「知らない」連発の下村博文氏 証人喚問求められると「そもそも偽証していない」 森喜朗元首相の関与は…(2024年3月18日『東京新聞』)

 
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、衆院政治倫理審査会では18日午後、安倍派の下村博文文部科学相が説明に立った。
下村氏は安倍派の5人の有力者「5人衆」と距離があるとされ、党内から「何かを暴露するかも」と警戒されたキーマン。だが、政倫審では「知らなかった」「分からない」と、自らに責任がないかのような発言を繰り返した。
派閥から所属議員側へのキックバック(還流)は、なぜ復活したのか。裏金作りについて、安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相の関与はあったのか。何度も追及された下村氏は、何と答えたのか。(デジタル編集部、政治部)
衆院政治倫理審査会で弁明する下村博文元文部科学相=18日、国会で(代表撮影)

衆院政治倫理審査会で弁明する下村博文文部科学相=18日、国会で(代表撮影)

◆15:21 「裏金として何かに使用した事実はない」

下村氏は冒頭の弁明で、自身が代表を務める自民党支部政治資金収支報告書に、安倍派からのパーティー収入のキックバック分を記載していなかったことについて「国民の皆さま方に多大なる不信と疑念をいだかせてしまった。心より謝罪する」と陳謝した。
下村氏は派閥パーティー券について、毎年ノルマ分のみを販売することを目標にしていたため、2018年はノルマ超過が発生しなかったが、新型コロナ禍でパーティー規模が縮小されたことでノルマが半減した19年以降、22年までの4年間で計476万円の不記載があったと説明した。
超過分は専用口座や現金で区別して管理し、使うことなく保管していたとして、「いわゆる裏金として何かに使用した事実はなかったことは明らかだ」と強調。ノルマ超過分がキックバックされていたことや、それを事務所で管理していたことは「当時は知らなかった」と述べた。

◆15:26 「安倍元首相の中止指示で、初めて還流を知った」

2018年1月から19年9月まで、安倍派の事務総長だった下村氏。「会計には全く関与しておらず、清和研(安倍派)の収支報告書について相談を受けたり指示したことはなかった」と説明し、キックバックの事実は22年4月に、会長の安倍晋三元首相から中止の指示があって初めて知ったとした。
キックバックが中止されず継続となった経緯については、2022年7月に安倍氏が死去した後に「派閥の事務局において、これまでの慣行に則って還付が行われたと思う」と語った。下村氏は当時、安倍派の会長代理だったが、「派閥の事務局に指示したり了承したりしたことはない」と強調した。
衆院政治倫理審査会で一礼する下村博文氏=18日、国会で(代表撮影)

衆院政治倫理審査会で一礼する下村博文氏=18日、国会で(代表撮影)

自身の収支報告書不記載は、安倍派事務局からの問い合わせがあり「秘書に確認した昨年(2023年)の暮れ以降」に把握したという。
高まる政治不信について「痛恨の極み」と述べ、「資金の透明化を図る手立てを講じ、国民の信頼を取り戻せるよう精進を続けたい」と話した。

◆15:31 2005年に還流の報道あったのに…

自民党井出庸生氏は、下村氏が安倍派からのキックバックを知らなかったと説明した点をただした。
井出氏は「有名な話」として、2005年に共同通信などが森派(現・安倍派)によるパーティー券のノルマ超過分のキックバックを報じていると指摘。「1996年に初当選をされ、若手中堅の時に、そうした経験や記憶というものはなかったのか」と尋ねた。下村氏は「私は還付を受けておりませんから、全く承知しておりませんでした」と答えた。

◆15:40 会見で明かした「ある人」って誰?

井出氏は、焦点の一つになっている2022年8月の安倍派の幹部会合について、下村氏が2024年1月の記者会見で、「ある人から」派閥パーティー券の販売ノルマを超えた分について議員個人のパーティーの売り上げに上乗せする形でキックバックする案が出たと説明したことについて、「ある人」とは誰かと質問。下村氏は「実は私も覚えていない」と答えた。

下村氏はこの会見で、記者からも「ある人」について問われたが、「取材して」と答えている。井出氏は、下村氏が「ある人」が誰かを知っていてけむに巻いたのではないかと詰めた。
だが、下村氏は「私自身、特定できていないので、記者に、取材して調べてくださいという意味で申し上げた」と述べた。

◆15:50 還流「8月の会合で継続決めていない」

立憲民主党の寺田学は、焦点となっているキックバック継続の経緯から質問を切り出した。尋ねたのは、下村氏も出席していた2022年8月に安倍派幹部が集まった会合のことだ。
この会合について、下村氏は「還付は止めるということが前提の議論だった」とし、「そもそも8月の会合で還付を継続すると決めたということは全くない」と断言した。
下村氏によると、2022年8月の会合では、キックバックの代わりに「(所属議員が販売した)パー券を派閥が購入して、協力をするという形が取れるのではないか」と代案が示されたが、「結論は出なかった」という。
「私自身がいる場所で決めたということは全くない。いつ誰がどんな形でどのように決めたかというのは、私自身、本当に存じ上げていない」とも語り、キックバック継続への自身の関与を繰り返し否定した。

◆16:00 森元首相の影響力「承知していない」

寺田氏は続いて、安倍派における森喜朗元首相の影響力について追及した。下村氏は森氏と距離があるとされる。
寺田氏は、安倍晋三元首相が2022年7月に死去した後、8月に森氏が岸田文雄首相と会食し、下村氏を除く安倍派の有力者5人を重用するよう求めたとの報道に言及。安倍派の人事や派閥運営に森氏が「大きな影響力を持っていたんじゃないか」と尋ねた。
下村氏が「私自身、その場所にいたり関わったりしていないので、全く承知していない」と答えたので、寺田氏は重ねて「この(有力者5人の)『5人衆』と塩谷(立座長)さんと森さんの中で物事を決めていく派閥運営だったんじゃないか」などと迫ったが、下村氏は「そのことについては全く承知していない」と繰り返した。
森喜朗元首相

森喜朗元首相

◆16:07 「森会長時代に還流開始では?」に「分からない」

寺田氏は、森元首相が安倍派会長だった1999年の政治資金規正法改正を機にキックバックが始まったのではないかと追及した。
これに対し、下村氏は「私自身は2018年まで還付を受けておらず、そもそも、そういうことがあったことも承知していなかった」として、「確定的にいつから(始まったのか)ということは、私自身は分からない」と述べた。

◆16:13 還流は「筋が違う」と思っていた

日本維新の会の岩谷良平氏は、2022年4月に安倍晋三元首相からキックバックの中止を指示されたことについて、「(安倍氏が)『合法』であるキックバックをなぜやめようとおっしゃったのか、疑問に思わなかったのか」と質問した。
下村氏は「(派閥パーティー券を)ノルマ以上に売り上げて還付するというのは、本来、筋が違うのではないか」と思っていたと説明。当時は、キックバック分が政治資金収支報告書に記載されていないとの認識がなく、違法性の認識もなかったとした上で、「(中止は)適切な判断だと思ったから、特に疑問は感じなかった」と答えた。

◆16:18 証人喚問への出席は拒否

岩谷氏は「きっちりと法に誓って、偽証罪の制約の下で、堂々とご持論を述べていただく。それが筋じゃないか」と述べ、虚偽の答弁をすれば偽証罪に問われる証人喚問への出席を下村氏に求めた。
だが、下村氏は「そもそも偽証していないので、偽証罪という前提そのものが違うと思っている。この政倫審でしっかりと正しい、私自身のことについてご説明をしている」と否定。岩谷氏は「なぜそんなに証人喚問に及び腰なのかが全く理解できない。残念だ」と語った。

◆16:21 還流継続を切り出した人物は「承知していない」

公明党の中川康洋氏は、2022年にいったん中止が決まったキックバックが継続されることになった経緯について、「誰がこういった(継続の)話を切り出したのか」と聞いた。
下村氏は、22年8月5日の幹部会合で、所属議員からのキックバック継続を求める声を受けて「法に則って(キックバック)できないのかという深掘りの議論もあった」と説明したものの、切り出した人物については「承知していない」とかわした。「誰かが突出して話したということではなく、みんなで協議した」と語った。

◆16:25 森派の「上乗せ」報道は「存じ上げていない」

中川氏は、森派(現・安倍派)の政治資金パーティー券の売り上げノルマ超過分が(お盆や正月に派閥から支給される)「氷代」や「餅代」に上乗せして若手議員に還元されていたとする2005年3月の共同通信の報道に関して、「下村議員は当時、3期目の若手。記憶があるか。当時このような話を聞いたことがあるか」と質問した。
下村氏は「(自身の選挙区がある)東京のメディアでは、2005年にそういうことを発信したところはなかったと思うので、存じ上げていない」と答えた。中川氏は「東京新聞と神奈川新聞も配信しているので、多分そこには出たんじゃないか」と述べた。

◆16:31 合法的に還流、提案者は「記憶にない」

「違法性が共通認識になっていたのではないか」。共産党の宮本徹氏は、下村氏が2024年1月の記者会見で、2022年8月の安倍派の幹部会合について「還付分は収支報告書で合法的な形で出すという案が示された」と発言したことを問いただした。
下村氏は「(8月の会合で)還付が不記載で違法だとの話は全く出ていないし、私自身そういうふうには認識していない」と重ねて否定した。
「合法的な形で出す」との案を誰が示したかについても、「特定の人が念頭にあるわけでなく、覚えていない。(安倍派の会見責任者だった)松本淳一郎事務局長(政治資金規正法違反=虚偽記載=の罪で在宅起訴)も発言したかもしれないが、一番最初に発言したかは、ちょっと記憶にない」とはぐらかした。
 

◆下村氏の政倫審の注目ポイント

【① なぜキックバックは復活したのか?】
安倍派の幹部では、事務総長経験者の西村康稔経済産業相松野博一官房長官塩谷立文部科学相、高木毅前国会対策委員長が3月1日の衆院政倫審に、世耕弘成参院幹事長が3月14日の参院政倫審に出席。だが、2022年にいったん中止が決まったパーティー収入のキックバック(還流)を継続することになった経緯を巡り、証言の食い違いが生じており、下村氏の説明が注目されていた。
これまでの幹部らの説明で、2022年4月の幹部会合で安倍派会長だった安倍晋三元首相がキックバックの中止を指示し、安倍氏が7月に死去した後、8月5日の幹部会合でキックバックを続けるかどうかを協議したことが分かっている。2回の会合には西村氏、塩谷氏、世耕氏、下村氏と派閥の事務局長(職員)が出席していた。

安倍派の還流復活の経緯について食い違う証言
(2022年8月5日の会合について)
西村康稔氏「幹部で議論をしたが結論は出ず、8月10日に経産大臣になり事務総長を離れた。その後、どういった経緯で継続されることになったのか承知していない」
塩谷立氏「(還流が廃止されると)困る人がたくさんいるから継続でしょうがないかなという、そのぐらいの話し合いの中で継続になった」
世耕弘成氏「「8月の会合で現金還付の復活が決まったことはない。(なぜ復活したかは)残念ながら分からない」

【② 森元首相の関与はあったのか?】
自民党の調査報告書や、これまでの安倍派幹部らの証言から、裏金づくりは森氏が会長だった1998年12月~2006年10月(首相在任中の2000年4月~2001年4月を除く)ごろに始まった可能性があることから、与野党から森氏の聞き取りを求める声が上がっている。だが、岸田文雄首相は「自民党の調査で森元首相の関与を指摘する証言は確認されていない」として消極的な姿勢だ。
安倍派幹部の中では森元首相と距離があったとされ、安倍氏の死去後は派閥の集団指導体制からも外れていた下村氏が、森氏について何を語るかも焦点となっていた。
 

下村博文(しもむら・はくぶん) 衆院東京11区(東京都板橋区の大部分)選出で、当選9回。自民党政調会長文部科学相などを歴任。安倍派では2018年1月~19年9月に事務総長を、安倍晋三元首相が派閥会長に就任した2021年11月から23年8月まで会長代理を務めた。安倍派の元会長で現在も強い影響力を持つ森喜朗元首相とは距離があるとされる。安倍元首相の死去を受けて2023年8月に発足した新体制では、派閥の意思決定機関の常任幹事会のメンバーから外れた。