政治家は政策より「政党」で選ばれる 候補者選びで締め切りギリギリを攻める韓国
4月10日投開票の韓国総選挙の候補登録が22日に締め切られ、与野党対決の顔ぶれが確定した。保革の二大政党が公認候補を決める党内予備選は先月からつい最近まで行われ、選挙区が決まって間もない候補も少なくない。有権者は候補者より政党を基準に投票する傾向が強く、党主導の選挙戦が展開されている。(ソウル・木下大資、写真も)
韓国主要政党の予備選 選挙区ごとに公認候補を一本化するため、有権者への世論調査方式で実施した。調査対象は国民の力が党員20%、一般国民80%(一部地域を除く)。共に民主党は党員と一般国民が50%ずつで、熱心な支持層の意向が反映されやすかった。競争力のある候補を予備選なしに選定する「戦略公認」を行った選挙区もある。
◆「楽な選挙区から出れば公正性を疑われる」
光明市で15日、事務所で支援者と会話する共に民主党の金南希候補(右)
革新系の最大野党「共に民主党」の新人金南希(キムナミ)候補(46)はソウル出身だが、近郊の光明(クァンミョン)市の選挙区から出馬する。市民団体で活動した弁護士で、党との協議で選挙区が決まったのは2月末。そのわずか1週間後に世論調査による予備選を迎えるまで、革新系のユーチューブ番組に出演するなどして顔を売った。住民から「光明の何を知っているのか」と懐疑的な目を向けられることもあるが、「自分の子育て経験などを踏まえ、同世代の課題を解決したい」と訴える。
人の移動が多い首都圏では、候補本人が縁故のない選挙区から出馬することも珍しくない。国会議員の多くが地元に強固な支持基盤を持ち、世襲が多い日本と違い、韓国では政治家の世襲や多選を「既得権」だと捉える傾向が強い。各党は刷新を印象づけるため、ベテラン議員の選挙区を移動させる「再配置」を行うこともある。
一方、保守系与党「国民の力」の新人具滋龍(クジャリョン)候補(45)は幼少期から育ったソウル市陽川(ヤンチョン)区の選挙区から出馬する。野党優勢な地域だが、党非常対策委員を務める立場から「楽な選挙区から出れば公正性を疑われる」と、地元での公認を党に申請し、予備選を勝ち抜いた。国民の力所属の区議らと地下鉄駅に立ち「育った地域を発展させたい」とアピールする。
◆日本より活発な新陳代謝、でもやっぱり現職が強い
韓国メディアによると、今回の公認を通じた現職の交代率は国民の力が35%、共に民主党が40%程度で、日本より新陳代謝が活発な傾向にある(2021年衆院選の新人当選率は20.9%)。培材(ペジェ)大の金亨俊(キムヒョンジュン)碩座教授は「韓国には議員の経験より『新しさ』を重視する政治文化がある」と解説する。
公認から脱落する現職らの不満を抑えるため、両党とも「システム公認」と名付けた措置を実施。現職の能力や競争力などを審査して点数化し、下位の候補は予備選の得票率を減算するほか、若手候補は逆に加算する規定も設け、客観性をアピールしている。
ただ結果的に、国民の力は現職が多く勝ち残り、共に民主党は李在明(イジェミョン)代表と距離を置く非主流派の大半が排除された。党執行部の思惑に沿ってシステムが設計されたとの見方がある。
◆「顔色をうかがう議員が増えた」
与野党とも、世論の反発を招く発言などが発覚した候補の差し替えを登録の締め切り直前まで続けた。
前回2020年総選挙の出口調査では、投票先を選んだ理由は「所属政党」が48%を占め、「人物」「公約や政策」は各23%ほど。各党は「国民の目線」を強調し、党のイメージを損なわないよう腐心している。
金碩座教授は「二大政党の体制が確立されており、公認権を持つ党執行部の顔色をうかがう議員が増えた。総選挙後も(保守・革新の)両極端の政治が続くしかない」と指摘する。