那覇市のLRT計画 地域の足 確保へ議論を(2024年4月9日『沖縄タイムス』-「社説」)

 県民の期待が大きい新たな公共交通計画だ。那覇市内の利便性を図ることはもちろんだが、誰もが移動しやすい街づくりの契機としなければならない。


 那覇市の知念覚市長が次世代型路面電車(LRT)の「整備計画素案」を発表した。

 県庁北口と南部医療センター・こども医療センターを結ぶ東西ルート本線(約5キロ)、県庁北口から久茂地交差点を通過し若狭へ延びる支線(約1キロ)、真玉橋付近の国場から新都心地区へ抜ける南北ルート(約5キロ)の3路線である。

 市は2040年度をめどにまずは本線と支線での運行開始を目指す。

 低床のLRTは高齢者や車いす利用者、ベビーカーでも乗り降りがしやすい。従来の路面電車に比べて騒音振動が少なく、環境負荷が小さいことも特徴だ。

 欧州の都市部では早くから導入され、駐車場がなく空洞化の進んだ中心市街地が、にぎわいを取り戻す原動力となっている。

 原則として車はLRT軌道内を走行できず、車道に敷設する場合は分け合うことになる。市の素案ではルートの大半が県道で、4車線のうち中央2車線がLRT軌道となる予定だ。

 市は今後ルートの変更もあり得るとする。ただ、工事期間を含め、このままマイカー利用が増え続ければかえって交通渋滞がひどくなる恐れもある。

 市外からの乗り入れをどうするのか。競合する路線バスとのすみ分けなど県や関係機関との綿密な調整が欠かせない。

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 県内では20年以上前からLRT導入を求める声がある。

 県の長期計画「沖縄21世紀ビジョン」でも米軍基地の返還跡地の活用と関連し「軌道系を含む新たな公共交通システムの導入が必要」と明記。県は「小型鉄道」「モノレール」「LRT」などで想定してきた。

 一方、ネックとなるのが事業費や採算性だ。

 市は今回、国土交通省の補助を利用。費用約480億円のうち約270億円を国費でまかない、残りは市債を充てるとしている。

 運行業務は民間事業者が担う「上下分離方式」を採用。全線合わせて1日2万1900人の利用を見込み単年度黒字を目指すというが、南北ルートの開業時期は未定だ。

 運賃設定を含め事業収支は精査しなければならない。

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 国内では昨年、75年ぶりに栃木県で新路線のLRTが開業した。先行事例を見ながら地に足の付いた計画にしていく必要がある。

 2006年に既存の路線の廃線をLRT化した富山市では、開通で自宅に引きこもっていた中高年者が日中外に出るようになるなど、市民生活に良い変化があったという。

 県内でも高齢化が進み、自動車免許を返納する人も増えている。公共交通網はますます重要になるに違いない。

 既存の交通機関との機能的な連携や、県民のコンセンサスを得て「県民の足」とするような議論が必要だ。