こうじと人間(2024年3月28日『北海道新聞』-「卓上四季」)

 国の花はサクラ、国の鳥はキジ、国の蝶(ちょう)はオオムラサキ。ここまでは何となく聞いたことがある。では国の菌はどうか。答えはこうじ菌。日本醸造学会が国を代表する微生物として約20年前に選んだ

▼とことん働き者のカビの仲間である。みそ、しょうゆ、みりん、日本酒、焼酎はみな、こうじ菌のおかげでできる発酵食品だ。和食のうまみを生み出す調味料、そして左党が小躍りする美酒。どちらも身近にいるこの生き物なくして存在しない

▼食物の味や香りを高め、栄養を吸収しやすくし、長く保存できるようにする。こうじ菌を含め、発酵がもたらす三つの効果だ

▼日本人との付き合いは古い。みそやしょうゆの原形は奈良時代より前に大陸から渡来したようだ。酒造用の米こうじを造る技能集団も古くからあり、室町時代に商った記録が残る。(中島春紫(はるし)「発酵の科学」)

▼こうじを巡って心配なニュースが流れた。この菌の一種、紅こうじを使った小林製薬サプリメント健康被害をもたらした疑いがある。コレステロールを抑える効果をうたうが、口にした人が亡くなった例も伝わった

▼健康を願って有名な企業の製品を求める。なのに体調を損ねたとしたら、一体何を信用すればいいのだろう。こうじ自体に問題がある可能性は今のところ低いとされる。しかし命と健康にかかわる深刻な事態である。一刻も早い原因究明を待ちたい。

 

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麴菌をわが国の「国菌」に認定する-宣言


麴菌は、古来わが国の醸造をはじめ、いろいろな食品に用いられており、わが
国の豊かな食文化に貢献してきた。また、高峰譲吉博士が 110 余年前に消化剤
タカジアスターゼを抽出・創製したのも麴菌からである。
2005 年には、わが国の産学官研究グループによって麴菌(Aspergillusoryzae)
の全遺伝子配列が明らかにされ、今後ますます産業的に重要な菌として医薬品を
はじめ、広い分野で有用物質の生産に用いられるであろう。
本宣言の発案者である一島英治博士は「日本からの麴菌の科学技術と文化の発
信は、21 世紀の世界に大きなインパクトを与えるものと期待される。」と述べて
おられる。
この期をとらえ、日本醸造学会は、われわれの先達が長い間大切に育み、使っ
てきた貴重な財産「麴菌」をわが国の「国菌」に認定する。
平成18年10月12日 日 本 醸 造 学 会
平成25年11月28日 一部改正(菌名変更)
麴菌とは、
わが国で醸造及び食品等に汎用されている次の菌をいう。
(1)和名を黄麴菌と称する Aspergillusoryzae。
(2)黄麴菌(オリゼー群)に分類される Aspergillus sojae と黄麴菌
の白色変異株。
(3)黒麴菌に分類されるAspergillus luchuensis(Aspergillus
 luchuensis var. awamori)及び黒麴菌の白色変異株である白麴
菌Aspergillus luchuensis mut. kawachii(Aspergillus kawachii)。
注)Aspergillus niger(クロカビ)は、黒麴菌とは異なる菌種で
あり、麴菌には含めない。

【参 考】

① 村上英也編著:麴学、p.61~78、(財)日本醸造協会、
東京 (1986)
 ② 山田 修:醸協,101(1)64-67(2015)
写真は Aspergillus oryzae の頂のう部と分生子
(提供:東大 北本勝ひこ先生