ばかやろう(2024年3月28日『山形新聞』-「談話室」)

▼▽92歳の人間国宝ならではの境地だった。人の愚かさと滑稽さが自然体の演技から滲(にじ)み出る。山形市で先日、狂言「萩(はぎ)大名(だいみょう)」に出演した野村万作さんである。訪問先で咲く萩の花を歌に詠む羽目になる大名が役どころだ。

▼▽素養のまるでない大名は、従者の太郎冠者(かじゃ)から事前に一首仕込んでいる。だがいざ、という段になるときれいに忘れていた。冠者が助け船を出して途中までしのぐものの、最後は化けの皮が剝がれてしまう。はるか昔の話? いいや、先日似たようなニュースを見て驚いた。

▼▽自民党の重鎮、二階俊博元幹事長の記者会見である。裏金事件で自派が立件されたことの「政治責任は全て私自身にある」。次期衆院選に立候補しないと表明した。潔いと思っていたら、質疑応答では代わりに口を開く人がいる。隣に控える最側近、林幹雄元幹事長代理だ。

▼▽二階氏も時に自ら答える場面があった。ただし、飛び出した言葉はあまりにもそぐわない。不出馬と85歳の年齢の関係を問われ「おまえもその年がくるんだよ。ばかやろう」。太郎冠者ならぬ最側近にもっと委ねていれば、この期に及んで馬脚を現すこともなかったろうに。