は、市民2人に委託して市内区間14キロを月に4回歩いてもらい、土砂崩れなどに目を光らせる。橋などの老朽化も目立ち、県が優先順位を付けて補修している。愛好者からは「都府県によって整備状況に差がある」との指摘もあり、環境省は今後、平準化させていく考えだ。
 山中の絶景あり、神社仏閣を巡るルートありで多彩な自然歩道だが、近年は歩道付近でのクマの目撃も目立つ。その注意喚起などにも各自治体は気を配る。
 「東海」以降、長距離自然歩道の整備は全国各地で進み、現在は北海道から九州まで10路線、総延長は約2万8千キロに達する。自然環境への人々の関心や理解はかつてないほど高く、「散策・ウオーキング人口」だけで5千万人との調査結果もある。その受け皿としての自然歩道の役割はますます大きくなりそうだ。

 

コースガイド | 東海自然歩道連絡協会公式サイト