弁当とフライパン(2024年3月26日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 ランドセルが歩いているようだった後ろ姿が懐かしい。たくましく成長した若者たちの、社会へこぎ出でる笑顔は晴れやかだ。県内の大学や高校で卒業式が終わった

▼<教室にもどると/いいにおい/お母さんが作ってくれたお弁当だ>。本紙1面「たから箱」に掲載された天草市の小学生の詩だ。運動会、遠足、日々のランチ。弁当は、控えめだがしっかりと思い出の一コマに顔をのぞかせてきた

▼その弁当づくりに欠かせないフライパン。ただ、ちょっと気になるニュースもある。表面加工に使用されている有機フッ素化合物(PFAS)のことだ。水や油をはじく特性の一方で、発がん性や免疫機能への悪影響が指摘されている

▼大手調理器具メーカーによると、こびりつきにくいフライパンが生まれたのは70年前の1954年。フランス人技師が釣り道具の手入れをしていて、アルミニウムにフッ素樹脂を加工することを思い付いたという

▼インターネット上には、調理段階でのPFASの摂取を心配する声もあるが、そこまで不安視する必要はなさそう。生活用水などのPFASを調査している京都大の原田浩二准教授は「普通の使い方をすれば、フライパンからPFASを摂取することはほとんどありません」と指摘している。加工された樹脂がはがれても体内にとどまることはない、とも

▼卵焼きを巻いたり、野菜を炒めたり。今日も朝から大小さまざまなフライパンが活躍している。作り手と食べる側が、おいしさと笑顔を共有するために。