「美人局」と「多様性」(2024年3月12日『産経新聞』-「産経抄」) 

自民党和歌山県連の懇親会を巡り、取材対応する青年局の藤原崇局長(左;世耕弘成自民党参院幹事長の元秘書)と中曽根康隆局長代理(大勲位中曽根康弘元首相の孫)=8日午後、岩手県奥州市


 娼妓(しょうぎ)が青年を誘い、後から出てきた男が、娼妓を自分の妻だと偽って青年から金品を巻き上げた。中国・元の時代に起きた事件が「美人局」の語源とされる。「つつもたせ」はもともと、サイコロ賭博で「細工した筒(つつ・どう)を持たせる」手口でインチキする意味だった。いつしか美人局をつつもたせと読ませるようになる。

大阪府警は今月7日、中学2年の女子生徒(14)と中学3年の男子生徒(15)を強盗致死の疑いで逮捕し、もうひとりの男子生徒(14)を児童相談所に通告した。女子生徒がSNSで知り合った大学生をビルに呼び出し、そこに男子生徒らが現れ、金を脅し取る計画だった。

▼女子生徒らは言葉の由来を知らないだろうが、確かに小紙記事の通り美人局の手口に間違いない。一方で逃げようとした大学生が転落死するという事件の悲惨さに、美人局の字面はそぐわないとも感じる。

▼近畿の自民党若手議員らの参加した会合に、運営を担当した党和歌山県連が、肌の露出の多い衣装をまとった女性ダンサーを招いていた。ダンサーに口移しでチップを渡したり、尻を触ったりする参加者もいた事実も発覚している。

▼「彼女たちは世界的に活躍するダンサーであり、多様性の表現として依頼したが…」。破廉恥な会合を企画した議員が、小紙の取材に対して言い訳に使った「多様性」という言葉にも、大いに違和感を覚える。

▼「政治家だからって政策を持たなくてもいいのよ。政治家は、哲学と美学を持つべきよ」。永六輔の『無名人のひとりごと』から引いた。「こんな会合をやめろ」と一喝する硬骨漢が一人もいなかったとは、驚きである。今の自民党にとってもっとも深刻な問題は、人材の「多様性」の欠落ではないか。

〈まえがき〉老いて悲しい生活
その一 ジジのつぶや〈無名人・救急録〉後期高齢者から前期高齢者へその二テレビよテレビ嗚呼
テレビ 有名な人無名人
その三 政治アンポンタン 国という国境線
その四 社会・芸能ひとりごと〈無名人・職業録〉ものづくりと芸能
その五 東日本大震災 井上ひさしさん「ガンバレ東北」
特別付録「芸人とその世界」アンソロジー話の特集』 太平洋六七〜六九年
〈真っ先に〉耳のいい人、悪い人 永六輔を知っていますか?
―プロフィールにかえて― 矢崎泰久