オスプレイ飛行再開(2024年3月23日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 地名のいわれは奥深い。以前、岡山市の吉井川河口辺りを地元の古老と散策した折「ビシャゴ岩」を紹介された。岸から数十メートル離れたところにぽつりと浮かび、灯台が建っていた

▼お隣、兵庫県赤穂市にも同名の巨石がある。山頂にそびえ、眼下に瀬戸内海が広がるそうだ。ビシャゴはタカの仲間ミサゴの地方名で、どちらの岩も、捕らえた魚をその上で食べる姿がよく見られたことが由来という

▼ビシャゴの響きは愛嬌(あいきょう)があるが、英語名の「オスプレイ」は聞くとどうにも落ち着かない気分になる。先週の在日米軍に続き、陸上自衛隊が輸送機オスプレイの運用を再開した

▼昨年11月に鹿児島県沖で米軍機が墜落した事故は、まだ記憶に新しい。米軍は全世界で飛行を止めて原因を調べていた。これまで国内外で事故を繰り返してきたのだから相応の説明があってしかるべきだろう

▼しかし「特定の部品の不具合」としか明かされず、詳細は伏せられたままの離陸となった。政府は「優れた機体」が南西諸島の防衛に欠かせないとする。もし市街地に墜落したら―という住民の不安に本気で向き合っているか

▼水辺でホバリングし、獲物を見つけると一気に降下するミサゴ。“本家”が国の準絶滅危惧種に分類される一方で、陸自のミサゴは配備数を今より増やし、幅広い地域の空を飛ぶ見込みだ。