刑法犯の反転増 「安全な国」保ち続けたい(2024年3月3日『西日本新聞』-「社説」)

 日本の治安の指標となる刑法犯の認知件数が、2023年は全国で約70万件(前年比17・0%増)となり、2年連続で増加した。

 警察庁が先月発表した。戦後最多だった02年は285万件余に上り、翌年からは減少に転じて、21年は戦後最少の56万8千件台だった。

 約20年間「安全な国ニッポン」を国内外に印象付けてきた数字である。社会全体で防犯対策の推進を図り、増加に歯止めをかけたい。

 22年から増加に転じた背景には、新型コロナウイルス対策の行動制限が緩和された影響が指摘されている。

 昨年は、特に自転車盗や暴行、傷害が伸び、街頭犯罪が前年比21・0%増の約24万件となって全体を押し上げた。コロナの感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類に移行し、人の流れが回復したためとみられる。

 コロナ禍前の19年(約75万件)の水準を下回っているとはいえ、警戒は怠れない。

 急速に普及するインターネットバンキングによる不正送金事犯の被害総額は、過去最多の約86億円に上った。被害者の大半は個人で、うち40~60代が6割を占めた。

 スマートフォンで簡単に操作できることが背景にある。金融機関を装った偽サイトへの誘導に、十分注意を促す必要がある。

 振り込め詐欺などの特殊詐欺も直近10年では最多の約1万9千件を記録した。被害者の多くはお年寄りだ。警察を中心に行政、金融機関などが連携し未然に防ぎたい。

 ストーカー行為に関する相談が増加に転じ、約2万件に迫っていることも懸念材料だ。福岡市のJR博多駅近くで昨年起きた女性刺殺事件は記憶に新しい。

 交流サイト(SNS)の「マッチングアプリ」などで知り合った相手から、しつこく付きまとわれるなどの被害も目立つ。知らない相手に安易に本名を教えたり、会ったりしないよう家庭や学校で繰り返し子どもに教えたい。

 万引や性犯罪などには、本人も苦しむ強い依存性があるとされる。相談窓口の拡充など総合的な再犯防止対策が欠かせないだろう。

 肌で感じる「体感治安」はどうか。昨秋の警察庁アンケートによると、この10年間で治安が悪化していると感じる人は前年より4・8ポイント上昇し71・9%に上った。

 22年の安倍晋三元首相銃撃事件に続き、昨年も岸田文雄首相襲撃事件が起きた。最も警護レベルの高い政府要人が相次いで標的になったことなどが影響しているようだ。

 京都アニメーションや大阪・北新地ビルでの放火殺人など、何の落ち度もない人々が突然命を奪われる事件が続いていることも要因だろう。

 被告らが一方的に、なぜそこまで思い詰め、事件を起こすまで追い込まれたのか。精神医学の面からも分析し、教訓にしなければならない。