ひとりが強い(2024年3月24日『福島民報』-「あぶくま抄」)

 吉本隆明(よしもと たかあき)―。この4文字に自らの青春を重ねるのは、団塊の世代か。国家や言葉の成り立ちからファッションまで、縦横無尽に論じた。戦後最大の思想家とも、知の巨人とも評される。今年は生誕100年に当たる

▼長女で漫画家のハルノ宵子(よいこ。本名・吉本 多子(よしもと さわこ)。妹は小説家吉本ばなな)さんが出版した「隆明だもの」が注目を集めている。生前の思い出をコミカルにつづった。小学生の時、学校での募金に協力したところ、冷ややかな反応を示された。後に気付いた。集団でお金を集める同調圧力を、「よし」としなかったのだと

▼吉本さんは、お隣・山形県米沢市の旧米沢高工に学んだ。戦時中、仲間に誘われるまま、上杉神社へ戦勝祈願に出向いた。浮かない感じを覚えたが、断れない。立ち止まれず、好戦的な雰囲気に吞[の]まれてしまったと悔いたようだ。痛恨の念は思索の原点となる。東京下町の小さな窓から、孤独に世界を読み解く。自立の思想と言われた

▼SNSは真偽不明な情報を取り込み、発信者が分からぬまま論評を繰り返す。時に「いいね」の同調を求めることも。自ら考え、立っていられるか。今こそ巨人は存在感を増している。〈群れるな。ひとりが一番強い〉。戦後最大の金句の一つだろう。