「やってあげる」感覚では本来の人権は根付かない 英国在住の学者が「思いやり」重視の日本に伝えたいこと(2024年3月15日『東京新聞』)

 
 英国在住の国際人権学者、藤田早苗さんが昨年11月から4カ月間日本に滞在し、国際人権に照らした日本の問題点について各地で講演した。労働や入管問題、障害者差別、教育行政などさまざまな分野に関心を持つ人たちが参加し、「人権について初めて学んだ」との声も少なくなかったという。行脚を終えた藤田さんに手応えなどを聞いた。(石原真樹)
人権問題について講演する藤田早苗さん(左)。右は手話通訳者=2023年11月、大分県中津市で(藤田さん提供)

人権問題について講演する藤田早苗さん(左)。右は手話通訳者=2023年11月、大分県中津市で(藤田さん提供)

 藤田さんは英エセックス大人権センターのフェロー。2013年に日本の特定秘密保護法案の問題点を国連に通報、国連特別報告者(表現の自由)の日本調査実現に尽力した。「武器としての国際人権」(集英社新書)を一昨年出版。今回は滞在中に30カ所で講演、15大学で講義した。

◆状況を改善する義務は政府に

 藤田さんが講演で強調するのが「『思いやり』と人権は別物」という点だ。日本の人権教育では優しさや親切さが強調され、「視覚障害者が困っていたら手を引いてあげましょう」などと教えられるが、その場に誰もいなければ問題は解決できない。音の出る信号の設置やバリアフリー化などを政府が進めるべきで、政府には人権が守られていない状況を改善する義務があるなどと説明する。

◆「思いやり」で起こる問題

 「思いやりも大事だが、思いやりを強調すると『やってあげている』感覚になり、障害者が声を上げると『生意気』となってしまう」。一人一人を尊重する「本来の人権」が日本に根付かない原因の一つが人権教育のあり方だと指摘すると、「はっとさせられた」という参加者が多いと明かす。
 会場で、虐待されて育ったという人に「自分には人としての尊厳があると著書で知り、助けられた」と声をかけられ、人権意識の低さに苦しむ人の存在にショックを受けたという。一方で、変化の兆しも。人権教育を担う教育委員会や行政関係から「ぜひ話を聞きたい」と講師に招かれる機会が増えた。2月のさいたま市での講演は、年金や生活保護、教育問題などに取り組む20団体が実行委員会を組織して開催、240人以上が集まった。「たこつぼ化しがちの運動を、人権を合言葉に横につなげられた。共闘する地盤ができた」ことに希望を感じた。

◆受け身では社会は変わらない

 日本人は「国連が世直ししてくれる」と受け身になりがちだが、自分たちがアクションを起こすことでしか社会は変わらないと藤田さんは訴える。「講演が良かったよ、とSNSで投稿するだけでもいい。一緒に行動しましょう」
 講演会の予定などは「日本の表現の自由を伝える会(事務局は全国市民オンブズマン連絡会議)」ホームページへ。
 
 

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