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「史上最悪の大統領」と互いを非難し、われこそが「最強の経済」を作り出したと自慢した。
バイデン氏が「バカな負け犬」と言い放てば、トランプ氏は「弱腰」とやり返し、「犯罪者」とののしり合った。
不倫の口止め料不正事件で有罪評決を受けたトランプ氏を「野良猫のごときモラル」と、バイデン氏がこき下ろす場面もあった。
開いた口がふさがらない。これが大統領の座を争う論戦か、と失望した有権者もいるだろう。
4年前の討論会は、トランプ氏が司会者の制止に従わず大混乱になった。その教訓から制限時間になるとマイクを消音にするなどルールを厳格にした。整然と進行したが、建設的な議論にならなかったのは残念だ。
そもそも討論会は、自らが掲げる政策の説明を尽くし、どちらが大統領にふさわしいかを有権者に判断してもらうためにある。
課題は山積している。移民、インフレ、人工妊娠中絶などを巡っては、党派の対立が激しく、選挙戦の大きな争点になっている。
しかし、いずれも実現に向けた具体的な道筋を示したわけではない。これでは、政策論議は深まりようがない。
トランプ氏が掲げる公約には懸念の声が内外に広がる。一律に高関税を課す貿易分野はその一つだ。日本も影響を受ける。
バイデン氏も高齢批判を拭えなかった。言い間違えたり、言いよどんだりする場面があり、民主党内からも不安の声が上がった。
投票まで4カ月余ある。困難な時代にあって米国のビジョンをどう描くか。世界にも目を向けた論戦を今後に期待したい。
今夏の党大会で候補が正式指名される前に討論会を実施するのは異例だ。支持率が拮抗(きっこう)する中、双方とも論戦でアピールし局面を転換する狙いがあった。
注目されたのは政策より大統領として適格か否かだった。
前回大統領選の敗北を認めないまま挑む78歳のトランプ氏は、不倫口止めに絡む事件で有罪評決を受け、さらに三つの刑事裁判を抱える。他方、81歳のバイデン氏は高齢による心身の衰えが懸念されている。
中傷合戦となった4年前の討論会ほどではなかったものの、今回も政策論争はかみ合わず、互いに「史上最悪の大統領」とののしり合う場面もあった。
分断克服に向けた議論を深めつつ、国際社会をリードしていく姿勢が何より肝要だ。
山荘にこもって準備してきたバイデン氏は、トランプ氏が繰り返す根拠の不明な発言に「うそつき」と反論したが、声はかすれ何度も言葉を詰まらせた。
高齢不安の払拭には至らなかったと言わざるを得ない。
陣営からは候補の差し替え論さえ出始めた。いずれにせよ態勢の立て直しが求められよう。
民主主義で政権移行手続きは平和的に行われねばならず、暴力で妨害されたことは歴史に残る暴挙だ。トランプ氏はその責任への自覚がいまだに乏しい。
トランプ氏は今年の大統領選の結果を受け入れるかどうかについても「公正なら」と留保をつけた。再び混乱を招けば米国の民主主義は根幹から破壊されることになろう。
ウクライナ侵攻を巡り、バイデン氏は日本など世界の50の国から支援の支持を得たとして国際協調の重要性を訴えた。
米国が再び自国第一主義となればロシアは勢いづき、国際秩序はさらに不安定化しよう。それは米国にとっても利益にならないことを忘れてはならない。
今夏の党大会で候補が正式指名される前に討論会を実施するのは異例だ。支持率が拮抗(きっこう)する中、双方とも論戦でアピールし局面を転換する狙いがあった。
注目されたのは政策より大統領として適格か否かだった。
前回大統領選の敗北を認めないまま挑む78歳のトランプ氏は、不倫口止めに絡む事件で有罪評決を受け、さらに三つの刑事裁判を抱える。他方、81歳のバイデン氏は高齢による心身の衰えが懸念されている。
中傷合戦となった4年前の討論会ほどではなかったものの、今回も政策論争はかみ合わず、互いに「史上最悪の大統領」とののしり合う場面もあった。
分断克服に向けた議論を深めつつ、国際社会をリードしていく姿勢が何より肝要だ。
山荘にこもって準備してきたバイデン氏は、トランプ氏が繰り返す根拠の不明な発言に「うそつき」と反論したが、声はかすれ何度も言葉を詰まらせた。
高齢不安の払拭には至らなかったと言わざるを得ない。
陣営からは候補の差し替え論さえ出始めた。いずれにせよ態勢の立て直しが求められよう。
民主主義で政権移行手続きは平和的に行われねばならず、暴力で妨害されたことは歴史に残る暴挙だ。トランプ氏はその責任への自覚がいまだに乏しい。
トランプ氏は今年の大統領選の結果を受け入れるかどうかについても「公正なら」と留保をつけた。再び混乱を招けば米国の民主主義は根幹から破壊されることになろう。
ウクライナ侵攻を巡り、バイデン氏は日本など世界の50の国から支援の支持を得たとして国際協調の重要性を訴えた。
米国が再び自国第一主義となればロシアは勢いづき、国際秩序はさらに不安定化しよう。それは米国にとっても利益にならないことを忘れてはならない。
11月の米大統領選を前に、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が、テレビ討論会に臨んだ。双方が相手の発言を遮って「史上最悪」と評された4年前の前回対決の二の舞いには至らなかったものの、政策論争より互いの弱点をあげつらう批判合戦が目立ったのが残念だ。
討論への米有権者の関心は高く、候補者の一挙手一投足が指導者を選ぶ判断材料となる。最も厳しい目が向けられるのが、候補者の対応能力だ。司会者の厳しい質問や相手候補の攻撃的な発言に対し、いかに冷静かつ的確な受け答えができるのかが問われる。
その意味で今回はトランプ氏に軍配が上がる。バイデン氏の声はかすれ、ぼんやりした表情で返答に時間がかかる場面もあった。対照的にトランプ氏は、約90分の討論を自信に満ちた態度で乗り切った。
支持率でトランプ氏に数ポイント差をつけられているバイデン氏には、81歳という高齢への不安がつきまとう。討論での発言や動作がこれを払拭できたとは言い難く、主催したCNNテレビによれば民主党関係者の中には動揺が広がっている。
国を二分する人工妊娠中絶問題でバイデン氏は、在任中に最高裁を保守化させたトランプ氏が返り咲けば、全米で中絶が禁止される恐れがあると批判。もう一つの焦点である国境管理でトランプ氏はバイデン政権の「ばかげた政策」によって多数の不法移民が流入し、治安が悪化していると繰り返し非難した。
分断が硬直化し民主、共和両党間で歩み寄りが困難になった米国では、約4割に上るとみられる無党派層が勝利を左右する。討論会では双方が融和メッセージを発するか否かも注目されたが、ののしり合いが際立ち、お互いの発言を「うそ」と批判し合った。
バイデン氏は、不倫口止めに絡む事件で有罪評決を受けたトランプ氏を「重罪人だ」と糾弾。トランプ氏はバイデン氏のリベラル的な政策を挙げ、米国の「破壊者」と決めつけた。
優勢を改めて印象付けたトランプ氏の発言で気になったのは、11月の選挙結果を受け入れるか否かという質問に対する回答だった。同氏は司会者に質問を繰り返されてようやく「公正で合法であれば」と条件付けをした上で「受け入れる」と述べた。前回選挙で「不正があった」として敗北受け入れを自身が拒否したことが、支持者による連邦議会襲撃事件につながった経緯への反省は見られない。
一般有権者の選挙不信も根強い。カナダの調査機関によれば、11月の選挙結果を受け入れると答えた米国民は約3分の1に過ぎない。別の機関ピュー・リサーチ・センターの調査では、政府の仕事を「常に」か「ある程度」信頼するとした米国民は22%にとどまった。1960年代には80%近い信頼を政府が得ていた歴史を振り返れば、米国の政治不信は民主主義制度を揺るがすレベルに達していると認識すべきだ。
討論会では両氏ともに、世界で尊敬される強い米国の重要性を訴えた。そうであるのなら、気候変動から戦争まで地球規模で安全保障が脅かされる現状を強く認識してほしい。両氏に期待するのは非難の応酬ではなく、政治不信を克服し平和と安定を守り抜く道を内外に示すことだ。
民主主義の健全度を測る指標のひとつに…(2024年6月29日『毎日新聞』-「余録」)
「無観客」で行われたバイデン大統領(右)とトランプ前大統領(左)のテレビ討論会=ロイター
民主主義の健全度を測る指標のひとつに、討論の実施がある。大正時代の1918年、政治学者の吉野作造が言論の自由と暴力を巡り右翼系団体と行った立会演説・討論会がその例に挙げられる。内容の評価は諸説あるが、満場の聴衆を前に夜遅くまで、ひるまず弁論を続けた吉野の姿は、大正デモクラシーの熱気を体現したと位置づけられている
▲81歳と78歳の対決にどう影響していくだろう。米大統領選で再選を目指すバイデン大統領と、返り咲きを狙うトランプ前大統領のテレビ討論会である
▲4年前、同じ二人による討論は「史上最低」との不名誉な評価が下された。相手が話す時にトランプ氏が割り込むなど、混乱に陥ったためだ。割り込み防止にマイクの消音措置をほどこし、聴衆を入れず、やっと舞台が整った
▲内外のテーマをひと通りこなし「討論」が成立したことに、まずは胸をなで下ろす。だが、発言の多くはお互いを「史上最悪の大統領」とこき下ろす非難合戦だった。両氏ともに支持しない「ダブルヘイター」の動向が注目される大統領選である。トランプ節は相変わらずだった。高齢不安説を抱えるバイデン氏が時に言いよどみ、感情的になる場面もあった
▲ふと足元を顧みれば、久々に国会で行われた党首討論も、議論がほとんどかみあわないお寒い内容だった
▲建設的な討論の実現は、政治の質の証明でもあろう。国民のリーダーを育てるシステムは健全だろうか。そんな思いも抱かせた米大統領選の無観客討論だ。
米大統領選討論 両候補とも不安がつきまとう(2024年6月29日『読売新聞』-「社説」)
米国の現職大統領と大統領経験者が、お互いを「史上最悪」とけなし、激しく非難する。どちらの候補も、米国指導者にふさわしい資質や能力を示したとは言い難い。
同じ顔触れで行われた4年前の討論会では、互いに発言を遮る場面が目立った。今回は相手の発言中はマイクが切られ、大きな混乱はなかったものの、論戦ではそれぞれの候補が抱える問題や不安材料が浮き彫りになった。
最も深刻なのは、トランプ氏が選挙結果を受け入れるかどうかを問われ、「公正で合法的」な選挙であれば従うと述べ、事実上、条件を付けたことである。
トランプ氏は、バイデン氏に敗れた2020年の選挙は「不正」だと主張した。翌21年1月にトランプ氏の支持者が米連邦議会を占拠した事件についても、「『平和的』『愛国的』にと言っただけだ」と述べ、関与を否定した。
バイデン氏は、トランプ氏が「人々をそそのかした」と断じ、今回の選挙でもトランプ氏が支持者を 煽あお って混乱を引き起こすのではないかと印象づけようとした。
トランプ氏は、不倫口止め料を不正に処理したとして5月に有罪の評決を受けた裁判についても、政治的な迫害だと訴えている。
再び大統領を目指すのであれば、民主主義の根幹を支える選挙制度や司法を軽んじるような態度は、改めるべきだ。
トランプ氏の問題発言にもかかわらず、CNNテレビが討論会の評価を視聴者にたずねたところ、トランプ氏が「勝利」したと回答した人は67%で、バイデン氏の33%を大きく上回った。
バイデン氏は声がかすれ、言葉に詰まる場面もあった。精彩を欠くパフォーマンスが、米国大統領として最高齢、81歳のバイデン氏に対し、有権者が抱く不安をさらに広げたのは間違いない。
11月の決戦では、トランプ、バイデン両氏のどちらも好ましくないと感じる「ダブルヘイター」の動向も注目されている。異例の選挙戦がもたらす米国の混乱は続き、日本はじめ世界にとっても大きな試練となるだろう。
米大統領選の討論会は2人の候補が中傷合戦を繰り広げた=AP
81歳と現職の大統領で最高齢のバイデン氏はしわがれ声と言いよどみが目立ち、精彩を欠いた。政府債務に関する質問では、回答が要領を得ない場面もあった。
トランプ前大統領は質問をはぐらかし、虚偽を織り交ぜた主張を一方的にまくし立てた。選挙結果を受け入れるかを問われた場面が典型だ。「バイデン氏は私たちを第3次世界大戦に近づけている」などと話題をそらし、さらに2回聞かれてようやく「合法的で公平なら受け入れる」と答えた。こうした手法は有権者を誤った判断に導きかねず、問題がある。
4年前はトランプ氏がバイデン氏の発言を幾度も遮り、罵るなどして「史上最低の討論会」と米メディアに酷評された。今回は相手の発言中はマイクの音声を切る措置がとられたこともあり、大きな混乱はなく進行した。もっとも、双方が「史上最悪の大統領」と罵り合うなど、中傷合戦は変わらなかったのは残念だ。
トランプ氏は「就任前にロシアとウクライナを停戦させる」と豪語したが、その道筋は定かではない。加盟国が適切な国防費を負担しない限り、北大西洋条約機構(NATO)を支持しないとの持論も改めて展開した。NATOの結束を弱め、ロシアを勢いづかせかねない発言は慎むべきだ。
バイデン氏はパレスチナ自治区ガザの衝突に関し、自身が提案した停戦案の重要性を訴えた。もっとも、それをどう実現させるか説得力のある説明は乏しい。私たちが聞きたいのは、世界の安定に資する力強い言葉と処方箋である。
実りある討論会だったとは言えまい。力の信奉者である専制国家が国際秩序を脅かす動きを進める中、世界の平和と安定をどう守っていくのかは、火急の課題だ。
世界一の経済・軍事大国で、最も強い影響力を持つ米国の大統領候補にまず語ってほしかったのは、その覚悟と具体的な政策である。
いずれも生活に直結する、米国民の関心が高いテーマだ。これらが論じられるのは当然だろう。一方で国際秩序の最大の攪乱(かくらん)要因である中国について語らなかったのは問題である。
中国は台湾への軍事力行使を否定せず、頼清徳政権への圧迫を強めている。南シナ海でも中国は、強引な軍事拡張を続け、フィリピンと摩擦を強めている。先端技術窃取の疑いなど、経済安全保障上の観点からも脅威である。
両氏には、9月に予定される次回討論会を含めた今後の論戦で、中国に対する姿勢や政策を語ってもらいたい。
ロシアの侵略を受けるウクライナについても議論は深まらなかった。
バイデン氏は「欧州の大きな戦争が欧州だけで収まったことはない。(侵略は)世界の平和に対する深刻な脅威だ」と述べ、政権が行ってきたウクライナ支援の意義を強調した。
トランプ氏は、「プーチン(露大統領)が一目置くような米大統領だったら侵略はなかっただろう」とバイデン氏を批判した。さらに「次期大統領に決まったら、解決に乗り出す」と発言したが、両氏ともロシア軍の全面撤退や和平を実現する具体策を示したわけではない。
トランプ氏は、「イスラエルに最後まで仕事をさせるべきだ」と主張し、自身が大統領だったらガザでの戦闘も起きなかった、と持論を展開した。
討論会で両氏は、互いを「史上最悪の大統領」「噓つき」と呼んで非難した。政策論争ではなく、個人攻撃が目立ったのは残念だ。