新年度予算が成立し、通常国会は後半戦に入った。だが、自民党派閥の裏金問題は真相に近づくどころか、疑惑が深まる一方だ。
派閥の政治資金パーティー収入の一部を還流させる裏金作りがいつ、どのような経緯で始まり、なぜやめられなかったのか。いまだ明らかになっていない。
政治倫理審査会で「記憶にない」と発言していた世耕弘成氏は、きのうになって3月会合を認めた。ただ、還流に関する議論は「全くない」と主張している。
他の安倍派幹部も政倫審で、還流については4月に初めて協議したと口をそろえる。本当に3月時点で話題にならなかったのか、事実を明らかにするには偽証罪が適用される証人喚問が必要だ。
裏金作りは二十数年前に始まったとされ、安倍派幹部は「歴代会長と事務局長との間で慣行的に扱ってきた」と証言する。
鍵を握るのが当時会長だった森喜朗元首相だ。政界引退後も派閥運営に影響力を保ち、22年7月の安倍氏死去後に関与を強めた。
岸田文雄首相は党の追加聴取の対象に森氏も「含まれうる」と述べたが、密室での身内による聞き取りで真相に迫れるか疑問だ。国会に招致し、話を聞くべきだ。
問題は安倍派にとどまらない。二階俊博元党幹事長は、政治資金収支報告書への不記載額が現職議員で最多の3526万円に上る。にもかかわらず、政倫審にさえ出席していない。次期衆院選への不出馬表明によって、説明責任を免れるわけではない。
首相は来週にも関係議員を処分すると表明した。だが、裏金作りへの関与の実態が分からなければ、公正な処分はできないはずだ。
予算成立を受けた記者会見で首相は「来年以降に物価上昇を上回る賃上げを定着させる」と強調し、9月の自民党総裁選での再選に意欲をにじませた。だが取り組むべきなのは政権の延命策でなく、裏金問題のうみを出し切り、国民の信頼を取り戻すことだ。