「法の支配」へ重責担う赤根氏(2024年3月24日『日本経済新聞』-「社説」)

 

赤根氏はプーチン氏に逮捕状を出した裁判官の1人(2023年12月) =共同

 国際刑事裁判所ICC)の所長に赤根智子氏が日本人として初めて選出された。

 侵略戦争など紛争が絶えないなかでの就任だ。任期は3年。法の支配の回復に向け、正義を追求する重責を全うしてほしい。

 ICCはオランダのハーグに本拠を置く。戦争犯罪や人道に対する罪などを犯した個人を訴追・処罰する国際刑事法廷で900人以上の職員と18人の裁判官が所属する。現在124カ国・地域が加盟し、日本は運営に必要な分担金の最大の拠出国だ。

 ICCへの注目は高まっている。ロシアのウクライナ侵攻に関連してICCは2023年3月、ロシア軍が占領地から子どもを連れ去るという戦争犯罪に関与した容疑で、プーチン大統領らに逮捕状を出した。

 ロシアをはじめ中国などICCに加盟していない国には逮捕状の効力は及ばないため、プーチン氏の拘束は現実的ではない。

 それでも責任を追及し続けるという断固とした姿勢は、国際秩序を維持するうえで意義は大きい。実際、プーチン氏の首脳外交は大幅に制限されており、圧力を感じているのは間違いない。

 赤根氏はプーチン氏に逮捕状を出した3人の裁判官の1人でもある。反発したロシア側は赤根氏を指名手配し、敵視している。文字通り生命を賭した職務だ。赤根氏が手腕を発揮できるよう、安全面を含めて日本政府が支援すべきなのはいうまでもない。

 残念ながら国際機関における日本の存在感は薄い。一方で台頭が目立つのが中国だ。法の支配や自由主義の価値観を広めるのはもちろん、日本として発信力を高め、国際舞台で存在感を高めることは重要だ。多くの人材を送り込む体制づくりを急ぐ必要がある。

 日本の若者は海外への関心が薄れ、内向き志向になっていると指摘される。赤根氏の活躍が刺激となり、国際機関のみならず、世界に挑戦する動機付けになることにも期待する。