午後のおしゃべり 老境の恋愛、タブーじゃない 映画監督・松井久子さん(2024年3月13日『毎日新聞』)

 

インタビューに答える映画監督の松井久子さん=神奈川県川崎市で2024年2月26日、前田梨里子撮影

インタビューに答える映画監督の松井久子さん=神奈川県川崎市で2024年2月26日、前田梨里子撮影

 「人は老いても、毎日を幸せに生きる権利があると思います」。女性たちに数々の問題意識を投げかけてきた映画監督、松井久子さん(77)の信条である。2年前に再婚した相手と今もアツアツ、人生の春を満喫している。老境の恋愛はタブーじゃない、と訴えかけてくる生きざまの原点を知りたくて「愛の巣」をお邪魔した。

 2022年7月、「89歳と76歳 結婚しました」と松井さんがSNS(ネット交流サービス)で報告すると、次々と祝福のメッセージと「いいね」が寄せられ、その数は1200件を超えた。お相手は、思想史家で大阪大名誉教授の子安宣邦さん(91)だ。

 多摩川沿いの自宅。白髪の「新郎」に案内されて3階の書斎に向かう階段をゆっくり上る。同行のカメラマンは機材を運ぶため、自宅内のエレベーターを使わせてもらった。

 「新婦」の松井さんは、明るく染めたショートヘアに赤い口紅がこれまた華やかだ。「かれこれ25年、映画を作って、全国の自主上映会に呼ばれてお客さまに出会って。自分の体験をシェアするのが喜びになっていたの。だから私たち2人の幸せを内緒にせず、SNSで『こんな生き方もあるよ』って言いたくなっちゃったのよ」と屈託ない笑顔を見せる。

 松井さんにとっては最初の結婚が破綻してから40年以上を経ての再婚だ。…