植物工場すくすく育て(2024年3月19日『山陽新聞』-「滴一滴」)

【農家の一日】お野菜の水やり – 野口ファーム

 野菜農家を詠んだ一首だろう。〈ナス胡瓜(きゅうり)レタスの葉色見て廻(まわ)る主治医の回診するが如(ごと)くに〉。以前、本紙の山陽歌壇にあった

▼病気や害虫にやられていないか、肥料は十分か…。すくすく育ってほしいと丹念に畑を見て回る姿が思い浮かぶ

▼さてこちらは、病虫害の心配がほとんどない野菜作りだ。クリーンな室内環境で光の量や温度、湿度、養分などを人工的に制御して野菜を生産する「植物工場」である。収益が改善し、ビジネスとして軌道に乗り始めたようだ。昨年の日本施設園芸協会の調査によると、回答があった113事業者の約6割が黒字か収支均衡だった

まるでSFの世界!? 世界最大の完全人工光型植物工場の内部に初 ...

▼季節や天候に左右されず安定生産でき、無農薬栽培も容易なのが強みだ。生産品はレタスやトマトが中心で、外食チェーンのサラダやコンビニのサンドイッチ向けの需要が伸びているという

▼植物工場は光熱費や設備費などコストが重要課題だ。だが、技術の進展や生産効率化などで、割高だった野菜価格が抑えられ、かつての「もうからない産業」から脱皮した

▼市場規模も広がっている。矢野経済研究所は工場産レタスの市場が2026年度に21年度に比べ約2倍の450億円に達すると予測する。気候変動や農業の担い手不足が深刻になる中、存在感が高まる植物工場。これからも“すくすく”育ってくれることを願う。