安倍派・稲田朋美氏が今だから明かす「安倍元総理と“裏金”について話したこと」(2024年3月13日)

■安倍元首相との会話

 この5年間で計算すると、派閥からキックバックがあった82万円と預かり金口座に残っていた114万円を足すと計196万円。これに対し、ノルマに達せず稲田氏が自腹で出した分が235万円。全体の収支では、39万円のマイナスだったという。なお、稲田氏はすでに196万円を派閥に返金している。

「これは5年間だけで、それ以前の年の分もありますからね。過去までさかのぼればもっとマイナスです。だから、私の本心としては、派閥のパーティーは本当はやめてほしかったです」

 安倍晋三元首相は22年4月、政治資金パーティーの現金での還流をやめるよう進言したとされる。稲田氏によれば、それ以前にも、安倍氏キックバックをやめようとしていたことがあったという。

「05年に共同通信が清和研(当時は森派)の政治資金パーティーで、割り当てを超えるパーティー券を販売した若手議員に資金の一部が還元され、派閥の政治資金収支報告書にも記載がないことから裏金化しているという疑惑を報じたんです。それがいろいろな地方紙にも配信されました。安倍元総理はこの年、幹事長代理として、党本部にコンプライアンス室を設置させています」

 そして安倍氏が亡くなる1カ月ほど前の22年初夏。安倍氏は稲田氏にこう話したという。

「安倍元総理は、『個人のパーティーができなくて、派閥のパーティーを使って政治資金を集めている議員たちがいる。返金を期待している議員たちもいて、それはかわいそうなんだが、もうノルマ超えの返金はやめる』とおっしゃっていました。現金でのキックバックとか、不記載という言葉は出ませんでしたが、安倍元総理は『もうやめる』と断言していました」

■誰がキックバックを再開させたのか

 それにもかかわらず、なぜ安倍派内でキックバックは続いてきたのか。その点は衆院の「政倫審」でも質疑されたが、真相は解き明かされていない。

「安倍元総理が亡くなられる前は、清和研の会長が最終的に何でも決めていました。安倍元総理が『還流をやめる』と決め、そして安倍元総理が亡くなられた後に、一体誰がどのような理由で(還流を)再開させることを決めたのか。いろいろな意思決定のプロセスがあったはずです。安倍元総理が亡くなられた後、誰がそうした重要な意思決定をしたのかはこの問題の本質と思います」

 さらに稲田氏は今回の検察の捜査についても警鐘を鳴らしている。

「今回、すべて検察のストーリーで党も動き、その結果安倍派議員はおしなべて犯罪集団の一員になりました。検察に言われるがままと言っても過言ではありません。議員たちの事情はさまざまであるのに、それらを無視して、政治資金の寄付を受けたとの確認書を書かされたのです。特に議員の預かり金口座にあった分は派閥の会計責任者の知らない未精算金であり、知らないお金の『不記載罪』は成立しないはずです。しかし個々の議員の会計処理の法的な意味を吟味せず、全て検察のストーリーで進んだことは、今後に禍根を残したと思います。検察にすれば自民党はくみしやすしと思ったでしょう」

 この裏金問題が引き金となり、岸田政権の支持率は急落している。2月中旬以降に発表された内閣支持率毎日新聞14%、時事通信社16.9%、朝日新聞21%、共同通信20.1%と、軒並み岸田政権発足以来の最低記録を更新した。稲田氏はそんな岸田首相に何を思うのか。

■支持率低迷の岸田首相に思うこと

「岸田首相は先頭に立って岸田派を解散し、マスコミにもフルオープンする形で、自ら『政倫審』にも出席しました。メディアでは『孤立している』『指導力不足』などと批判されますが、私は自分の意志で行動するリーダーとして高く評価しています。“根回しがうまい“ことがリーダーの資質、というのは昭和の時代の話です。一緒に食事をしたこともありますが、その席でも、岸田首相は人柄がよく、政治家のイヤな面がない。安倍元総理のほうが“政治的”だったかもしれませんね(笑)。

次期総裁選で立候補するか?

 それは考えていません。ただ衆議院議員である以上総理を目指すことは当然だと思います。今は派閥に関係なく、思想信条や政治家としての姿勢が一致する人たちと仲間づくりをしていきたいと思っています。私は安倍元総理がいらっしゃらなかったら100%政治家にはなっていません。その意味で安倍元総理が亡くなられた今、いつやめてもいい覚悟で、言うべきことは言い、正しいと思うことは恐れずに行動していきます」

 自身の裏金問題、安倍派の解散と暗い話題が多いなか、稲田氏が前向きに取り組んでいることがある。地元・福井で北陸新幹線の開業と合わせて開催される「ふくい桜マラソン」(3月31日)への参加だ。稲田氏にとって、2度目のフルマラソン参加となる。

「昨年の北海道マラソンが初マラソンで、記録が5時間1分。なので、5時間を切るのが目標です。練習は朝、日の出とともに走っています。走ることで健康になるし、あまり疲れなくなりましたね。ランニングのために時間を無駄にしたくないから、お酒も飲まなくなりました。朝の日差しを浴びて走るのって精神的にもすごくいいんです。仕事でイヤなことがあっても前向きになれるし、いいアイデアが湧いてくることもあります」

 苦しい局面こそ、強い精神力が試される――それは政治家もランナーも同じかもしれない。

AERA dot.編集部・上田耕司)