概算要求最大 金利ある世界で財政規律守れ(2024年9月4日『読売新聞』-「社説」)
各省庁による2025年度予算の概算要求が締め切られた。総額117兆円超と、2年連続で過去最大となる見通しだ。
例年と異なるのは、日本銀行の金融政策の正常化に伴い、金利のある世界が復活したことだ。財務省が、国債費を積算する際の想定金利を引き上げた結果、国債費は、24年度の当初予算比で2兆円近く増え、28・9兆円に達した。
日銀は、今後も利上げを進めていく見通しで、国債費の増大が今後さらに、財政を圧迫していくことが避けられない。政府は、財政規律を守り、よりメリハリの利いた予算を目指さねばならない。
だが、今回の要求内容からは、そうした転換期を迎えているという問題意識はうかがえない。24年度に続き、金額を明示しない「事項要求」が乱発され、70件超に上るとみられているからだ。
もともと、事項要求は、政策の先行きが見通せない場合に、数字を見積もることが難しいことを踏まえた特例だ。新型コロナウイルス対策で数多く認められた。
コロナ禍が収まった昨年6月には、「歳出構造を平時に戻していく」との方針を示したが、歳出の拡大圧力は強く、24年度予算を要求する過程では、少子化対策や物価対策など平常の政策課題についても幅広く事項要求を認めた。
25年度も、この方針を踏襲したことで、さらに財政規律の緩みを招く懸念がある。
事項要求には「大阪・関西万博の会場整備」や「食料安全保障の強化」など、金額の提示が可能だと思われる項目が少なくない。
それにもかかわらず、金額を示さないことによって、要求額が青天井になり、予算全体の規模も膨張させかねない。
厳しい安全保障環境に対応する防衛力の強化や、少子化対策などには、引き続き必要な予算を確保していくことが不可欠だ。脱炭素や人手不足に対応する省力化など、日本経済の成長に資する分野へも重点的に配分したい。
財務省は、重点分野に予算を投じるために、今後の査定で、政策効果の低い歳出を、極力、抑制していく必要がある。
「金利のある世界」が復活し、借金頼みの財政に負担がのしかかる。そんな深刻な事態への危機感を欠いているのではないか。
2025年度予算の編成に向けた各省庁の概算要求が締め切られた。総額は117兆円規模と2年連続で過去最大となる見通しだ。
金額を示さない事項要求も相次いだ。半導体の量産支援や国土強靱(きょうじん)化、物価高対策と幅広い。
本来は、コロナ禍など先行きが不透明で、予算が見積もれない事態に対応する例外的措置である。青天井の要求で多額の予算を獲得しようとしているのなら、財政規律の緩みに拍車をかけるだけだ。
既存予算を削ることで要求を増やせる特別枠を設けたが、効果的な配分につながるのか疑問だ。
一例が、ITで地方活性化を図るという「デジタル田園都市国家構想」である。首相が就任当初から推進してきたが、東京一極集中は一向に是正されていない。成果の乏しい事業をいつまで優遇するのだろうか。
要求が膨張した背景には、衆院選をにらみ、与党で歳出拡大の圧力が強まっていることがある。
政府は健全化の指標である基礎的財政収支が25年度に黒字化すると見込むが、税収の高い伸びを当てにしたものだ。楽観的な試算に寄りかかって大盤振る舞いを続ければ借金漬けから抜け出せない。
新政権は放漫財政を踏襲せず、立て直しの道筋を示すべきだ。
次の首相は規律なき予算膨張に歯止めを(2024年9月3日『日本経済新聞』-「社説」)
財務省は2025年度予算の概算要求を締め切った
2025年度の予算編成が本格化する。規律なき歳出の膨張に歯止めをかけ、新たな成長につながる「賢い支出」を徹底しなければならない。次の首相が避けて通れない課題だ。
財務省は8月末に来年度予算の概算要求を締め切った。一般会計総額は117兆円を超し、2年連続で過去最大となる。
110兆円を上回るのは4年連続だ。新型コロナウイルス禍で常態化した予算の水ぶくれが、抑制される兆しは今のところない。
来年度の予算編成は、これまでと大きく異なる環境下で進む。日銀が利上げを開始し「金利ある世界」が現実になっているからだ。
借金を返すのに必要なお金が増える一方、物価高もあって歳出を減らす余地は小さい。
防衛省は24年度予算比で7.4%増の8兆5千億円あまりを求めた。8兆円を超えるのは初めてだ。敵のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の運用に使う衛星網の整備費などを計上した。
日本を取り巻く厳しい安全保障環境を考えれば、防衛力の増強に必要な予算を投じるのはやむを得ない。ただ、無駄な要求が本当にないかは徹底的に検証すべきだ。防衛省・自衛隊の不祥事が相次ぎ、国民が不信の目を向けているときだけになおさらだ。
厚生労働省の要求額も約34兆3千億円で、過去最大となった。高齢化に物価高が重なり、予算の膨張が止まらない。デジタル化で経費を抑えると同時に、医療制度などの改革で歳出を抜本的に減らす努力を怠ってはならない。
政府は今回の概算要求でも、各省庁が重要政策と位置づければ具体的な必要額を示さなくてよい「事項要求」を認めた。規律が働きにくく、要求額が青天井になりかねない仕組みだ。
年末に向けた予算編成は無駄の多いバラマキ型の歳出を徹底的に絞り、半導体や脱炭素といった成長分野への「賢い支出」に振り向ける作業になる。政治のリーダーシップが何よりも重要だ。
財政の健全化と成長をどう両立させるのか。事実上、次の首相を決める場となる自民党総裁選で各候補に問いたい。
予算の概算要求 効果見極め重点化を図れ(2024年9月3日『産経新聞』-「主張」)
令和7年度予算編成で各省庁の要望を受け付ける概算要求が締め切られ、一般会計の要求総額が117兆円を超えて過去最大となった。金額を明示せず事業内容だけを示す「事項要求」も多く、実際の歳出圧力はさらに膨らむことになる。
政府内で年末に向けて要望の中身を精査する。その際、必要性が高く重点的に配分すべき歳出と、効果が十分に見込めない事業を厳しく峻別(しゅんべつ)すべきは当然だ。国民の税金を有効に使う取り組みを徹底してほしい。
特に心得ておくべきは財政環境の変化だ。日銀による金融政策転換で「金利のある世界」が復活し、国債の利払い費の増加が見込まれるようになった。これが歳出圧迫の構造的要因になろうとしている。野放図な財政が許される状況にはない。
政府内では7年度予算案とともに、岸田文雄首相が表明した今秋の経済対策に伴う6年度補正予算案も検討される。いずれも自民党総裁選後の次期政権に継承される課題である。総裁選においては責任ある財政運営の議論も深めてもらいたい。
概算要求が膨らんだのは、長期金利の上昇を見込み、国債の利払い費を算出する想定金利を引き上げたことが大きい。超低金利ゆえに新規国債を発行しやすかった従来の金融環境は変わった。利払い費の増加は、国債頼みの財政運営に変革を促すものだと認識すべきだろう。
防衛費や社会保障費も膨らんだ。ただ、厳しさを増す安全保障環境に対応する防衛力強化などは最優先の政策課題だ。必要な政策には十分な財政措置を講じなくてはならない。
だからこそ個々の政策の優先度を見極めて重点化や効率化を徹底すべきだ。物価や人件費の高騰で政府調達や予算執行コストが高まったものもあるが、これをいかに低減できるか。あるいは、賃上げ実現などの看板政策に必要な経費を要求できる特別枠「重要政策推進枠」の事業の中に、各省庁で似通ったものが紛れ込んでいないか。こうした点を十分に精査した上で効果的な予算配分に努めたい。
概算要求 持続できる財政運営探れ(2024年9月3日『中国新聞』-「社説」)
2025年度の政府予算編成に向け、各省庁の概算要求が出そろった。一般会計の要求総額は24年度に比べ3兆円程度増えて117兆円超となり、2年連続で過去最大を更新している。高齢化を受けた社会保障費の増加や防衛力強化などで規模が膨らんだ。
日銀が長年続けた大規模な金融緩和策を修正して初の予算編成となる。財務省は国の借金である国債の返済や利払いなどの国債費として、当初予算ベースで最大の28兆9116億円を計上した。このうち利払い費は、その計算で用いる想定金利を1・9%から2・1%に引き上げ、10兆9320億円に上る。
利払い費が増え続ければ、他の政策に使う経費を圧迫し、物価高に苦しむ家計や中小企業への支援、将来の成長を見据えた投資に支障が出る恐れがある。「金利のある世界」を迎え、借金に頼らない財政運営を探るべきだ。
社会の変化を見据えたコスト増には避けられないものも多い。厚生労働省は医療介護サービスの人材確保や認知症対策に重点的に配分を求めた。文部科学省は公立学校教員の給与に残業代の代わりに上乗せする「教職調整額」の増額を盛り込んだ。少子化対策やデジタル化、防災対策強化も挙がっている。
防衛費の増加は突出した感がある。今回、初めて8兆円の大台に乗った。27年度までの5年間に43兆円を投じる政府方針に沿った形ではあるが、金額ありきの計上になっていないだろうか。
今回も、金額を示さない「事項要求」が目立った。物価高対策など予測が難しい場合の特例のはずだ。見えないところで金額を水増しするかのような手法がまかり通っていいわけがない。
新型コロナウイルス禍で急増した歳出を、コロナ前の水準に戻していくのは当然である。岸田政権は経済財政運営の指針「骨太方針」で「歳出構造を平時に戻す」と打ち出したが、改めた姿勢は概算要求からうかがえない。
歳入は、円安で潤った企業からの法人税に加え、物価高で消費税収が上振れする見通しだ。しかし一部は国民の苦しみに伴うものであることを決して忘れてはならない。無駄遣いにつながるバラマキの発想をやめ、財政規律を立て直す必要がある。
国と地方を合わせた債務残高は1300兆円に迫り、主要国で最悪の水準にある。財政の再建は待ったなしだ。
今秋には自民党の総裁選と立憲民主党の代表選がある。新首相が衆院解散・総選挙に踏み切ることも視野に入る。与野党を問わず、歳出圧力が高まる可能性がある。概算要求はいわば途中経過に過ぎない。実際の予算編成を担う次期政権には国民目線で要求の中身を洗い直し、めりはりの利いた査定を求める。
【防衛費概算要求】実態が伴った増額なのか(2024年9月3日『高知新聞』-「社説」)
課題に対処するために必要な施策なのか実効性を見極め、予算規模を検討する必要がある。財政の健全性への意識を欠いては将来世代に負担を残すことになる。
2025年度予算編成で、各省庁からの概算要求は一般会計の要求総額が117兆円を超えた。2年連続で過去最大を更新し、110兆円超えは4年連続となる。
防衛省の要求額は8兆5389億円と過去最大となった。8兆円の大台に乗ったのは初めてだ。
他国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)にも活用する長射程ミサイルの配備を始める。また、艦艇などの侵攻を捕捉するための小型衛星網「衛星コンステレーション」を整備し、反撃能力にも活用する。
防衛力の抜本強化に向けて23~27年度に計約43兆円の防衛費を投じる計画に沿った。22年度当初の約5兆4千億円から23年度は約6兆8千億円、24年度は7兆9千億円超と急激に増額してきた。
だが、23年度に計上した防衛費に多額の使い残しが判明している。予算の増加に対して業務や人員確保が追い付いていない状況が指摘された。実態が伴わないようでは精査不足が疑われる。
一方で財源の一部を賄う増税は開始を先送りしている。税収の上振れでの対応を求める意見もあり、安定財源の確保は定まらないまま予算規模の拡大が続いている。
安全保障環境は複雑になり、政府はあらゆる選択肢を排除しないとの姿勢で安保政策の抜本的な見直しを進める。国民も防衛力への関心が高いが、同時に平和主義が変容しないか警戒感は根強い。世論は7割近くが専守防衛の厳守を求める。また東アジアが軍拡競争に陥らないように注意が必要だ。
自衛隊では特定秘密のずさんな取り扱いや手当の不正受給など不祥事が相次ぎ発覚し、信頼は大きく揺らいだ。組織の在り方に厳しい視線が向けられていることを自覚した立て直しが急務となる。
概算要求の総額が拡大する中、国債費は29兆円近くを計上した。国債の利払い費がかさみ、当初予算ベースで最大となる。日銀の金融政策修正に伴い金融市場の長期金利が上昇するため、利払い費の計算で用いる想定金利を引き上げた。
防衛費にとどまらず、高齢化による社会保障費も増大する。財源不足に陥れば防衛費も制約される。実態を精査した上で、国民への説明責任を果たすことが求められる。
防衛費概算要求 規模ありき 検証必要だ(2024年9月2日『北海道新聞』-「社説」)
防衛費概算要求 規模ありき 検証必要だ(2024年9月2日『北海道新聞』-「社説」)
防衛省は2025年度の概算要求で、過去最大の8兆5389億円を計上した。8兆円台となるのは初めてだ。
安全保障関連3文書で定めた5年間の防衛費を総額43兆円とする計画の3年目に当たる。
規模ありきで既得権益のように毎年拡大しているが、妥当性や費用対効果がどこまで適切に検証されているかは疑わしい。
昨年度は使い切れずに国庫に返納する不用額が約1300億円にも上った。財源の裏付けとなる防衛増税の実施時期も定まっていない。
このまま多くの問題を抱えたまま、拡大一辺倒で進むのは無理がある。立ち止まって計画を根底から見直すのが筋だ。
いずれも敵基地攻撃能力(反撃能力)に活用できる想定だ。
オスプレイは、昨年11月の鹿児島県での米空軍機墜落の根本原因がいまだ特定されていない。構造的欠陥の疑いが拭えない以上、速やかに飛行を停止し、全て撤去するべきだ。
力は増強すればするほど、地域の緊張を高め、日本がその最前線に立つことにもなりかねない。米国の安全保障政策と限りなく一体化し、追従姿勢を強める現状は改めねばならない。
気になるのは、物価高や円安を踏まえ、自民党や経済界などから43兆円の計画をさらに増やす要求が強まっていることだ。
恒常的な隊員不足が続く中、装備ばかり増強しても、訓練も体制も追いつかず、使いこなせなくなるのは目に見えている。
川崎重工業の金品提供疑惑はなお調査中で、事実関係も明らかになっていない。予算執行は国民の信頼が大前提であることを肝に銘じるべきだ。
9月には自民、立憲民主両党の党首選がある。防衛費のあり方を大きな争点とし、徹底的に議論しなければならない。
防衛費概算要求 予算増は信頼回復が前提だ(2024年9月2日『読売新聞』-「社説」)
厳しい財政事情の下での増額は、国民の信頼の上に成り立つことを自覚すべきだ。
防衛省が、2025年度予算の概算要求で過去最大となる8兆5389億円を計上した。防衛力を強化するため、政府は23~27年度の5年間の防衛費を総額43兆円とする計画を決めている。防衛費が8兆円超となれば初めてだ。
国際秩序が揺らぐ中、北大西洋条約するため、少人数で運用できる新型護衛艦の建造や、処遇の改善も進める。最新鋭の装備を導入しても、それを扱う人材が足りなければ話にならない。自衛隊にとって人材の確保は急務だ。
概算要求の特徴は、かねて不足しているミサイルや弾薬の調達を本格的に開始することだ。
具体的には、艦艇用と潜水艦用の長射程の誘導弾の取得費を計上し、計200億円を要求した。
また、慢性的な自衛官の人手不足に対応を絶たない。海自の隊員が川崎重工業から飲食代や金品の提供を受けていた疑惑が浮上した。艦艇の乗組員が、資格がないのに機密情報に触れていた事案や、潜水手当の不正受給も判明した。
手当の不正受給を巡っては、元隊員の逮捕が木原防衛相に報告されていなかった。文民統制という根幹が揺らぎかねない事態だ。
制服組だけでなく、防衛相を支える背広組まで、報告を怠った原因は何なのか。木原氏はこの問題を徹底的に調査し、再発防止策を講じるべきだ。