合理的配慮=障害者への接客の再点検を(2024年3月27日『日本経済新聞』-「社説」)

 
ロボットによる視覚障害者の移動支援を実験した商業施設も
 

 4月1日から改正障害者差別解消法が施行される。流通・サービス業などの企業や各種団体は、障害のある人々が店舗などを利用しやすいよう配慮することが義務になる。接客や応対の体制は万全か改めて点検したい。

 同法は2016年に施行され、負担が重すぎない範囲で障害者からの要望に応じる「合理的配慮」を行政機関に義務づけた。民間事業者については配慮に努める「努力義務」だけを課してきたが、21年の法改正で正式な義務となり、今春施行となる。

 すべての企業が法改正を理解しているか心もとない。例えば昨年9月の宿泊業者への調査では、4割が今回の義務化を「知らない」と答えた。研修をしている宿泊業者は2割に満たなかった。関連業界は準備を急ぐべきだ。

 事業者には「合理的配慮」の範囲がわかりにくいとの声がある。同法は事業者と利用者の双方に、個別の条件や状況を踏まえた建設的対話を通じ最適な策を工夫するよう期待しているからだ。

 内閣府は動画やイラスト入り解説書を用意し具体例を紹介している。飲食店に車いす利用者が訪れた場合なら「経験がない」と拒否せず、通常のいすを片づけ食事場所をつくる、といった具合だ。

 こうした資料を参考に、自分たちにはどんな対応が可能か話し合っておきたい。現場の従業員の混乱を避けられ、結果的に利用もスムーズに進む。

 障害のある人々が暮らしやすい社会をつくるため、先行企業ではさまざまな対応策が進んでいる。点字や大きな活字のメニューを備えたレストランチェーン、騒々しい環境が苦手な人のために静かな時間帯を設けた家電量販店などの例がある。ITやロボットを活用する余地も大きい。

 現場での工夫からいいアイデアが生まれたら、企業や業界の枠を超えて共有する手もある。内外の障害者の声をふだんから聞くのも有効だろう。企業、利用者とも萎縮せず意見を出し合いたい。