15日、連合がことしの春闘の回答状況を公表した。経営側から回答が示された771社の労働組合の平均の賃上げ率は5.28%と33年ぶりに5%を超える水準となった。
日銀は今週18日と19日に金融政策決定会合を開く。
賃金の上昇を伴う2%の物価安定目標の実現が見通せれば、マイナス金利の解除を含む大規模な金融緩和策の転換を検討するとしてきた日銀。
幹部たちの物価と賃金への認識が着実に変化しつつある中、今回の春闘の結果は“決断”への背中を押す決め手となるか。
(日銀取材班)
政策転換近づく?「変化する認識」
「物価安定目標の達成が現実味を帯びてもきているため、出口についての議論を本格化させていくことが必要」
「マイナス金利解除を含めた政策修正の要件は満たされつつある」
2月には、内田副総裁が政策転換の具体的なメニューに言及。政策決定メンバーの審議委員からも、政策転換が近づいていることを示唆する発言が続いた。
1月23日 植田総裁 記者会見
「2%の物価安定の目標に向けて、こうした見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっていると考えている」
好循環の兆し きっかけは“外的ショック”
黒田総裁時代の2013年からは、「異次元」と呼ばれる大規模緩和策を続けてきたが、なかなか物価目標の達成には至らなかった。
そんな物価に大きな変化をもたらしたのが、2つの“外的ショック”~新型コロナとウクライナ侵攻だった。
物価も賃金も「上がる」経済へ
海外発のコストプッシュによる悪い物価上昇と言えるが、その裏で広がりを見せたのが企業の価格設定行動の変化だった。
燃料や原材料の高騰に直面した多くの企業が価格転嫁に踏み出した。
物価が上がらない時代、経営者たちはコストが上がっても販売が落ち込むことをおそれ、価格転嫁に慎重だった。
これが少しずつ「値上げができる」とのマインドが出てくるようになった。
2月8日 内田副総裁 奈良市講演
「海外発のコストプッシュがきっかけとはいえ、実際に賃金が上がり、今度こそ、日本経済が変わる素地が整ってきたと感じる。デフレ期の考え方や慣行から脱却し、賃金と物価が上がる経済、そしてそれが可能なビジネスモデルを企業が工夫し、それに成功した企業が働く人から選ばれることで、全体としても成長力が高まる経済、が実現できるチャンスが巡ってきている」
引き金を引くのは…
日銀幹部たちの発言とともに市場で高まる政策転換の観測。
そんな中、1月会合以降、発言内容をほぼ変えていないのが植田総裁だ。
今月1日。ブラジルで開かれた国際会議に出席した植田総裁は記者会見で「物価目標が見通せるようになっていくか、私の考えは今のところまだそこまでには至っていない」と発言。その後も「実現の確度は高まっている」という1月会合の言い回しを繰り返してきた。
総裁は政策転換に慎重なのではないかとの受け止めもあるが、日銀内からは「委員たちの意見をまとめる立場にある総裁は、個人的見解は出さない」という見方も出る。
確かに9人のメンバーを取材していると、多かれ少なかれ景気や物価への見方やスタンスが異なる。中には、目標達成はまだ先と、慎重な姿勢を崩さないメンバーも。
こうした中、植田総裁が会合間近の13日の国会で改めて強調したのが、ことしの春闘の動向だった。
「3度目の正直」となるか
過去を振り返れば、日銀は、金融緩和を続けたこの約30年間で、2000年と、2006年から2007年にかけての2度、利上げの局面を迎えたが、海外経済の影響などでいずれも長続きせず、好循環が根づかないまま政策を修正した苦い経験もある。
18日から始まる会合が「3度目の正直」への扉を開くか。9人のメンバーが大詰めの議論を交わすことになる。