自転車の飲酒(2024年3月16日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 中学生のとき、通っていた学校の教師が近所に住んでいた。その教師は夕方になると、どこへ行っていたのか、よく片手運転で自転車をこいでいた。片方の手に持った缶ビールを時折クピクピとやりながら。

 「自転車に乗ってまで飲みたいほど酒とはうまいものなのか」と思いながら見ていた。テレビドラマのヒットで最近、昭和のよかったところ、悪かったところがクローズアップされている。では、この教師の行為は? さすがに古きよき昭和の風景とは言えない。

 少なくとも今なら絶対にアウト。教師ならばなおさらだろう。政府は先日、道交法改正案を閣議決定した。自転車の酒気帯び運転と、携帯電話を使用しながらの「ながら運転」に対し罰則が設けられるといった内容。今国会で成立すれば、6カ月以内に施行されるようだ。

 警察庁の統計によると昨年、自転車に乗って事故死した利用者が8年ぶりに前年を上回ったという。自転車が当事者となった死亡および重傷事故は、前年に比べ354件増え7461件。このうち相手が歩行者だったのは365件で、歩行者が死亡、もしくは重傷を負った事故は358件にのぼる。

 自転車といえど、決して簡単に考えてはいけないことを示すデータである。罰則の有無に関係なく、もしもやっていたなら今すぐやめたい酒気帯び、ながら運転だ。くだんの教師とは社会人になって偶然再会した。元気な姿に、心の中で「よくぞご無事で…」。