ともに経済アナリストである森永卓郎さんと森永康平さん親子は、日本経済をどう見るのか。「年収300万円時代」の到来を予言した父と、人生の大半が「失われた30年」だった息子が語り合った。AERA 2024年3月25日号より。
【写真】バブルの象徴のようにいわれるディスコ「ジュリアナ東京」
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森永卓郎さん(以下、卓郎):私は、今起こっている現象は人類史上最大のバブルだと思っています。もうすぐ弾けて、その後とてつもない恐慌が世界を襲う。バブルというのは世界同時に起こるんです。今回のバブルはもう世界共通なんですね。
1920年代末のアメリカは自動車と家電のバブルでした。自動車産業のビッグ3や家電企業に異常な株価がついた。それはいつか崩壊します。1929年10月24日の「暗黒の木曜日」に暴落が起こって、3年弱で株価が10分の1になった。今、その時代と同じようなバブルが起きているので、今の株価も10分の1くらいまで落ちるだろうと見ています。それだけじゃなく、私は今回のバブル崩壊をきっかけに、資本主義そのものが終わると思っています。
マルクスが予言していましたが、資本主義の限界がどこに来るかというと、四つある。ひとつは異常、ないし許容しがたいほどの格差が生まれる。二つめが地球環境が破壊される。三つめがブルシットジョブ、「クソどうでもいい仕事」が爆発的に増える。四つめが少子化。これはもうみんな来ているわけです。
■バブル庶民は無関係
森永康平(以下、康平):僕は今の日本の株価水準がバブルだとは思っていません。バブル時とは現在の日本企業の稼ぐ力や稼ぐ額が全然違うので。生活実感と株価が乖離しているとよく言われるんですが、生活実感を表すのが日経平均株価ではないので、そもそも比較することがおかしい。
卓郎:80年代後半のバブルの時も、庶民は関係なかったんだよ。バブルだったのは金融と不動産と商社とメディアだけです。バブルだから国民全体の暮らしが良くなるということはない。それはバブルが1630年代に初めて起きてから、一貫してそうだと思います。
実質賃金が低下していて、個人としての生活水準はずっと悪くなっているという今の経済状況の一番の元凶は、財務省だと思っています。消費税を含めて手取りを見ると、1988年よりも今の方が少ないんですよ。手取りは名目ベースでも減っているんです。
庶民の暮らしがよくなっていない最大の原因は、財務省が増税と社会保険料のアップをやってきたから。逆に言うと、消費税を撤廃したりすれば庶民の暮らしはよくなるんです。
康平:緊縮的な政策はもちろん、それ以外で言うと、バブル崩壊以降の処理をミスったこと。景気がいい時は銀行が用もないのにお金を貸し付けてきたのに、バブルが崩壊して一番お金が必要になると、逆に貸しはがしをしたわけですよね。そうすると、銀行には頼るべきではないという考えになるんですよ。
平時では人件費を抑えて利益をいっぱい出して、それを何かあった時のための資金にしようとするわけですよね。ただ、バブル崩壊みたいなことって、そんなに頻繁に起こるわけじゃない。なのに、もしものためにといって毎年人件費を上げないで利益を繰り越して内部留保を増やして備えるということをずっとやってきたわけですよね。
そうすると何も生み出さないお金が貯まっていくので、外国の投資家からすると非常に非効率な経営をしていると映るわけです。貯めているお金を投資に回せ、もっと効率的に金を使えと。そのようなお金の使い方ができないんだったら、お前らは経営陣から外すぞと圧力をかけられるので、すいませんでしたということで配当を出す。それで本来人件費に回っていてよかったはずのものが、配当という形で株主に出ていってしまっている。そういう問題点はあると思います。
それは今も続いていて、例えば法人企業統計を見てみると、1人当たりの給料も1人当たりの役員報酬もほとんど横ばいなのに、配当だけはおかしなぐらい右肩上がりで上がり続けている。本来だったらもうちょっと労働者がもらえているであろう人件費が、配当に回されちゃっている。それが今の格差社会を生み出している元凶。そこはたぶん親父と同じだと思うけど。
■強引な不良債権処理
卓郎:ちょっとだけ違うんですよ。銀行を悪者にすることもできるけれども、さっき言った財務省の緊縮政策と両輪でやったのが、アメリカの圧力に屈したということなんですね。特に小泉政権時に当時のブッシュ米大統領の圧力で、不良債権処理を強引にやらされたわけです。
不良債権って、バブル期に調子に乗って誰も来ないようなテーマパークを作ったといったようなイメージを持つ人が多いけど、それは数パーセントに過ぎないんです。不良債権の大部分は、担保割れだったんですね。
バブル崩壊で大都市の不動産価格がオーバーシュートして下がり3分の1以下になった。その結果の担保割れにどう対処するかというと、一つはその企業を全部潰してしまえというのと、もう一つはいずれ価格は戻るんだから放っておけばいい。小泉政権は片端から潰しにいった。
つまり小泉政権の時に不良債権処理をしなければ日本経済ははるかによくなっていた。やらなくていいことをやって従業員を失業者にして、日本の大切な企業資産を二束三文でハゲタカに売り飛ばしたわけです。だから日本の経済力が大きく落ちた。
そして1985年の日本航空123便の墜落事件以降、対米全面服従路線が始まるんですよ。典型的なのが、85年のプラザ合意で、為替を2倍の円高にさせられたんですね。翌86年に日米半導体協定を結ばされて、それまで5割だった世界シェアが今1割を切るところまで落ちた。
その後日米構造協議があって、片っ端からアメリカの要求をのまされるようになる。そして「年次改革要望書」という、アメリカがここに何か書けば日本は全部服従しなきゃいけないという日本経済の「デスノート」なんですが、小泉内閣のときにそこにいたる流れが作られました。そんなことをやっていたら、経済は落ちるに決まってるわけです。10年以内にベスト10からも落ちると思う。
(構成/編集部・秦正理)
※AERA 2024年3月25日号より抜粋
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