戦闘機の輸出 国会軽視の決定危うい(2024年3月10日『北海道新聞』-「社説」)

 自民、公明両党は、日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機について、日本の第三国輸出を認める方向で調整に入った。
 輸出対象を次期戦闘機に絞り、戦闘している国を輸出先から外すなどの歯止め策を講じた上で、月内にも合意する見通しという。
 公明党は当初「国民への説明が不十分」として慎重姿勢だったが、岸田文雄首相の参院予算委員会での答弁を受けて軟化した。
 あまりに拙速な対応ではないか。これで国民から十分な理解が得られたとは到底言えまい。
 戦闘機は紛れもなく殺傷兵器だ。他国に渡れば人を殺し、紛争を助長しかねない。輸出解禁が憲法の平和主義に逆行するのは明白だ。安易な転換は認められない。
 政府は近年、安全保障政策について、与党の事前協議を経て閣議決定することを繰り返している。
 国の重要政策が、国権の最高機関を通さずに決められれば、議会制民主主義はますます形骸(けいがい)化する。与野党は国会が関与する仕組みづくりを真剣に議論すべきだ。
 首相は参院予算委員会で、次期戦闘機の第三国輸出について「その仕組みを持たなければ、国際共同開発のパートナー国としてふさわしくないと認識される。日本の防衛に支障を来す」と強調した。
 英伊が量産効果による価格低減に向けて輸出に力を入れており「わが国にも同様の対応を求めている」とも説明した。
 発言から透けるのは、中国をにらみ米国以外の国とも安全保障関係を強化したいとの思惑ばかりだ。憲法に基づき譲れぬものは譲れぬとなぜ主張できないのか。
 首相は輸出が「国益になる」と訴えるが、戦後築き上げた平和国家としての理念が揺らげば、他国の不信を招く一方だろう。
 歯止め策が効果的に機能するかも極めて疑問だ。仮に輸出先を非戦闘国に絞っても、その先に転売される可能性は否定できない。
 公明党は昨年夏、第三国輸出を容認する方向でいったん自民党と合意したが、年末に慎重姿勢に転じ、今回また元に戻った。
 こうした支持者向けの見せ場づくりのような抵抗アピールは、過去にも繰り返されてきた。
 「平和の党」の旗印より、自民党との連立維持を優先する内向きの姿勢が際立つ。
 与党の事前協議は、非公開で行われ、メンバーは十数人しかいない。首相は、国民代表が集まる国会の場から逃げず、きちんと批判の声にも向き合うべきだ。