◆映画館側は「謝罪文の通り」
「お客さまの映画ご鑑賞後に弊社従業員がお客さまに対し、不適切な発言をしたことが判明いたしました」。「イオンシネマシアタス調布」(調布市)を運営するイオンエンターテイメントが16日、ウェブサイトに謝罪文を公開した。
いきさつはこうだ。この前日に「車椅子インフルエンサー」を名乗る観客が希望した映画を観覧。上映後、従業員に「この劇場はご覧の通り段差があって危ない。手伝えるスタッフも時間があるわけではない。今後はこの劇場以外で見てもらえると、お互いいい気分でいられると思う」と言われたとXに投稿した。
「こちら特報部」がイオン側に確認すると、このやりとりがあったことは認め、「対応としては謝罪文の通り」と答えた。今後は従業員への教育再徹底と再発防止、全劇場で設備の改善を進めるという。
◆「優遇されて当たり前の考えは捨てろ」
一方で「すごい悲しかった」と訴える車いす利用者の投稿には「特例対応を現場に強要するのはハラスメントでしかない」「何でも『優遇』されて当たり前の考えは捨てろ」といった批判のコメントがネット上に並んだ。
こうした論争は過去にも起きてきた。2013年、著書「五体不満足」で知られる作家の乙武洋匡氏が、車いすであることを事前に言わないで訪れたレストランに入店拒否された経緯を投稿すると、店への苦情とともに「傲慢(ごうまん)」などと乙武氏にも批判が相次いだ。
◆「過重な負担」の線引きは明確でない
この4月からは改正障害者差別解消法が施行され、国や自治体に加え一般企業にも障害者への「合理的配慮」が義務化される。国は合理的配慮の例として「物理的環境」「意思疎通」「ルール・慣行の柔軟な変更」を挙げるが、明確な基準はなく、企業側に「負担が過重」な場合は除かれる。
◆企業はできないことの明示を
「障害者が要望を伝えることは大切」としつつ、根拠や論理がないことまで主張してよいわけではないとも指摘。企業と障害者の関係は新たな段階に入りつつあるとし、「企業の側もできることとできないことを明示しておくことが望ましい。互いに主張しつつも譲歩し、満足できる合意点を探ることが建設的対話だ」と話す。
日本障害者協議会(東京)の藤井克徳代表は映画館の対応について「現場の従業員を責めるのは酷。あくまで会社の姿勢の問題だ」としつつ、「もし車いす利用者の訴えが『過重負担』とされてしまえば、法律の趣旨は骨抜きになってしまう。過重負担を企業の言い訳に使われてはいけない」と懸念する。
◆批判の応酬では出口は見えない
ネットでの批判については「匿名で非常にひきょう。根深い集団差別の一つだ。ただ、内心の問題に踏み込むのは難しく、議論自体を抑え込むのも違う」と悩ましさを吐露する。その上で「批判の応酬では出口は見えない。まずは政策を実施し、社会を変えることが大切だ。障害者と健常者が同じように映画を見ている状況が当たり前になれば、多くの人の認識も変わる」と訴えた。
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