自称「美男」の渋沢栄一(2024年3月26日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 「日本の資本主義の父」と称される渋沢栄一の伝記小説『雄気堂々』(城山三郎著)は銅像の話から始まる。功績をたたえて複数の銅像が建てられたが、渋沢は「また雨ざらしにされるのは、ごめんだね」と丸い顔をしかめたという

◆渋沢の意をくんでか、東京・丸の内界隈(かいわい)には屋内の像もある。小太りでがっしりしているが、足が短い。城山は「そのせいか、この自称『美男』は、ほとんど胸像ばかり残している」と書いている

◆「財布の中に入れられるのは、ごめんだね」。顔のアップとなった「美男」は、そうぼやくかもしれない。渋沢の肖像画をデザインした新1万円札など、新たな紙幣3種類が7月3日から発行される。デザイン刷新は2004年以来、20年ぶりになる

◆5千円札は女性の地位向上に尽力した津田梅子、千円札は破傷風の治療法を開発した北里柴三郎日本銀行は3月末までに合わせて45億3千万枚を印刷する計画で、夏の出番に向けて着々と刷り上がっているだろう

◆物価高が続く中、今春闘は大手企業の満額回答が相次いだ。岸田文雄首相は「あらゆる手を尽くす」と賃上げ継続に力を入れているが、中小に広がるかどうかは不透明。できることなら北里、津田よりも渋沢とお近づきになりたいところ。「ごめんだね」と財布の中にはとどまってくれそうにないが…。(知)