「泡沫候補と呼ばれても…」裏金事件で派閥政治に激変か 無派閥・野田聖子元総務大臣の総裁選は?【「ポスト岸田」候補の素顔】(2024年3月17日)

今年1月、野田聖子総務大臣は、地元の岐阜市内で行われた会合で自民党総裁選に立候補する意欲を示した。

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野田氏を慕う面々はこの突然の宣言に「知らされていなかった」と苦笑するが、当の野田氏は「いつだって意欲は持っている」と、どこ吹く風だ。 とはいえ、自民党の総裁選はただ「出たい」と言っただけで立候補できるものではない。 裏金事件で“派閥政治”が変容するなか、無派閥の野田氏にチャンスは訪れるのだろうか。

■“推薦人20の壁”

総裁選に立候補するためには国会議員20人の推薦が必要だ。 この“推薦人20の壁”によって、これまでも数多くの議員が立候補断念に追い込まれてきた。ある自民党幹部は語る。

「20とは絶妙な設定だ。集まりそうでなかなか集まらない」 派閥の全面的な推薦があればすぐに確保できる人数だが、派閥の本命ではない議員や無派閥議員にとっては大きな障壁となる。「派閥は総裁選のためにある」と指摘されるゆえんだ。 野田氏もこれに苦しめられてきた一人。

これまで3度の総裁選で推薦人を確保できず、挑戦権すら与えられなかった。 2021年総裁選。菅総理の不出馬表明により、構図は岸田氏と高市氏、河野氏の3候補に固まりつつあった。

(※肩書きなどはすべて当時)

岸田氏は出身派閥を含めた複数の派閥を、無派閥の高市氏は安倍元総理の全面的な支援を背景に保守系議員を、河野氏は出身派閥に加えて若手・中堅などの支持を集め、早々に推薦人を確保する見通しだった。

  一方、無派閥の野田氏。「今回も推薦人を集められないだろう」との下馬評が飛び交っていた。 野田氏には派閥単位の支持も望めないため、二階派竹下派の一部議員や無派閥議員の力を頼りつつ、さながら“一本釣り”で推薦人集めに奔走した。 ところが、他の陣営による切り崩しにより、せっかく確保した推薦人の“ドタキャン”も続発。陣営関係者は野田氏が無派閥議員であることを嘆いた。  「『友だちは多いが、子分がいない』という評判を覆してこなかったツケだ」

 一進一退が続く日々。推薦人20人をようやく確保できたのは告示前日の夕方、まさに土壇場の出来事だった。

陣営のある議員が周囲の目を憚ること無く「ようやくここまで来られた」と嗚咽した光景は、無派閥の議員が推薦人を確保することがいかに困難かを象徴するものだった。

■“泡沫候補”の総裁選 高級ホテルではなく無料の議員会館

いざ迎えた総裁選。たとえ他の候補と同じ土俵に乗ったとしても、陣営の幹部に言わせれば無派閥の野田氏は「どこまで行っても泡沫候補」だった。

それは資金力の差にも現れた。

大きな後ろ盾を持った他の陣営は、選対本部を高級ホテルに構える一方、野田陣営は無料で使える議員会館の一室にペットボトルのお茶。

また、ある陣営が莫大な資金を投じ、自動の電話システムを用いて党員に対して支持を呼び掛ける「オートコール」を導入するなか、野田陣営は持ち出しの携帯電話で地道に「訴える」のみ。まさに手弁当の選挙戦だった。

物量で勝てないのは一目瞭然。陣営は野田氏本人のキャラクターを最大限活用する作戦に打って出る。

野田氏は自身のライフワークでもある少子化対策「こどもまんなか」をキャッチフレーズにリベラル色を前面に押し出したのだ。

ときには森友学園問題の再調査を訴えたために党内から批判を浴びることもあったが、他の候補との差別化には成功した。

これには、「自民党の多様性をアピールできた(二階派・中堅)」と歓迎する意見もあったが、「だったら野党に行けよ(茂木派・中堅)」という冷めた声も聞こえた。

そして結果は。
 
〈国会議員票〉
岸田:146票 高市:114票 河野:86 野田:34
 
泡沫候補”の挑戦、大惨敗だった。

 

■派閥入り目指すも・・・“聖子ノート”に書きためる日々

総裁選後、野田氏は次の総裁選で勝利を収めるべく、距離を置き続けてきた“派閥”へと向かうことになる。親しい議員たちが派閥入りを助言していたからだ。

しかし、どこも門前払いだった。それらの派閥も決してイジワルをしているわけではない。

入閣の可能性が高い野田氏が派閥に入ってしまうと、その分“閣僚ポスト”が減ってしまうからだろうと陣営関係者は指摘する。

野田氏は派閥入りが頓挫して以降、原点に立ち返っていた。常に手元に置いているのはメモ帳だ。

32歳で初当選した際、中曽根康弘元総理から「政局、政策、人事、金についてノートに書き続けろ」と指導されたのをきっかけに、何十年もこの“聖子ノート”をアップデートしてきた。

書きためたのは、支持者の陳情から人物評、NATOとロシアの軍事バランス、果ては週刊誌の発行部数までも・・・。とにかく総理候補として力を蓄えることが重要だった。

■派閥解消で総裁選の環境に変化?

そんな折、自民党の派閥による裏金事件が発覚。事態打開のために岸田総理が乾坤一擲、自身の派閥の解消を表明すると、安倍派や二階派なども雪崩を打ったために、党内ではもはや無派閥議員が最大勢力となった。

派閥の存在によって幾度となく涙を呑んだ野田氏。こうした状況は有利なのではないだろうか?しかし、野田氏の周辺は口々に「それは甘い」と言う。

「派閥が解消されたことでヒトやカネの面でフェアになったように見えるが、オモテに見える派閥が無くなっただけで、結局はウラで元の派閥が一丸となるから状況に変わりはない」

前回の総裁選よりも推薦人の確保が難しくなるとの厳しい指摘も。 

「野田氏を影で応援してくれていた“(永田町の)長老”たちの判断も次の総裁選まで活きるかどうかわからない。そうなると、前回推薦人になってくれた人たちが『今回も』とはならない可能性がある」

一方で「総裁選の構図次第」というのも共通認識だ。
 
「岸田総理が解散総選挙を打った後に総裁選なのか、打たないまま総裁選なのか、それとも総裁選にすら出られず退陣するか」 

■「少子化、手をこまねいてはいけない」野田氏インタビュー

野田氏が次の総裁選に臨めば今度で5度目のチャレンジとなる。体力、財力、精神力を消耗する、はたまた人間関係も壊しかねない総裁選になぜ挑み続けるのか。野田氏に聞いた。

「この国はもう人口減少っていうすさまじい歴史の転換期にいるのに、手をこまねいてはいけないなと。普通の男の人はすぐ『失われた30年』って言うけど、私からすると『何もやってない30年』。それをやるためには、やっぱり(総理になって)大きな力を持って、ありとあらゆる能力を引っ張り出せる新しい国の形を作りたいので頑張っているかな」

泡沫候補”と呼ばれても。野田聖子議員の挑戦は続く。

TBSテレビ政治部 新田晃一