紅こうじサプリ 被害拡大防ぎ、安全見直せ(2024年3月31日『茨城新聞』-「論説」)

 紅こうじを使った小林製薬(大阪市)のサプリメント健康被害が発生し、死亡事例が報告された。被害把握から使用停止の呼びかけまで2カ月余りかかっており、消費者に情報を伝えるのが遅れた同社の責任は重い。

 被害拡大を防ぐのが最優先であり、店頭からの製品回収を急がねばならない。消費者からの問い合わせが続いており、不安に応える態勢づくりが必要だ。

 紅こうじサプリが被害を引き起こした仕組みや、患者の症状との関連などはまだはっきりしない。健康被害が起きた原因を究明しなければならないのは言うまでもない。同時に、紅こうじサプリのような「機能性表示食品」の安全確保策も検討するべきだろう。

 これまでに死亡は4例報告されており、入院は90人を超えた。大阪市厚生労働省の通知を受け、自主回収の対象となっている3製品の回収命令を出した。

 小林製薬によると、医師からの通報で健康被害の可能性を知ったのは1月15日。2月上旬には腎疾患の症例を複数把握していたが、3月22日まで明らかにしなかった。

 原因が判明しなかったため、「公表すべきかどうか判断できなかった」としているが、公表の遅れが被害者を増やした可能性もある。もっと早く製品を回収し、利用の停止を呼びかけるべきだった。小林製薬の判断は、利用者の健康を守ることを後回しにしたと言われても仕方あるまい。

 蒸した米に紅こうじ菌を混ぜて発酵させて作る紅こうじは伝統的な食品で、天然の着色料としても広く使用されてきた。

 小林製薬は紅こうじ原料を170社以上の飲料メーカーや食品会社に販売しており、各社も製品の自主回収に乗り出した。いまも健康被害による消費者の不安は広がり続けている。小林製薬には問い合わせが殺到しており、同社だけで対応しきれない可能性もある。

 政府や自治体は消費者センターや保健所、自治体の窓口などでも相談に応じ、利用者の不安に耳を傾け、必要なら医療機関への仲介をしてほしい。こうした幅広い取り組みの中から、原因の究明につながるヒントが見つかるかもしれない。

 体への効能を表示できる健康食品は「栄養機能食品」「特定保健用食品(トクホ)」が先行し、2015年から機能性表示食品が加わった。

 ビタミンなどの含有量に規格基準がある栄養機能食品や、国の許可が必要なトクホと違い、機能性表示食品は、効能を裏付ける学術論文などを消費者庁が受理すれば「脂肪の吸収をおだやかにする」などの機能性を表示し販売できる。

 高齢化社会で関心が高まる健康食品を成長市場と見て、安全に関わる規制を緩和して生まれたのが機能性表示食品ではないか。当時の政府の判断が妥当だったかあらためて検証する必要がある。

 届け出済みの製品は約6800件に上る。消費者庁は全ての機能性表示食品を対象に緊急点検を始めたが、それだけで安心を取り戻せるわけではないだろう。

 機能性表示食品による健康被害や製品回収は初めてであり、軽視するわけにはいかない。製品の効能だけでなく、リスクを巡る情報も消費者に知らせる必要があるだろう。安全性の視点から現行制度を見直し、改善策を探ってほしい。